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告げられた言葉を俺は未だに信じていなかった。
「あるはずがない。そんなこと」
何度も呟き、同時に何度もため息をついた。
深夜に近所を徘徊することが癖で、習慣で、日課の俺にとって昨夜現れた男が告げたその言葉が信じがたいものだった。
いつも通り、深夜の徘徊、夜の散歩を終えた俺は自宅に戻った。
2LDKという贅沢なマンションに一人暮らしの俺。両親や肉親と呼べる人、さらには近縁の親族から遠縁の親族までもがいない俺は、自分で稼ぎ、今何不自由なく過ごしていた。
親族すらいない俺にも一応は戸籍があり、確認すればよく分からないまま俺以外が亡くなっているという状況で、何も知らない俺は特に気にも止めなかった。
それくらい、”家族”というものが分からずどうでもよい存在なのである。
今の生活を保ち、ただただ同じ毎日の繰り返し。
少々働いて、得た金銭でやりくりして、食事は適当に、自分で調理をする時もあればコンビニで適当に買ったりなどを繰り返す。
それだけで満足だったんだ。
「藤堂学園……」
そりゃあ、言われれば気にもなる。まともに学校生活を送ってこなかった俺にとって、まさに青春を送るはずの年齢の俺にとって。
学校というのは魅力的。しかし、俺は人が好きじゃない。
それは、学校に通ってなかったというのもあるが、何故か分からない、心の奥底から嫌う何かがあるのだ。自分でも分からない。ただ、本能的と言うのか、人を嫌っていた。
昨夜に現れた男からもらった名刺を見た。そこには確かに”藤堂学園理事長”というのが明記されており、不確かなのにどこか納得をしていた。
雰囲気が謎で、それでいて、納得できる。人と触れ合ってこなかった俺が感じたその人の第一印象。思わず受け取ってしまった名刺。普通ならば要らないと断っていたかもしれない。それでも、何かが合ったのだ。
この出会いが、これから何を俺に会わせてくれるのか、はたまた遭わせられてしまうのか。
俺は確かにこの時、興味を示していた。