『役立たず』と呼ばれた地味令嬢、どうやら私は追放先で第一王子が唯一求めた“無垢”でした
私はずっと、屋敷の中で「いないもの」として扱われてきた。それが当たり前、姉の影として生きることが私の運命。
朝の挨拶は返ってこない。姉の食事は最後に残り物。舞踏会では、壁の装飾扱い。
でもそれは、仕方のないことだった。姉のエレノアは、誰もが認める聖女候補、美しく、光の魔法を持ち、貴族たちからも王族からも寵愛されている。
それに対して私――リシェルは、無属性。魔力はあるのに色がない。つまり、“何も”できない。だから私が虐げられるのは当然だ。
「リシェル・グレイシア。俺はお前との婚約を破棄する」
王城の舞踏会。全員の視線が私に突き刺さる。
婚約者である第二王子が、冷たい目で私を見下ろしていた。
その隣に立つのは、姉のエレノア。少しだけ、私を憐れんでいるように見えた。
ごめんなさい、愚かな妹で。中途半端に分かっているように見せて、本当は何にも分かってない。
「君には失望した。魔法も使えず、王妃の資質もない。だがエレノアは違う」
周囲がどよめく。バレた。私が役立たずなことを。
「聖女の力を持つ彼女こそ、未来の王妃にふさわしい」
私は静かに目を伏せた。
――ああ、ついに来たんだ。
予想していた結末だった。
「よってお前は家からも王都からも追放だ」
会場が沸いた。ざまぁみろ、と言わんばかりの空気。
姉がこちらを見て、申し訳なさそうに微笑む。分かってる、悪気なんかない。
私は頭を下げた。
「……承知しました」
泣かない。
怒らない。
ただ、終わっただけ。
私は王都を出た。馬車で三日、たどり着いたのは、国境近くの辺境領。
「ここで好きに暮らせ。王子の“元”婚約者さん。プププ」
役人は荷物を投げるように置いて去っていった。
粗末な石造りの家。
荒れた畑。
寂れていて、誰もいない村。
こんなところで何をすればいいの? 私は深く息を吐いた。
「……やっと、静かだ」
初めて、誰の視線もない。誰にも気を遣わなくていい。
やっと手に入れた自由。私は私のまま、生きられるんだ
その瞬間だった。
――空が裂けた。
黒い亀裂が走る。世界が歪む。
「な……に、これ……?」
魔物の大群が溢れ出る。逃げ場はない。
死ぬ、と思った。
その時――。
唐突に胸の奥が、熱くなった。
光が溢れた。透明な、色のない光。魔物が触れた瞬間、塵になって消える。
私の周囲だけ、世界が守られていた。
「……え?」
呆然とする私の前に、一人の男が降り立った。銀の髪、青い瞳。王族の紋章。
「見つけた」
彼は安堵したように笑った。
「君が無垢だね」
それから私は知った。この世界は崩壊寸前で、光でも、闇でも、止められない滅びが広がっていること。
それに唯一干渉できるのは「無垢」だけだ。何もできないからこそ、何もしないからこそ、染まることのない自分を現すことができる。
つまり私は役立たずではなく、唯一の対抗手段だった。
「弟は間違えたんだ」
第一王子――アルヴァレインは言った。
「眩しい光は世界を癒すが、歪みは消せない。だが“何もない人間”は世界の理を上書きできる」
彼は真っ直ぐ私を見る。
「君はこの国に必要だ」
初めてだった。必要だと言われたのは。
一方その頃、王都では姉の聖女覚醒の儀式が行われていた。光が溢れ、歓声が上がる。
だがその瞬間、祭壇が崩壊した。黒い亀裂が広がる。
「な、何故!?」
聖女の光で魔物を倒せても、空間の歪みを止められない。“元”婚約者が叫ぶ。
「リシェルを連れ戻せ!!」
だがもう遅い。辺境では、私が世界を修復していた。
第一王子様が手を取り私に言う。
「もう王都へ戻る必要はない。君が苦しむことはない」
「え……?」
「弟は君を捨てた。だが私は違う」
彼は跪いた。王族が役立たずの私に。
「この国ではなく、私の隣にいてほしい」
胸が震えた。私はずっと、誰かの代わりだった。姉の代用品だった。でも今は――。
「……はい」
私は初めて、誰かに選ばれた。数日後、王都に報が届く。
辺境で歪みが消失し、世界の崩壊が停止する。
玉座の間で、第二王子は顔を歪めた。姉は唇を噛む。
歓声の中心にいるのは、もう彼女ではない。彼らが捨てた少女が、正義に必要とされたのだから。
最期まで読んでいただきありがとうごさいました。




