表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

ep 42

魔王の胃袋と、狂気の『ポイント還元』

「……酷い有様だな。まるで、餌を求めて群れるサバンナの獣だ」

愛知県、豊橋市の県境に構築された巨大なバリケードの上。

織田信長は、眼下に広がる絶望的な光景を見下ろして顔をしかめていた。

国道1号線を埋め尽くしているのは、敵の軍勢ではない。

完全に食料が枯渇し、崩壊した東京・関東圏から逃げ延びてきた「数百万人の難民」であった。

かつてはスーツを着て丸の内を闊歩していたエリートたちも、今や泥にまみれ、虚ろな目で「食べ物を……」と手を伸ばす餓鬼と化している。

「殿。いかに我が軍の備蓄が豊富とはいえ、彼ら数百万人を養う余裕はありません。群れをなした飢えたカバやライオンが、どんな強固な陣地も蹂躙するように……このままでは愛知の兵站が内側から食い破られます」

鬼又1佐が、冷や汗を拭いながら報告する。

彼らは丸腰の一般人だ。自衛隊の機関銃で撃ち殺すわけにもいかず、かといって受け入れれば共倒れになる。毛利や政宗のような「地形の壁」を持たない愛知にとって、この難民の波は最大級の『兵器』とも言えた。

「追い返すか、殺すか。あるいは……」

信長が冷酷な決断を下そうとしたその時、輜重奉行の木下藤吉が、満面の笑みでタブレットを片手に現れた。

「お待ちくだせえ、殿! この数百万人の群れ、ただの『口(胃袋)』だと思っちゃ勿体ない。俺たち現代人にとって、これは極上の『手駒』ッスよ!」

「手駒だと? 藤吉、飢えた素人を兵士にでもするというのか?」

「違いますよ。兵士なんかより、もっと役に立つ奴らです」

藤吉はタブレットの画面をスワイプし、信長に見せた。

「関東の難民をゲートで選別スクリーニングしたんですがね。さすがは元・首都の連中だ。ゼネコンの現場監督から、一級建築士の資格を持ったエリート設計士、果てはITエンジニアまで、選び放題ッス!」

藤吉の目は、完全に「利益を計算する商人(ブラック企業の経営者)」のそれだった。

「今、愛知(トヨタ・三菱)の技術力で、大規模な『植物工場アグリプラント』と『バイオ燃料の精製プラント』を県内に急造してます。一級建築士どもを現場監督にして、難民どもを24時間体制の労働力としてぶち込めば、数ヶ月で愛知は『無限の兵站要塞』になりますよ!」

「馬鹿め。腹を空かせた素人が、死に物狂いで働くはずがなかろう」

鬼又が呆れたように突っ込むが、藤吉はニヤリと笑った。

「だから、『現代人の心理』を使うんですよ。殿、ちょっとこれを見てくだせえ」

藤吉が起動したのは、彼が急造させたスマートフォン用アプリ――その名も『天下布武・労働マイレージ』だった。

「現代人はですね、ただムチで叩かれるより、『数字ポイント』を与えられた方が狂ったように働く生き物なんです。基本の配給は、最低限の塩粥だけ。ですが、ノルマ以上に働けばアプリに『ポイント』が貯まる仕組みにしました」

藤吉は、アプリの『報酬ガチャ画面』を開いた。

そこには、飢餓状態の現代人にとっては直視できないほど暴力的な画像が並んでいた。

「ノーマル報酬は『味付きの缶詰』。レア報酬は『温かい白米』。そして……超絶レア(SSR)報酬は、愛知の養豚場とスパイス備蓄をフル活用した、揚げたての『カツカレー』や、濃厚な『バターチキンカレー』ッス!」

「……ッ!!」

鬼又の喉が、無意識にゴクリと鳴った。

「飢え切った現代人に、スパイスの暴力カレーの映像を24時間モニターで見せつける。そして『ポイントを貯めればこれが食えるぞ!』と煽る。ガチャやポイント還元に飼い慣らされた現代人なら、この『カレー』という名の麻薬のために、自ら進んで過労死ギリギリまで働きますよ」

信長は、眼下の難民キャンプを見下ろした。

そこではすでにテスト運用が始まっており、一級建築士の指示のもと、難民たちが「ポイント……カツカレー……!」と血走った目で呟きながら、恐ろしいスピードで巨大プラントの鉄骨を組み上げていた。暴動など一切起きない。ただ、狂気的な効率の「労働」だけがそこにあった。

「……くくく、はーっはっはっは!!」

信長は、腹の底から愉快そうに大笑いした。

「見事だ藤吉! 貴様、俺よりもよっぽど悪魔ブラックな思考をしておるわ! よかろう、一級建築士どもをこき使い、愛知全土を要塞化せよ! 報酬のカレーは、匂いが外まで届くように作れ!」

武力(機関銃)ではなく、現代のシステム(ポイント還元)と食欲カレーで数百万の人間を完璧に統率する。

西の毛利、北の伊達が己の領地で罠を張る中、中央の魔王は「人類最大の弱点」をハックし、決して枯渇しない『最強の内政国家』を産み落とそうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