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魔嬢の使用人  作者: 熊野金太郎
始まりの魔女 編
18/35

017 大事な話をするときは、聞き耳を立てる侍女がいないか確認しよう。

「あの、そのへんは見てましたよ。姫の声、すごく響いていましたから、うるさくてこの後すぐに退散しましたけど」

 さらりとパーニャが言ってのけたので、エルザはえ? と呆然とつぶやいた。

 部屋の中に、涼やかな風と共にてんとう虫が舞い込んできている。背の赤色がとても鮮やかなそれは、窓際のテーブル上の花にゆっくりと近寄り一周くるりと回ると、再び弾かれたように大空の下へと飛び去っていった。

 人払いの魔法のおかげで周りに気兼ねなく話せるようになった二人は、変わらずベットの上に寝転んだまま数時間ほど前の、エルザと父王の話をしている。

「ちょっと! あのとき近くにいたの!?」

「いえ、近くというより、陛下の部屋の向かいの大木、ありますよね。その葉の陰からばっちり観察させていただいてました。そういう大事な話をするときは、何かしら妨害の魔法をかけておかないと。丸聞こえでしたよ?」

「って、アンタ!! それを盗み聞きって言うのよ! まったく悪びれもなく……」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてないわ!!」

「すみません。でも本当に少ししか聞いてませんよ。ちょうどその時間帯、使用人みんな、中庭で洗濯物を干すつもりだったんですけど、その洗い終わった服を籠に入れて中庭に運んでいるときに、陛下の部屋に向かう姫をたまたま見かけてまして――ネタばらしをすると、実は数日前に、陛下がロバートさんに話してるのを聞いていまして、前から姫の旅の話は知ってたんですけど。まあ、だから今日姫が呼び出されたのはそれ関連かと思って気になったので」

 気配消して盗み聞きさせてもらいました、と苦笑するパーニャに、エルザはこの子が敵じゃなくて良かった、っと心底安堵した。

「パーニャ、あなた実は結構な自由人ね」

「ルールなんてなんのその、私が世界の中心だと言わんばかりの、お姫様の下で働いているからですよね、きっと」

「……それ、私のことじゃないわよね?」

「…………」

「まあ、いいわ。まったく、今度からは父さんにも忠告しておかないとね。パーニャみたいな悪趣味な侍女もいるし」

「それは残念です。でも、その悪趣味な侍女のおかげで、西の大国の機密が外に漏れないで済んでるんですから、それは褒めてほしいものです! あのときも、周囲に人がいないことは私が念入りに確認しておきましたから、安心していただいて大丈夫ですよ」

「あー、はいはい。抜かりないわね」

 気の抜けた声で軽くあしらうエルザに、パーニャはほんの少し眉を吊り上げて進言した。

「ちょっと、しっかりして下さい! まあありえないとは思いますが、万が一にも王宮にスパイがいたとき、危機管理が成っていないと、到底太刀打ちができません。相手は本職なんですから」

 そんなパーニャの言葉に、分かってるって、と軽く返されるかと思われたエルザは予想に反して黙り込んだ。

「姫? どうかし――」

「パーニャ」

 パーニャの言葉を遮って、エルザが彼女の名を呼ぶ。

 その真面目な声は、彼女の父であるエドワードの響きと似通うものがあった。パーニャがこの城に来るきっかけとなった、かつての西の大国王と出会った時のことが思い浮かぶ。あの神々しさ。まさしく、

(親子なんだな。――私を地獄から救った、あの瞬間の陛下と同じ声)

「……庭で姫がおっしゃっていた、一般人のシンくんには話せないこと、とはこれのことですか?」

「ええ、そうよ。この城内に、敵国との内通者がいるかもしれないの」

 エルザは困ったように笑った。

「まあ、まだ可能性の域は越えないんだけど。このことも踏まえて、私と父さんの話の続きを聞いてくれるかしら」

 そして西の大国の大魔法使いは、呆れたようにため息をついた。

「どうやらあなたはこの後の話を聞き損ねたようだからね」

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