EP 7
雪将軍の南下と、崩れゆく『ブラック要塞』
「西の毛利元就が、信長と官兵衛の挟撃によって呆気なく沈んだか。……やはり現代戦においても、情報網を断たれれば謀神の蜘蛛の糸もただの縄に過ぎんな」
宮城県、仙台市の青葉城跡(自衛隊・東北方面隊駐屯地)。
独眼竜・伊達政宗は、凍てつく冬の風を陣羽織に受けながら、眼下に広がる仙台平野の軍容を見下ろしていた。
そこには、先日青森の雪山で「雪崩」によって生き埋めにし、鹵獲した北海道軍の90式戦車や10式戦車の姿があった。
雪の重みで拉げた装甲は、東北の鉄工所の技術で強引に修復され、車体は純白の雪上迷彩に塗り直されている。政宗は、無傷で手に入れたこの「北の最強火力」を、自らの牙として完全に調教し終えていたのだ。
「政宗様。偵察部隊からの報告です」
傍らに控える片倉景綱が、タブレット端末を差し出す。
「織田信長は、西の毛利を沈めた後、そのまま中国地方へは進軍しておりません。主力を愛知・東海地方に戻し、関東から押し寄せる数百万の難民を『労働力(奴隷)』として使役し、巨大な農業プラント群を急造している模様です」
「くくっ……カレーを餌にして現代人を働かせているというアレか。魔王らしい、狂気的で合理的な兵站構築だ。だが……」
政宗の隻眼が、獲物を見つけた鷹のように鋭く光る。
「『数百万人の素人』を狭いエリアに密集させているということは、それ自体が巨大な【火薬庫】だということだ。そこに一石を投じてやれば、どうなる?」
景綱がハッとして息を飲む。
「……パニック、でございますか」
「左様。どれほど効率的なシステムを構築しようと、難民どもは訓練された兵士ではない。戦火が迫れば、恐怖で暴動を起こし、プラントを破壊して逃げ惑う『イナゴの群れ』へと逆戻りする」
政宗は、傍らに置かれた白塗りのオートバイ(自衛隊の寒冷地仕様KLX250)に跨り、エンジンを甲高く吹かした。
「西の黒田官兵衛も、毛利という壁が消えた今、すぐには動けん。互いに牽制し合っている。この膠着状態……盤面を動かすのは、俺たち東北の役目だ! 全軍、南下を開始せよ!! 目指すは関東平野、信長の『胃袋』を外側から食い破るぞ!」
地響きを立てて、白銀の戦車部隊とスキー・スノーモービル機動部隊が、東北自動車道を南へと爆走し始めた。
一方、その頃。愛知県、作戦本部。
信長、家康、そして藤吉の三人は、富士通の防衛情報システムに映し出された「真っ赤な警告サイン」を見て顔をしかめていた。
「……殿! 伊達政宗が動きました! 東北6県の全戦力を結集し、関東平野に向けて猛烈なスピードで南下中! 先頭は……北海道から奪った機甲師団です!」
鬼又1佐が悲痛な声を上げる。
「チッ、あの隻眼の小僧め。毛利を潰したこの絶好のタイミングで、一番嫌なところを突いてきやがったッスね!」
藤吉が、珍しく焦ったように頭を掻きむしった。
「藤吉。関東の『難民農業プラント』の防衛ラインはどうなっている?」
信長の問いに、藤吉は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「最悪ッスよ。プラントはあくまで『生産施設』。防壁なんか作ってる暇はなかった。伊達の戦車の大砲の音が聞こえただけで、数百万の難民はパニックを起こして逃げ出します。せっかく軌道に乗ったカレー配給(ブラック労働)のシステムが、一瞬で崩壊して、愛知はまた兵站地獄に逆戻りッス……!」
「つまり、関東平野に伊達の軍勢を『一歩でも』踏み込ませれば、我が軍の負けということか」
信長は、将棋盤の『関東』のエリアを扇子でトントンと叩いた。
「面白い。毛利の罠を凌いだと思ったら、次は雪将軍の電撃戦か。やはり天下布武への道は退屈せんわ!」
信長は立ち上がり、陣羽織を翻した。
「家康! 貴様は東海に残って藤吉と共に難民を管理し、兵站を維持せよ! 弥太郎! ハイラックス部隊の全車両に『対戦車ミサイル(LAM)』を限界まで積め! 俺が出る!」
「と、殿自らですか!? しかし、関東の平野部で正面から戦車隊とぶつかれば、装甲の薄いハイラックスでは……」
「馬鹿め、誰が平地でまともに撃ち合うと言った」
信長の瞳には、伊達政宗の「さらにその先」を行く、狂気じみた戦術の光が宿っていた。
「伊達の白馬(雪上戦車)がどれほど強かろうと、ここは雪山ではない。アスファルトとコンクリートの残骸が転がる『死の都市』だ。現代兵器と現代の地形が交わる本当の地獄を、あの小僧に教えてやる!」
北の絶対王者・伊達政宗の「白い機甲師団」vs 中央の覇王・織田信長の「黒いハイラックス部隊」。
廃墟と化した関東平野を舞台に、第二章最大の激突が今、幕を開けようとしていた。




