ユニコーンは見守る
宅配で届いたグッズを開封し、一人高揚感に包まれている。『飯』を題材にしたカルト的人気を誇るアニメのマスコット的存在。ファンタジー作品でもないのに、やたらクオリティーが仕上がっている。
「これが…『あれ』か」
ごくごく普通のサラリーマンである「雷太」が町の定食に通い、絶品料理に出会った瞬間の彼の心象風景でなぜか毎回満面の笑みを浮かべて登場するデフォルメされた名前もない一角獣『ユニコーン』。折よく『午年』がやってきたので、お馬さんグッズを一つくらい所有していてもいいなと思って辿り着いた品である。名前が無いらしいので『あれ』としか言いようがないのだけれど、仮に「ユニちゃん」とでも呼ぶことにすれば、「ユニちゃん」はアニメ本編でちゃんと声優の声もついている。
『お〜いし〜〜〜い!!!』
我々の脳を蕩けさせるような大御所女性声優のボイス。ネットで調べた限りでは「ユニちゃん」を推す同志も多いと聞く。恐らくは遠い昔に見ていた作品に通ずる、ほのかな『ノスタルジー』も影響しているのだろう、雷太と親しくなるヒロインらしき女性キャラクターも同じくらい人気ではあるが絵柄が比較的地味なせいかこちらはグッズ展開されそうにない。
『君はもっと自己主張した方がいいよ』
少し気の強そうなショートの「春花」のセリフがまるで自分に対して言っているように聞こえたその日は仕事の方でちょっとした行き違いがあって、自分のダメな部分を見つめ直す切っ掛けにもなったりしている。
「ここらへんに飾ってみようか」
テレビ台の自分を見守ってくれそうな位置に「ユニちゃん」を配置。思いの外そこがしっくりくる感じで、愛らしさゆえ時々撫でてみたくなる。ついでだからとリビングを一度整理してみたら本棚の下から小さな紙片が現れた。
「あ、昔行ったとこの」
それは確か2年前の夏だったかに小旅行した際訪れたとあるスポーツバーの名刺。常連と思われる客と共に店内のモニターで見ていた野球の試合は延長まで決着がつかず、口々に「またかよ」と笑いながら言い合っていた様子が思い出される。
「今日はどちらからいらっしゃったんですか?」
「○○県からです」
「あ、あそこか。私も昔住んでいたことがあるんですよ」
柔和な笑顔の店主に声を掛けてもらって何でもない世間話をしたことは旅のいい思い出だ。そういえば彼はこんな事も言っていた。
「実はね、私の娘、多分貴方と同じくらいの歳だと思うんだけど、○○県で手作りのパン屋さんをやってるの。店の名前は確か…」
その時に聞いた店の名前はさすがに忘れてしまっていたが、まさに今空腹なのも影響してか「パン」という響きに唆られている。手作りのパンだと、個人的にはカレーパンとかメロンパンとか分かりやすいものが好きで、出先で見かけるとついついトングでトレーに載せてしまう。『県内のパン屋さん』という情報だけでは特定はできないだろうなと思って出てきた名刺をどこかにしまおうとした際に裏返したら、無地の面に、
『UNICORN』
という英語がペン字で書かれてあったのを発見した。
「え?これなんだろう?」
偶然にもユニちゃんと同じ『ユニコーン』を表していることは容易に分かったけれど、これを記した覚えがなく、なぜその単語が書かれてあるのか理由が分からない。筆跡からすると自分の字であるのは確かなようで、多分あのスポーツバーで書いたのだろうと思う。ユニちゃんの届いたその日にそれを見つけるとは何か不思議なものを感じさせはするが、結局その日は思い出せないまま空腹に耐えかねて近所のパン屋さんでカレーパンを買って食べた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから一ヶ月後のこと。久しぶりに電車に乗って県庁所在地のちょっと大きめの書店まで出掛けて、あの『ユニちゃん』の登場するグルメ漫画を買い集めてみようと思い立った。既刊数が結構多いのでネットで注文しても良かったが、他にも気になる書籍があったので店舗を訪れる選択。街中を歩いていると物欲や食欲を刺激されてしまい新たな発見もあるが、特に何でもないような駐車場の値段設定の違いとかが気になってくるのも「自分の変化」なのかなと思ったりもした。
