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EP 3

盤面の死角と、鉄の騎馬隊テクニカル

三重県、木曽三川きそさんせん防衛線。

愛知と三重を隔てる巨大な河川群の橋梁には、何重ものバリケードが築かれ、陸上自衛隊第33普通科連隊の精鋭が殺気を漂わせていた。

陣頭指揮を執るのは、築城と防衛の天才、藤堂高虎とうどう・たかとらの魂を宿した三重県防衛司令官である。

「織田信長……恐るべき男だが、ここは現代だ。旧来の戦とは勝手が違う」

高虎は、双眼鏡で対岸の愛知側を睨みつけた。

彼の背後には、最新鋭の「10式戦車」が主砲を対岸に向け、さらには「89式装甲戦闘車」が堅固な防衛陣地を構築している。

「橋という『点』を通るしかない以上、敵がどれほど大軍だろうと、10式戦車の120ミリ滑腔砲の餌食になるだけだ。兵站を無視した無謀な突撃(インパールのような愚行)をしてくれば、数日で愛知軍は干上がる。我が軍の絶対防衛線は破れん」

高虎の読みは、軍事のセオリーとしては完璧だった。

――相手が、正規軍の「定跡」を踏んでくるならば。

同時刻。

三重防衛軍の監視網から完全に外れた、鈴鹿山脈の険しい山中。

「ひゃっはー! 殿、舌を噛まないように気をつけてくだせえ!」

「藤吉、貴様楽しんでおるな!」

道なき道。傾斜角40度を超える泥濘でいねいと岩場を、艶消し黒に塗装された無骨な車両が、猛烈なエンジン音を響かせて駆け上がっていく。

トヨタ・ハイラックス。

強靭なラダーフレーム構造とパートタイム4WDシステムを持つこの車は、自衛隊の高機動車すら躊躇する悪路を、まさに「鉄の馬」のごとく走破していた。

助手席で大きく揺られながら、信長はニヤリと笑う。

「見事だ藤吉! 正規軍の重い鉄の塊(戦車)では、この獣道は絶対に登れん。盤面において、敵が『絶対に駒が来ない』と信じ込んでいる場所こそが、最大の死角となる!」

信長が率いるのは、数百台に及ぶハイラックスの群れだ。

その後部荷台には、自衛隊の武器庫から供出された12.7mm重機関銃(M2ブローニング)や、5.56mm機関銃(MINIMI)が溶接された銃座に据え付けられている。

後続の車両でこの光景を見せつけられていた鬼又1佐は、トランシーバーを握りしめながら戦慄していた。

(信じられん……あの無茶苦茶な急斜面を、完全武装した数百の車両部隊が越えていくというのか。これが……世界のトヨタの走破性……!)

「殿! 尾根を越えました! 眼下に四日市コンビナート、そして……防衛線を敷く敵のケツが丸見えッス!」

運転席の藤吉が叫ぶ。

「よし」

信長は通信用のインカムのスイッチを入れた。

「全車、一気に駆け下りよ。狙うは敵陣の背後。足を止めず、すれ違いざまに蜂の巣にしろ!」

木曽三川の防衛線で東を警戒していた高虎の耳に、異音が届いたのはその直後だった。

西の山肌から、黒い土煙を上げて猛スピードで迫り来る無数の車両群。

「な、なんだあれは!? 山を越えてきただと!? 戦車か!?」

「い、いえ! 民間の……ピックアップトラックです! 荷台に武装しています!」

「馬鹿なッ! 正規軍の防衛陣地に、装甲すらない装輪車で突っ込んでくるだと!?」

高虎が怒号を飛ばす。

「全車、砲塔を後方へ旋回! 蹴散らせ!」

だが、遅すぎた。

10式戦車の砲塔が重々しく回転を始めるより早く、ハイラックス部隊は時速80キロ以上の猛スピードで防衛陣地の側面をすり抜けていく。

『撃てェェェッ!!』

荷台の銃座から、12.7mm重機関銃の猛烈な弾幕が放たれた。

毎分500発の歩兵掃討の雨が、塹壕に潜む三重県防衛隊を文字通りなぎ払っていく。

「ひ、ひぃぃっ! 敵が速すぎて照準が合いません!」

「落ち着け! 戦車の装甲なら機関銃など弾き返せる! 撃て!」

装甲車内から反撃しようとした高虎だったが、信長の手はさらにその先(三手先)を読んでいた。

別のハイラックスの荷台で、射手が肩に担いだ細長い筒状の兵器――『01式軽対戦車誘導弾(LMAT)』のロックオン音声が鳴り響く。

赤外線画像誘導方式の、撃ち放し(ファイア・アンド・フォーゲット)が可能な現代の魔槍である。

「目標、敵戦車。トップアタック(装甲の薄い上面攻撃)モード……発射ファイヤ!」

シュボォォォォンッ!!

トラックの荷台から放たれた数発のミサイルが空高く舞い上がり、そして急降下して10式戦車の砲塔上部に直撃した。

凄まじい爆発音と共に、無敵を誇った最新鋭戦車のキャタピラが吹き飛び、光学センサーが完全に破壊される。完全な撃破には至らずとも、機動力と視力を奪われた戦車は、もはや鉄の棺桶に過ぎない。

「化け物か……。装甲の薄さを、圧倒的な機動力でカバーし、一撃離脱で戦車を狩る……まるで、モンゴル帝国の騎馬軍団ではないか……!」

通信網も寸断され、大混乱に陥る三重防衛軍を冷酷に見下ろしながら、信長は四日市コンビナートの巨大な石油タンク群へ向けて扇子を振り下ろした。

「勝負ありだ。油田コンビナートを制圧せよ。一滴たりとも傷をつけるなよ」

令和の戦国乱世。

その最初の巨大な資源(血液)は、固定観念を捨て去った魔王の手に落ちた。

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