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『役立たず』と呼ばれた地味令嬢、どうやら私は追放先で第一王子が唯一求めた“無垢”でした

作者: 井村吉定
掲載日:2026/02/28

 私はずっと、屋敷の中で「いないもの」として扱われてきた。それが当たり前、姉の影として生きることが私の運命。


 朝の挨拶は返ってこない。姉の食事は最後に残り物。舞踏会では、壁の装飾扱い。


 でもそれは、仕方のないことだった。姉のエレノアは、誰もが認める聖女候補、美しく、光の魔法を持ち、貴族たちからも王族からも寵愛されている。


 それに対して私――リシェルは、無属性。魔力はあるのに色がない。つまり、“何も”できない。だから私が虐げられるのは当然だ。


「リシェル・グレイシア。俺はお前との婚約を破棄する」


 王城の舞踏会。全員の視線が私に突き刺さる。


 婚約者である第二王子が、冷たい目で私を見下ろしていた。


 その隣に立つのは、姉のエレノア。少しだけ、私を憐れんでいるように見えた。


 ごめんなさい、愚かな妹で。中途半端に分かっているように見せて、本当は何にも分かってない。


「君には失望した。魔法も使えず、王妃の資質もない。だがエレノアは違う」


 周囲がどよめく。バレた。私が役立たずなことを。


「聖女の力を持つ彼女こそ、未来の王妃にふさわしい」


 私は静かに目を伏せた。


 ――ああ、ついに来たんだ。


 予想していた結末だった。


「よってお前は家からも王都からも追放だ」


 会場が沸いた。ざまぁみろ、と言わんばかりの空気。


 姉がこちらを見て、申し訳なさそうに微笑む。分かってる、悪気なんかない。


 私は頭を下げた。


「……承知しました」


 泣かない。

 怒らない。

 ただ、終わっただけ。


 私は王都を出た。馬車で三日、たどり着いたのは、国境近くの辺境領。


「ここで好きに暮らせ。王子の“元”婚約者さん。プププ」


 役人は荷物を投げるように置いて去っていった。


 粗末な石造りの家。

 荒れた畑。

 寂れていて、誰もいない村。


 こんなところで何をすればいいの? 私は深く息を吐いた。


「……やっと、静かだ」


 初めて、誰の視線もない。誰にも気を遣わなくていい。


 やっと手に入れた自由。私は私のまま、生きられるんだ


 その瞬間だった。


 ――空が裂けた。


 黒い亀裂が走る。世界が歪む。


「な……に、これ……?」


 魔物の大群が溢れ出る。逃げ場はない。


 死ぬ、と思った。


 その時――。


 唐突に胸の奥が、熱くなった。


 光が溢れた。透明な、色のない光。魔物が触れた瞬間、塵になって消える。


 私の周囲だけ、世界が守られていた。


「……え?」


 呆然とする私の前に、一人の男が降り立った。銀の髪、青い瞳。王族の紋章。


「見つけた」


 彼は安堵したように笑った。


「君が無垢だね」


 それから私は知った。この世界は崩壊寸前で、光でも、闇でも、止められない滅びが広がっていること。


 それに唯一干渉できるのは「無垢」だけだ。何もできないからこそ、何もしないからこそ、染まることのない自分を現すことができる。

 つまり私は役立たずではなく、唯一の対抗手段だった。


「弟は間違えたんだ」


 第一王子――アルヴァレインは言った。


「眩しい光は世界を癒すが、歪みは消せない。だが“何もない人間”は世界の理を上書きできる」


 彼は真っ直ぐ私を見る。


「君はこの国に必要だ」


 初めてだった。必要だと言われたのは。


 一方その頃、王都では姉の聖女覚醒の儀式が行われていた。光が溢れ、歓声が上がる。


 だがその瞬間、祭壇が崩壊した。黒い亀裂が広がる。


「な、何故!?」


 聖女の光で魔物を倒せても、空間の歪みを止められない。“元”婚約者が叫ぶ。


「リシェルを連れ戻せ!!」


 だがもう遅い。辺境では、私が世界を修復していた。


 第一王子様が手を取り私に言う。


「もう王都へ戻る必要はない。君が苦しむことはない」


「え……?」


「弟は君を捨てた。だが私は違う」


 彼は跪いた。王族が役立たずの私に。


「この国ではなく、私の隣にいてほしい」


 胸が震えた。私はずっと、誰かの代わりだった。姉の代用品だった。でも今は――。


「……はい」


 私は初めて、誰かに選ばれた。数日後、王都に報が届く。


 辺境で歪みが消失し、世界の崩壊が停止する。


 玉座の間で、第二王子は顔を歪めた。姉は唇を噛む。


 歓声の中心にいるのは、もう彼女ではない。彼らが捨てた少女が、正義に必要とされたのだから。


最期まで読んでいただきありがとうごさいました。

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