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19話


「はぁっ」


 悲鳴のようなそれと共に起き上がった身体が鼓動を早め滲むような汗をかきながら貧血を起こしたように半身が前のめにりなる。


 荒くなった息を落ち着かせようと大きく息を吐けば次第に鼓動は平常を取り戻していく。



「なぜ、こんなにも悲しいの」


見慣れたシーツを痛いほど握りしめる手の周囲に染みが広がっていく。

 頬を伝って止め処もなく落ちていくそれは、止むどころか益々辺りを濡らしていく。



 胸が押し潰されそうなほど痛い、何故、何故。私は、あの時。

 混乱した頭は混沌へと引きずられていくような錯覚に陥る。痛みを逃がすように強く瞼を閉じれば残像が思考を掠めた。そこでハッと目を見開けば自身が何を見ていたのか手探りながら思い出そうとした。



「そう、夢。私はまた、あの夢を見ていた。でも、あれはいつもとは違うなにか。あれは……」


 途端、色が鮮明に現れた。



「赤い瞳……」


 表情がぼやけてはっきりと分からないのに何故か瞳の色だけを鮮明に思い出したのだ。

 灼熱に燃え上がるような色とは違い柔らかな印象をもったその色はどこか影を持ち、どこか、




『アディ……』






 咄嗟に何が起こったのか分からなかった。セルシアの足元から突如文字が浮き上がったのだ。



「これはあの部屋の」


 それは凄まじい吸引力をもったように彼女の身体を掛け登りベッドから奪うように持ち上げた。

 空中に浮いた状態の身体は抵抗するすべもなく掛け上がった文字たちは彼女の光力を奪うように強引に身体から引き剥がしてくるのだった。


 余剰のように漏れでた赤色の光をも逃がさぬ強引な威力はぐるぐると掛けのぼってくる。

 振りほどこうにも身体の力が入らず悔しげに滲む瞳を部屋のドレッサーの鏡ごしに見えた。




 いつもの私なら、ここで諦めていた。

 けれど今の私は違う。





ーー「君はまるでからっぽだ。どんなに注いでも器が壊れたままじゃ何も感じれない。無益じゃない、害悪だ」



 胸の奥に強く打ち付けられたあの言葉が私にある力を与える。



 何も、知らないくせに。私がこれまでここでどう過ごして来たのかなんて、何も知らないくせに。


 

 沸々と沸き上がるそれは瞳に色を持たせる。だらりと伸ばされた指は次には強く握りしめ歯を食い縛り力の限り叫んだ。



「誰の権限において、私に触れていいと許可した!」



 瞳の周りを赤色の光が猛火となって強く照らす。

 息を切らしながらもその光は衰えるどころか益々力を増幅させる。こんな力は初めてだ。不意に鏡を見ればそこに写し出されたその色は絶対的な支配の力の象徴であった。

 途端、浮いた身体は地面へと足をつけ、身体に巻き付いていた文字が逃げるように床一面に分散していく。

 なんとも呆気ない去り方に周囲を見渡せばいつもの閑散とした彼女の部屋だった。セルシアは邪魔な思考を振りきるように首を振れば部屋から出る扉へと手を伸ばした。




 廊下を歩けばいつもとは違う光景が広がった。薄紅色の光力が廊下のあちらこちらに施されていたからだ。流し目でその文字を辿れば対したことのない、日常で使われる術式ばかりだ。




 足はそのまま外へと向かった。刈り上げられた芝生を踏み込んでそこで初めて裸足だったことに気づいてようやく歩みを止めたのだった。

 風がプラチナブロンドを緩やかに誘い舞い上がらせた。それに釣られるように快晴の空を見上げた。



「空にまで術を張り巡らしてるのね。術というより結界の膜かしら。今まで気が付かなかったわ」



 ポツリと呟いて快晴の空に広がるその色は自然に溶け込みどこか、寂しくみえた。

 



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