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月を仰げば。  作者: 水城
第一章
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1



「おはようございます。お目覚めの時間ですよ。風間様」

「ん…ん?」


 ゆさゆさとゆすられ、安らかな眠りが邪魔される。

誰だっけ。と鈍い思考で考えるがうつらうつらとまた睡魔に襲われる。

もぞりもぞりと、ベッドの中で身じろげば、今度は毛布の上の掛け布団が剥され、その瞬間に感じた冷気に思わず身をふるわす。


「起きてください。朝食が冷めてしまいます」


…あれ?と思い出すは、この人のこと。

すると、ふとした結論に至る。


 最後の砦のようにあった毛布を払いのけるように、自分は頭側の壁に張り付いた。


「な、何っで!」

「何で?とは何でしょうか?」


 そう。何故か俺の部屋に人が居る。”俺の部屋”にだ。

この毛布、払われた布団、ベッド、ベッド横のライトスタンド、観葉植物、そして様々な本、パソコン、機材などなど。自分が一番知っている、自分の部屋で、定位置のままそこにある。つまり、俺がいる位置がおかしいのではない。

この目の前でニコニコと笑顔を顔に貼り付けている男の在る位置がおかしいのだ。


 俺が住むここのマンションはセキュリティは万全。そして、オートロックで、マスターキーは管理している会社が厳重に保管している…はず。それ以外で鍵を持っているのは俺だけで、それも室内にあるため、外から侵入するほかないはず。それも、ここの階はこのマンションの最上階、23階である。外からでもそう易々と侵入できるはずが無いのだ。


「だ、誰…?」


 おずおずと、目の前で未だ理解に苦しんでる俺を変わらぬ笑顔で見ている人物に問いかけた。

明らかにおかしい。それは俺ではない。この人なのだ。


「ああ、申し遅れました。先日、貴方様を向かえるべくここに訪れました藤堂学園理事長、藤堂明人様付きの秘書をしております、要と申します。ご勝手ながら、貴方様の準備、支度等を任されておりますのでお願い致します」


 丁重な言葉、深々と下げられた頭。そして、まったく感情の読めぬ変わらぬ笑顔にかなり眩暈がした。彼が言うには、彼は前に、俺に名刺を渡しさっさどこかへ去って行った男の秘書らしく、俺は不思議に思った。


「俺、返事…返してない」


 そうなのだ。今日がもう日付が変わっているのならば、例の言葉を告げられたのが一昨日になる。しかし、この方名刺を見るか、藤堂学園について考えるかだけで、名刺にかかれたメールアドレスに、電話番号に返事を返した覚えが無い。


「はい。承知の上です。しかし、理事長がお決めになられたことですので、一つ言わせていただきますと、貴方に拒否権はありません」


 ばっさりとすっぱりとそして、はっきりと述べられたその言葉に、嘘だろ…と心中自分の今までの幸福を呪った。

幸せというよりかは、今までなにごともなくただ本当に何もなく過ごしてきた俺に、今更ながらに災いが降りかかって来たのだ。


「…何で、俺?」

「それは、理事長ご自身にお聞きください。私は貴方様のお世話を仰せつかっているだけですので」


 意味が分からない…とまた呟く。本当に意味が分からない。

ただ、自室に引きこもり、夜になると徘徊するというどこか非現実的な世界の主人公のような俺に何故、今更ながらに「学園に通う」ということが出てくるのか。

 はっきり言って、その非現実的な世界の話だとしても俺は確実的に脇役だ。

どこの話の主人公みたいに派手な容姿でもなければ、目立った特技もない。

強いて言うならばパソコンが阿呆みたいに好きであるということだけ。

おそらく、何かの記入、作成に関して、パソコンであるならば俺は結構なことをするだろう。それを糧として生きているのだから。それを仕事として今まで生きていたのだから。


「理事長より、言付かっています。”『ようこそ。我が学園へ。君を心から歓迎する。尚、現在の時期を考えて当たり前のように君は編入という形で我が学園に入学することになる。全寮制の学校であるため、色々と支度があることだろう。一週間後に編入を予定している。それまでに荷をまとめ、入寮するように。それまでの世話は全て要に任せてある。くれぐれも遅れることのないように。』”、以上でございます」


 俺の人生、どこでどう…間違えたんだ?




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