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12話

だいぶ遅れてすみませんでした。

少し過激な所があります。

 あれから三年経ち、八歳になったセルシアは両手に持っている本をパタンと閉じれば横にあるテーブルへと置いた。

 髪を両サイドに分け緑色のリボンで結えばプラチナブロンドの髪が動く度にふわふわと揺れる。テーブルには侍女のカーナが入れてくれた紅茶がまだ湯気がたっていることから全然時間が経ってないことに愛らしい唇から自然と溜め息がこぼれる。


 不意に蒼翠の瞳が横へと向けられればいつも横に座っているリードが見当たらない。彼だけでなく両親も屋敷には不在である。セルシアが一人屋敷に残る形になった訳は三年前から新たに置かれた国の制度によるものだった。その為セルシアを除いた家族は前日に領地を出て、昨夜に王都の屋敷へとたどり着いたはずだ。

 本来セルシアも同伴する予定だったが生憎彼女は旅立つ前日に熱を出し母親のシーナは領地に残り彼女に付いていようとしたが定められた制度により惜しむようにセルシア一人を残して王都へと向かったのだった。


 セルシアは何かを振りきるようにテーブルに置かれた薄水色の手紙を手に取った。

折り畳まれた紙をカサリと開くと見慣れた文字に目を走らせる。手紙を見終わればテーブルには花模様の施された手紙とその横に包装されたプレゼントを見比べた。



「今日はリードの誕生日……」



 手紙にはリードから王都に着いたこととセルシアへの気づかい、そして彼の誕生日について書かれていた。

 本来ならば今日王都にてリードに直接渡していたプレゼントが寂しそうにテーブルに置かれている。


 明日には帰ってこれるそうなので屋敷は一日遅れだがリードの誕生日を祝うために先程から部屋の外は足音が止まることなく動いている。勿論セルシアの侍女であるカーナもセルシアの指示により皆と共に動き回っているだろう。


 手紙をテーブルに置けばソファーから立ち上がり窓際へと歩いていく。

この部屋は外の中庭に出入りが出来る部屋で窓を開ければ少し冷えた風がセルシアの髪を揺らした。

 整理された地面に足を付けば彼女の目はあちこちと動き回る。誰も居ない事を確認すればセルシアは庭の奥、立ち並ぶ木々の森へと蒼翠の瞳でじっと見つめた。

そして何かに引き寄せられるように彼女は歩きだしたのだった。


 屋敷を振り返りもせず進む彼女は慣れない森の中を辿々しく歩きだす。彼女を照す太陽が徐々に移動していることに気づいた様子はない。

 ある一点に向かって歩く彼女は不意に両手を地面へと付けた。そこで漸く呼吸が乱れ足元の痛みに眉をひそめる。そこでハッと我に返るように周りを見渡せばそびえ立つ木々に囲まれ、森の奥深くへと来てしまったことに顔が青ざめる。そして漸く己の失態に気が付けば父グサノスとの約束で森の奥深くへ入ること、ましてや一人で森へ入ることを深く禁じられていた。そこで彼が口にしていた言葉が脳裏をよぎる。


 立ち上がろうとしたセルシアに瞬間戦慄を覚える。咄嗟に目の前の木々の向こう側を凝視した。何かがこちらに凄まじい早さで駆け出して来るのを直感で察知する。

 痛む足を無視して一心不乱にセルシアは走り出した。だが風が草木を揺らす音が徐々に強くなりそれは確実にセルシア目掛けて追っている。


 怖い、怖い。これは一体何?先程からずっと頭の中で警鐘が鳴り響いている。もし止まってしまえばどうなるのか彼女は直感していた。風のざわめきが激しくなるにつれ動悸が強くなっている。



 幾つもの木々を通り抜けたとき先程とは違い強烈な風が吹き起こる。プラチナブロンドの髪が暴風に靡いた。次の瞬間風は止み辺りは静寂になる。周りが嘘のように動きを止めたと同時にセルシアの背後にただならぬ気配を感じ取った。


『シシ……シィ』


 人ならざる発声をしたそれにセルシアは悲鳴を上げた。




「いいかいセルシア、決して森の奥に入ってはいけない。奴等がいつどこに潜んでいるのか分からない」






◇◇


 奴等に感ずかれぬように身体を丸めじっと息を潜める。遥か遠くから逃げ延びここに来たうぬは負傷した身体を休めるべく腰を下ろした。


 閉じていた瞼を開け腰を上げれば辺りの臭いを嗅ぐ。


 うぬは渇望している。

 最後に口にしたあれは途中で邪魔が入り潤すことが出来なかった。


 ああ欲しい、欲しい。

 思わず喉が鳴る。


 動き出そうと手足の伸びをしていたうぬになんともいえない甘美な香りが身体を刺激した。

臭いを探るように周りを見渡せば直ぐ様一直線に駆け出した。

 渇望した身体に潤いを求めるためうぬは立ち並ぶ木々を軽々と四本の足で駆け抜ける。

 ああ欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。

 口元からは涎が止むことなく流れた。余りの速さに風が唸り周りを騒がしくするが興奮でそれには聞こえていない。

 徐々に臭いが強くなり獲物に近付いていることに舌舐めずりをする。


 そして目の前にはひときわ目立つ色に歓喜した。うぬは持ち前の脚力で一気に獲物の真後ろへと着地すれば涎だらけの口をニヤつかせた。


『シシ……シィ』


 見いつけたとばかりの声と同時にそれは容赦なく獲物目掛けて右足を振りかざしたのだった。




◇◇


 研ぎ澄まされた暴風がセルシアを襲うと同時に左腕に激痛が走る。

咄嗟に左腕を見ればドレスの袖は破れそこからおびただしく血が流れる。

 暴風に当たる直前にパリンと皿が割れる音に黄色の壁が粉々に崩れ地面へと散っていく。

セルシアはその色に見覚えがあった。父の上司であるカーミリアンと契約しているロクシェの纏う色だった。以前念のためにと施した膜が意図も容易く崩れていくそれに恐怖を覚える。

