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それは夢か、現か  作者: 葡萄鼠
第一章
4/5

-RABBIT-

 ◇◆◇


 誠が透真の家に突然訪ねてきた日から、一週間が経っていた。透真はいささか小綺麗になったリビングのいつものソファに座っていた。その手には、『注意事項』と黒い紙に白い字で書かれた紙を持っていた。

「……」

 じっ…と、紙を見つめては視線を逸らし、を繰り返す。時間が経つにつれて騒がしかった日が、ふっと思い出すようになり落ち着いていた日々に急に光が射し込んでいた。あの日の名残りである、誠が置いて行った黒い袋があることで余計に鮮明に思い出させる。日を追うごとに袋に視線がいき、最初は遠目に見るだけだったのが袋を手にとり、中をあけ、中身を手にとっていた。そして一週間後の今日、透真は紙を開いてみるか悩んでいた。


 悩みに悩んだ結果、透真はゆっくりと『注意事項』と書かれた紙を開いた。

「……」

 ゴクリ……と、嚥下する音がやけに大きく聞こえた。


“~注意事項~ 

  90分間誰にも邪魔されない安全な場所で再生してください。”


「――だけ?」

 たったの一行の説明に、透真は戸惑いを隠せない。

「で、取扱説明書は……HP参照らしいけど。あいつがコピーして袋に一緒に入れてる、って確か言ってたよな」

 少し焦りながら袋に入っていた、もう一枚の白い紙を取り出した。

「……頼むから、こっちはちゃんとわかりやすく書いてくれよ」

 そう、不安を覚えながらも紙を開くと、こんなことが書かれていた。


“『-RABBIT- 取扱説明書』

  この度は弊社の製品を手にしていただきまして、誠にありがとうございます。

  RABBIT はどなたにでもお気軽に利用して頂ける製品となっておりますが、別紙の注意事項と合わせまして、この取扱説明書の内容は十二分に守ってお使いして頂きますようお願いいたします。



  まず、安全な場所で十分にリラックスできる体勢(椅子に座るか横になる)でいること。

  次に、袋に同封されている音楽再生プレーヤーにヘッドフォンを設置ののち。

  リラックスできる体勢のままヘッドフォンを耳に当てること。

  そして、気分も落ち着き十分リラックスした状態であることを確認後、「再生」ボタンを押すこと。


 ※要注意事項※

  システム発動時間の90分間は誰にも邪魔されない、安全な場所で再生すること。


  そうすれば、あなたは次第に眠りに落ち、望んだ『夢』が視られます。

  使用中、夢の中で戸惑うことがあれば夢先案内人が素早く登場し、あなたを完璧にサポートします。

  初めて使用するかたでも安心してご利用いただける仕様となっております。


  最後に、必ず周囲に誰もいない、【安全】を護れる場所で、システムを使用すること。

  以上のことを守っていただければ、我がALICE社が開発しました【RABBIT】の効果は保障致します。

  あなたの望む夢が、時間が、幸あることを……。

                                                                                           “


「――なるほどね」

 全て読み終わった後、息をゆっくりと吐きながら透真は無意識に強張っていた体から力を抜いた。

「…………」

 明かりはつけたまま瞼を閉じて、ゆっくりと思想の海に浸る。

(――あいつは、何がしたかったんだろうか。いや、何を伝えたかったんだろうか)

 その“答え”が、この中にあるんだろうか……。



 翌日。

 透真は久しぶりに浴槽にお湯をはって、ゆっくりと足先から肩まで浸かっていた。

「ふう……」

 動かすことも労わることもしなかった体は凝り固まっており、湯船に浸かることで少しずつではあるがほぐれるようだ。

「気持ち、いいな」

 体を芯からゆっくりと温まっていく時間は、とても穏やかで忘れていた安らぎを思い出させてくれた。ゆっくりとした後は髪も体もしっかりと洗い清め、出る前にもう一度湯船に浸かった。

 風呂からあがった透真はゆったりとした藍錆色の波と蝶が漂う柄の浴衣に身をつつんでいた。何となく、この浴衣を着てみようと思っていた。

 “――私、蝶が大好きなの”

 懐かしい声が、優しく蘇る。

 いつもの一人掛けのソファのすぐ傍にミニテーブルを横づけ、その上に例のヘッドフォンを設置した音楽再生プレーヤーと、白と黒の紙を置いて自分はいつもどおりソファに深く腰掛けた。何度か深呼吸を繰り返した後、透真はとうとうヘッドフォンに手を伸ばし自分の両耳に装着した。まだ少しためらいながらも、不思議と心は波立つことなく落ち着いていて、「再生」ボタンを押した――。すると最初は小さな今まで聞いたことのないメロディーが聴こえてきた。だんだんとメロディーが大きくなるにつれて透真の意識は現実世界を追い出していっていた。次第に透真の意識は音楽に誘われるように沈んでいき、だんだんと目の前は、意識は、完全な暗闇に落ちた――…。




潜入ゲーム ライトノベルコンテスト用。第一章、終幕です。

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