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EP 6

盤面外の握手と、謀神の誤算

「……ほう。愛知の暗号データの裏層に、さらに別のパケットが隠されていると?」

福岡市、西部方面隊・地下司令部。

黒田官兵衛は、サイバー防衛隊の解析官が抽出した謎の文字列を見つめていた。

それは、毛利元就が「二重スパイ」を使って官兵衛のシステムに流し込んできた、愛知軍の偽データ群の奥底に潜んでいたものだ。

「はっ。非常に巧妙な……いや、意図的に『気づかれるように』配置された暗号鍵です。複合化したところ、短いテキストデータが浮かび上がりました」

モニターに映し出されたその一文を見て、官兵衛は思わず息を呑み、次いで腹の底から低く笑い出した。

そこには、こう書かれていたのだ。

『西の引きこもり(ネズミ)へ。中央の蜘蛛クモが鬱陶しい。両端から巣を燃やすぞ ――第六天魔王』

「くくっ……はーっはっは!! 痛快! 実に痛快だ! あの織田信長、毛利の『二重スパイの罠』に気づいた上で、毛利の通信網を逆利用して、俺に直接チャット(密書)を送ってきおったわ!」

官兵衛の天才的な頭脳が、信長の意図を完全にトレースする。

信長は、毛利が用意した偽情報(愛知が暴動で崩壊寸前という嘘)を逆手に取り、「暴動鎮圧に手一杯で動けない」というふりをしながら、実は水面下で毛利を挟み撃ちにする準備を整えているのだ。

「閣下、いかがなさいますか!?」

「乗るに決まっているだろう。こんな極上の盤面返し、断る理由がない」

官兵衛はキーボードを叩き、たった一言だけ、毛利のサーバーを経由して愛知へ返信(Ping)を飛ばした。

『――応(YES)』と。

同時刻。愛知県、作戦本部。

防衛情報システムのモニターに表示された『応』の一文字を見て、織田信長は獰猛な笑みを浮かべた。

「弥太郎! 藤吉! 西のタヌキ(官兵衛)から返事が来たぞ! 奴も毛利の罠に気づいておったわ!」

「マジっすか! じゃあ、あの中国地方の『デスロード』を……」

藤吉が目を丸くする。

「ああ。毛利は中国山地に罠を張り巡らせ、我々が陸路から突っ込んでくるのを待っている。ならば、そんな道は通ってやらん」

信長は作戦地図の『広島県・くれ』を扇子で思い切り叩いた。

「日本海に潜伏させている三菱・川崎の『潜水艦隊』に命じよ! これより関門海峡を東へ抜け、瀬戸内海へ侵入! 毛利の足元である呉の海上自衛隊基地へ、海中から巡航ミサイルを撃ち込め!」

「し、しかし殿!」鬼又1佐が慌てる。「関門海峡は、九州(官兵衛)の対潜哨戒機が目を光らせている絶対防衛線です! 我々の潜水艦が通れば、撃沈されます!」

「されんよ」

信長はニヤリと笑った。

「今日、この時間だけはな」

――そして、運命の深夜。

広島県、呉基地。

謀神・毛利元就は、信長と官兵衛が陸路で潰し合いを始めるのを、マツダのロータリーバギー部隊と共に待ち構えていた。

だが、彼の耳に届いたのは、陸からの銃声ではなく、基地の防空警報サイレンのけたたましい絶叫だった。

「何事じゃ!? 愛知軍か、九州軍か、どちらが動いた!?」

「ち、違います!! 瀬戸内海の『海中』から、未確認の飛翔体が多数接近! 目標、この呉基地の中枢システム!! さらに西……山口県の通信変電施設群が、突如として大規模なサイバー攻撃を受け、完全に沈黙しました!!」

「なっ……!?」

毛利元就の顔から、余裕という名の仮面が完全に剥がれ落ちた。

瀬戸内海からのミサイル攻撃(愛知の潜水艦)。

そして、西側インフラの同時多発的なダウン(九州のサイバー部隊)。

「……馬鹿な。愛知の潜水艦が、なぜ九州の警戒網(関門海峡)を無傷で突破できたのじゃ……! まさか、あの二人が……わしの通信網越しに、手を結んだというのか!?」

「毛利様! マツダのバギー部隊、通信網のダウンによりGPSと部隊間リンクが完全に消失! 組織的な防衛機動が不可能です!」

中国山地という名の『最強の蜘蛛の巣』。

それは、蜘蛛自身が完璧な情報網と指揮系統を持っているからこそ成立する罠だった。しかし今、信長の物理的破壊ミサイルと、官兵衛の電子的破壊(サイバー戦)による「見事すぎる挟撃」によって、蜘蛛の糸はズタズタに引き裂かれていた。

「……見事じゃ、織田信長。黒田官兵衛。わしが盤面を支配していると錯覚させ……最も無防備な腹の底を、両端から同時に食い破るとはな……ッ!!」

燃え上がる呉基地の炎に照らされながら、謀神は己の完全なる敗北を悟り、血を吐くようなうめき声を漏らした。

令和の三国志。その最初にして最大の謀略戦は、魔王と天才軍師の『奇跡の裏同盟』によって、あまりにも鮮烈な決着を迎えたのである。

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