辺りを見渡すが不気味な声だけがこの場に響くそれは目に見えぬ恐怖へと変わりセルシアは唇を震わす。

 それが直ぐ様攻撃を仕掛けてこないことに様子を伺っているのだろうか。その間にセルシアは膜が破壊されたことにロクシェが気付くはずだから彼が来るまでどうやって時間を稼ごうかと必死に脳を稼働させるのだが幼い彼女にどう足掻こうと無理に近い。その間にも血は流れ地面へと波紋を落とし続ける。


『シィシィシ……、……』


 イロ、ナシ


 色無し、この言葉だけはっきりと聞き取ったセルシアは次の瞬間横から薙ぎ倒されるように倒れた。美しいプラチナブロンドが乱れ、倒れた痛みに苦痛で顔を歪める。血に濡れた地面へと倒れれば目の前は自身の流した血が広がる。

なんて真っ赤なアカ、あか、赤色なのだろう。何かに踏まれたような強烈な圧迫が腹へとのし掛かるそれにセルシアの身体が震えた。

 私は、死んじゃうの?死んでしまうの?激しく動く心臓の音が耳にまで入り周りの音を遮断する。私はここで死んでしまうの?この感情ばかりぐるぐると占めるそれに否定が浮かばない。



 死ぬのか



 不意に煩く鳴り響く鼓動が聞こえなくなると同時に聞き覚えのある声が私の耳に入る。


 人の子よ、死ぬのか

 否、お前はまた嘘をつく

 真の願いを申せ


 瞬きをゆっくりすれば私は自身の流した赤を見つめた。同じ色でも彼の色は違うとどこか落ち着いた表情になりゆっくり唇を動かす。


「……そう、私は」


 足掻くことを忘れてはならない。


 私の答えに声はどこか嬉しそうに弾んだ。


 求め、私の、色を

 呼べ、私の、名を


「……ヴェルメリオ」


 そう言葉を紡げば身体が強く震えた。まるで呼応するように動いたそれに私を圧迫していたそれが僅かに力を弱めたような気がした。急激に身体中の力が抜けると同時に声が聞こえる。


『暫く眠れ』


 それを合図のように蒼翠色の瞳が瞼で隠れればぷつりと私の意識が途切れた。



 瞼がピクリと動きその奥から赤色の瞳があちこち動き出す。刹那腹の圧迫が消え後方へと下がったそれを赤色の瞳がじっと後を追うように見つめる。


 痛みなど無かったように起き上がった彼女はそれを辛烈に視界に入れる。


『忌々しい』


 赤色の瞳で映すそれは先程とは打って変わり全身の毛を逆立て明らかにこちらを威嚇している。

 それの姿を一つ一つ詰るように向ければ眉間に皺が寄る。四本の足とも言えるそれは人の腕の形をし鼻は獣の様に尖り口元は両端が裂けそこから涎をだらだら溢れ落ちる。そして双眼はどこまでも濁った色が此方をあちらこちらに動かし集点が合わさっていない。奴からあちらこちらに別の色を感じることから狩り残したと理解する。


『あああ……なぜ、こごに……いる。おまえ、ぎえた……ばず!』


 口を大きく開き駆け出してくるそれに私は左腕を付きだせば赤色の光がべールの様に私を覆えば攻撃を仕掛けようとしたそれにぶち当たり元いた場所へと飛ばされた。自身でぶつかっただけなのによろりとバランスを崩すそれに私は鼻で笑った。


『答える義務はない』


 左腕の傷を右の掌でツーとなぞるように動かせば模様が浮き出し傷口へと吸収されるのを確認すれば指に付着した血をじっとりと観察する。何度か動かせばその手を敵へと向ける。

それは今から何が起きようか本能で感知する。急激に後退するそれに赤色の瞳が逃がさぬ勢いで強く射ぬく。


『欲しがった物だ。受け取れ』


 指から赤色の光線が五本飛び出しそれに向かっていく。四本は足の間接部分、そして最後が頭部へと深々に突き刺さすそれは槍のようにも見える。

 追撃しようと力を込めれば突如身体が傾いた。

今のところこれが限界か。

 呑気にも取れるそれを思いながら突き刺されたそれの方を見れば視界から消え去った。逃げ足の早いそれに興味を失せたように地面へと座り込めば辛うじて残す余力を器である彼女の身体へと光を灯す。血の気を多く抜けたことにより不足したそれを力で補へば先程より大分楽になったことに息を大きく吐いた。


 不意にこちらへと急速に近付いてくる気配に気付きながらゆっくりと瞼を閉じるのだった。










見直しせずに書いたので訂正ありましたら書き直します。

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