セッティング
―――いい加減にくっつけばいいものを・・・。
友人の恋を成就させるために、陰でこっそりと暗躍していたあたしの心情はそんなものだ。
「ムリムリムリっ!?圭君呼び出したから告白して来いって・・・無理だよぅ」
「ムリじゃないでしょ。さっさと告らないと、別の女子に先越されるよ」
「うぅっ・・・」
未だにあー、だのうー、だの言ってオタついている友人を呆れながら見る。
事の発端、というか原因はこの幼馴染の少女、夕莉とあたしの弟、圭一にある。
小さい頃からお互いのことを好き合っているくせに、いざとなったら尻込みして告白の機会を失いまくる二人を見続けて、早十年。
いい加減、忍耐の限界を迎えたあたしはクラスの連中を巻き込んで告白の場をセッティングすることにした。
「別にフラれるんじゃないんだから、パッと言ってきなさい」
「何で言い切れるのっ!?もしかしたらフラれるかもしれないでしょっ!」
「ない」
きっぱりと言い切ったあたしに気圧されたのか、夕莉はたじろぎながら後ろに下がる。
夕莉と圭一の会話は、こっちがハラハラしてくるくらい遅々として進まない。
何度、この二人の微妙な沈黙に割って入るなんてKYな真似をさせられたことか・・・!
「ということで、圭一が第三特別教室で待ってるから行ってね」
にっこりと笑いながら、圭一を押し込めた教室を指さす。
我ながら完璧な舞台設定だと思う。
一番端っこにあるため人気はないが、皆無ではない。そこで、あたしのクラスメイトと圭一の友人たちに人除けをお願いしている。
―――こういう時に、教師に顔が利くって良いことだよね。優等生やってて良かったと思う。
「圭一だって、あんたからの返事待ってるんでしょ?」
そう。ここで忘れちゃいけないのは、実は圭一はすでに夕莉に告白していたということ。
たまたま二人で帰った日に圭一が勇気を出して、告白したらしい。(その辺りは、報告魔な友人の情報だけどね)
それをあろうことか、この少女は許容量越えしたせいでマトモな返事一つ返さずにその場から逃げ去ったのだという。
その話を聞いたあたしの一言。
『・・・あんた、バカでしょ』
「ううっ。た、確かに逃げちゃった私も悪いけど・・・い、いきなり圭君が告白してくるなんて思わないじゃない?」
あたしはむしろ、いつ告白するのかとヤキモキしてたけどね!!
そしてどうしてこの場面で照れるの。照れ屋もここまでくると、いっそ病気ね・・・。
夕莉を教室へ送り出し、あとはご両人に任せようと思って階段を下りていくと、そこには圭一の友人たちが集まっていた。
「どうしたの?そんなところに集まって」
「あ、先輩。首尾のほうはどうですか?」
「さあ?教室に押し込んできたから、あとはどうにかなるでしょ」
肩を竦めながらそう答えると、彼らはどうする?と首を傾げあっていた。
「なに?まだ何かあるの?」
「いや、問題っていうか・・・圭一のお祝いという名の冷やかしをどうするかって話を」
「・・・・・・ほどほどにしなさい」
りょーかいッス!と息の揃った返事をする彼らに別れを言って昇降口へと歩きはじめる。
家に帰るまでの私は表面ではいつも通りにしていたが、内心では上手くいったかどうか不安で仕方なかった。
夜。あたしが課題を解き進めていると、圭一が部屋のドアを開けてきた。
「圭一。ノックくらいしなさいっていつも言ってるでしょ」
「別に。・・・姉さん、今日のあれって姉さんが仕掛けたのだよね?」
別に、とは何だ。
確信しているくせにわざわざ言いに来るってことは成功したってことかな?
「そうだよ。いい加減うっとうしいから、ちょっと背中を押してあげただけ」
「・・・・・・ありがとう」
そういうや否や、圭一はあたしが振り返る前にドアを閉めて逃げた。
言い逃げって一番たち悪いよね・・・。おめでとうって言えなかったじゃない。
ふう、と息を吐いて課題を閉じる。
仕方ない、明日の朝一で言ってあげよう。お母さんとお父さんの目の前でね!
翌朝実行しようとしたイタズラは、それを察知した圭一が早く家を出ることで回避されてしまった。ちっ。
いつものようにゆっくりと学校へ向かう途中、もう一人の当事者が反対側の信号の前に立っていた。その隣には、朝早く家を出た圭一の姿。
「・・・やっと」
やっとこの日が来たぁっ!!
これで二人の会話に入らなくていいんだっ!
そう考えると、イタズラができなかったことも大目に見ようと寛大な気分になってきた。
教室についてからあたしは、ホームルームが始まるまでの日課である読書をする。
みんなそれを知ってるから話しけるなんて無粋な真似をする奴はいない。
「あ、麻希!おはよう!」
・・・前言撤回。
話しかけてこないのは夕莉以外のクラスメイトだった。夕莉はこちらの事情に構わず話しかけてくる。それはもうマシンガントーク並みに一方的に話が始まる。
―――予冷三分前。
「そのあとね、圭君にケーキおごって貰ったの!麻希がおススメしてくれたタルトがすっごくおいしかった!」
延々と続くのろけ話に周りは同情的な目であたしを見る。
てゆーか、惚気は他所でやってくれないかな?
結局、あたしがお祝いの言葉を二人に言えたのは、放課後になってからだった。
・・・あたしのおかげってこと忘れてない?
了.
お題サイト:『確かに恋だった』様より
キューピットは語る5題