書店では目移りしながらも目的の『ブツ』を優先して、無事入手する事ができたので一安心というところ。カルト的な人気があると言っても、母数はそれほど大きくはない。
<意外とずっしりくるな…>
会計の済んだ商品の重さは持ち歩くには少しキツイと感じるくらい。そのあとどこかに立ち寄ろうという見通しが甘かったことに気付かされる。そしてやはり昼を前に腹はすく。地図アプリを立ち上げて「食事」とかで検索してみるが、評価の高い店がその時は見当たらず『グルメ漫画』を持ち歩いて食はどこでもいいというのもアンバランスだなと感じてしまう。時間的にも電車で自宅に戻っても昼過ぎにならないくらいという状況だったのもあり、この日も近場でパン屋を探してみることに。アプリに『パン屋』と打ち込んで表示された候補の一つが駅前にあり、そこに
『UNICORN』
という文字列が表示されていることに気付いた。一瞬「???」というマークが頭に浮かんで思わず口が開いてしまったが、そのすぐ後にそのマークが「!!!!」に変わった。そう、それはまさにあの名刺の裏に書かれてあった単語の『意味』だったのである!
「そうか!ああ、そうか!!」
書店の外で小さくガッツポーズをした自分。急遽、パン屋『UNICORN』を目指して勇足。ものの数分で到着したパン屋の店名を確認して「よし!」と頷く。いざ入店。
「いらっしゃいませ!!」
店主と思われる女性。確かに自分と同年代くらい。いかにも優しそうな人で、肌が白く、うっすらとした記憶にある豪快そうだったスポーツバーの店主の面影はあまり感じないものの、その笑顔が魅力的に見えた。しっかりとした生地のメロンパンとウキウキしてくるような匂いの漂ってくる揚げたてのカレーパン、そして胃には優しそうな豆パンを選んでトレーを会計に持ってゆく。その際、ショート髪の『春花』というヒロインの
『君はもっと自己主張した方がいいよ』
というあの声が心の中で聞こえて、せっかくなので思い切って訊ねてみた。
「あの、もしかして、△△県にあるスポーツバーをご存知ではないですか?」
「え!?父の店のことですか?もしかしてご存知なんですか?」
どうやら『ビンゴ』であるらしい。かなり驚いている様子ではあった。事情を説明すると「そうでしたか!」と喜んでくれた。謎は解決し、これも何かの縁だなと思うのと同時に、一つだけちょっとした疑問が自分の中に湧いてきた。
「どうして『UNICORN』っていう店名にしたんですか?」
「ふふふ。好きだからですよ」
「え?」
「わたし、昔から『ユニコーン』が好きなんです。かわいくって」
意外とあっさりした答えだった。でもそんな感じで店名を決めるのもいいなと感じた。
「そしたら『ユニちゃん』…ってご存知ですか?あ、この(手提げからあの漫画を取り出す)…漫画に出てくるユニコーンのキャラクターなんですけど!」
これは言わなくてもいいかなと思ったけれど、『勢い』で。
「え?知りません。ユニコーンのキャラクターなんですか?後で調べてみます!!」
結構食い付きが良かった。会計が済んで店を出る際に「また来ますね」と伝えたら「ありがとうございます」と返ってきた。電車に乗って帰宅して、自宅で出迎えてくれた『ユニちゃん』がなんだか嬉しそうに見えたのと買ってきたパンを食べて思わず、
『おーいし〜〜〜い!!』
というハイテンションなセリフを言ってみたくなったのだった。




