011 fight
「ルーグ、お前なあ……」
「ってか何だよー、またあの女騎士、来てないのか」
闘技場の常連者で、出場した試合と優勝の数がほぼ同じという、自他ともに認める最強の槍使いであるルーグは今、とある女を探している。
「エルザ、つったっけ? 確か2年前の試合でお前を負かした女だよな?」
ノヴァが再度名簿に目を走らせつつ問いかける。
「おう!」
「あの試合はたまたま俺も客席で見てたぜ? ――まあ、なかなかいい試合だった」
――高くコロシアム内に木霊する、刃と刃のぶつかる澄んだ音。
両者の足がたたらを踏むたびに僅かに舞い上がる砂ぼこりと土の匂い。
ルーグの体重の乗った重たい一撃を、女剣士がしなやかな身のこなしでかわした。続いて彼女の大剣が、唸りをあげて襲い掛かってくる。それをルーグは槍の柄で受け止めて――。
何度も何度も攻撃を仕掛けてはかわし、受け止め。そういう攻防戦がかれこれ数十分は続いた。
ダンッ、と強く足を踏み鳴らして一気にエルザは間合いを詰める。
ルーグの大きな胸元に入り込み剣先を突き出すが、それをルーグは身を翻して難なく避けると、その勢いのまま槍を下からすくい上げるようにしてエルザの剣を頭上に弾き飛ばした。
一際甲高い音が響いて、場内が痛いくらいに静まり返る。
空を舞った大剣が、僅かエルザの後方に突き刺さった。そして生まれるルーグの一瞬の隙。勝利を確信したその油断を、彼女は見逃さない。
両手を地面についたエルザは、逆立ちの要領で宙に浮いた足をルーグの手首に叩き落した。
「うぐっ!!」
ルーグの呻き声と共に、乾いた音を立てて槍が地面に転がる。その間に後方に走り寄って、振り返りざまに剣を抜き取ったエルザの剣先が、何とか体勢を立て直して突いてくる槍より数秒早くその柄を切り裂いたのを、目で追えた者はどれくらいいただろうか。
今度はルーグの後方の壁に突き刺さる槍の刃。エルザの大剣は、反撃を許さないかのようにルーグの首元につきつけられていた。
「……しょっ、勝者! エルザ!!」
審判の戸惑いと興奮の入り混じった声を聞いて、闘技場は一瞬にして沸き立った。
「だあああぁ!!」
よっしゃあ! 打ち取ったりー、と、儚げな見た目とは似ても似つかない荒々しい雄叫びと共に振り上げたエルザの拳を見て、ノヴァはその時、久しく感じていなかった高揚感が、むくむくと煙立ったのを覚えている。