最終話 彼の運命の人
「……ねえ」
「なんだい、俺のエマ」
ジオゴの言葉に顔が熱くなるのを感じながら、私は尋ねた。
「私のどこが良かったの? せっかく女神様から頂いたものだけれど、運命の人がわかるなんて恩恵はなんの役にも立たないし、自分のくだらない悪意であなたをデホタに引き合わせてしまった莫迦な女だし」
卒業パーティから早一ヶ月が過ぎていた。
婚約をした私達は、一緒に帝国への馬車に乗っている。
数か月後には両親か兄夫婦が帝国での結婚式に訪れてくれることだろう。……四人揃って来たりはしないわよね?
「国王陛下へ報告に行ったとき、あなたの護衛騎士を同行させてしまったし」
これは意識的にやったことではない。
ジオゴとの婚約に浮かれて忘れていたのだ。
彼が意地の悪い笑みを漏らす。
「俺との婚約で頭がいっぱいだったんだろ? あの女と俺を会わせたことを凄く反省していたエマが、彼の同行を許すはずがないものね。罪悪感を抱く必要はないよ。ちゃんと話は聞いていた。正直言うとあの男に父親面されたくなくて、わざと連れて行ったんだ」
無理矢理王妃が同席していただけでも陛下がジオゴと親子の対面をするのは難しかっただろうが、彼女が護衛騎士に飛びついていったのでさらに状況は混沌とした。
自分から誘惑しておいて、陛下に穢されたんだ、自分は悪くない、と叫ぶ王妃の姿に陛下のお顔からは血の気が引いていた。
護衛騎士は先に、運命の人ではないが心から愛している妻子の元へ帰っている。彼の妻ではないけれど、彼には運命の人がいる。しかしいつかその相手と出会っても、彼は妻を選ぶのだと私は信じたい。
「俺と会ったからって母への想いを再燃されたらたまらないからね」
ジオゴの母君の運命の人はドミンゲス公爵だった。
「……」
「どうしたの、エマ」
「王宮の廊下でカルロス王太子殿下とすれ違ったでしょう? あのとき殿下の運命の人がわからなかったの」
「へーえ、もしかして恩恵がなくなったのかな?」
そういうこともあるとは聞いている。
「でも両親の運命の人は相変わらずわかるのよ。……あら?」
「エマ?」
「あなたに運命の人が出来ている! こんなことがあるなんて」
これまではどうだったろうか。
王妃教育が忙しくて、噂は集めていたものの運命の人でない相手と結ばれていた人間が運命の人と出会った後の変化を直接確認した覚えはない。
ジオゴが優しく言う。
「俺に運命の人はわからないけれど当ててみせるよ。エマだろ?」
「ええ、そうよ、そう。……どうして?」
「君の運命の人も俺になってるんじゃないかい?」
「そ、そうね」
慌てて手鏡を出そうとした私を彼が止める。
「こっちで確認しなよ。いつも君を見つめている俺の瞳で」
「……ジオゴ……」
「俺が君を好きになったのはね、相手の気持ちが自分にないと気づいて自ら諦めた君の強さに惹かれたからだよ。……母はずっと悔やんでた。当然だとは思う。側妃になったのは国のことを考えたからだけど、体を任せたのは婚約者だったときから続く情に流されただけだから。でもそれで俺が生まれたんだから、悔やまれると微妙な気持ちになるんだよね」
「もしかしたら、最初カミーラ様の運命の人は国王陛下だったのかもしれないわ」
「そうだね。母は一度女神の試練で失敗したんだ。でも父と会って自分の運命を決めたんだ」
私は瞼を閉じた。
「どうしたの? エマの運命の人を確かめないの?」
「確かめる必要なんてないわ。たとえだれだったとしても、私が選ぶ人は決まっているんだから」
「エマ……そのまま目を閉じていて。しばらく開けちゃダメだよ? 俺、もの凄く恥ずかしい顔してる。嬉し過ぎてドロドロだ」
「え! それは見たいわ!」
慌てて目を開ける前に、ジオゴの唇が私の唇に重ねられた。
私も彼も自分で自分の運命の人を選んだのだ。もちろん最初から互いが運命の人だったとしたら、それはそれで相手を思いやって愛し合ったと思う。
運命をつかみ取った私達に、どこかで女神が微笑んでくれている気がした。
──後に、帝国へ着いた私達を迎えてくれた護衛騎士の運命の人も彼の妻に変わっていた。私達がいないうちに彼は彼の運命の人に会って、女神の試練を乗り越えたのだろう。
この分だと祖国の国王陛下の運命の人も今ごろは王妃でなくなっているのではないかしら。
もっとも陛下は結婚で自分から王妃を運命に組み込んだわけだから、彼女が彼の運命の人でなくなることはないのかもしれないけれど。




