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-prologue- ファロの先に

 僕は夢を見る。彼らに憧れて、大空を自由に飛ぶ夢を。

 それを叶えるための秘訣はドンが教えてくれた。大切なことはほんの少しの勇気と好奇心、それから自分を信じることらしい。それらを持ち合わせていれば、あとは彼らの声に耳を澄ませるだけで――――ほら。僕は今、空を飛べている。

 

 どこまでも続く白線のうえを進んでいく。翼の代わりに両手を広げて、ただただまっすぐに。僕のうしろにはドンがいる。ドンのうしろにはジョーやブライアンがいて、どんなに手を伸ばしてもちっとも届くことのなかった空がこんなにも近く僕のそばにある。

 青々と生い茂る芝を揺らす風が僕の背中をそっと押す。ようやく自分の翼の存在に気づき、見よう見まねで羽ばたこうとする雛のような僕に飛び方をレクチャーするように優しさを纏った柔らかい風が僕を導いてくれる。

 僕が知らない色を、目を背けてきた現実を、その世界の広さを。

 

 きっと、未来は僕が描いていたものよりもずっと明るい。その可能性を今日の僕は否定できなくなってしまった。少し信憑性に欠けていて、あと一歩が踏み出せずにいたというのに。昨日の僕が今の僕を見たらなんて言うのかな。それこそ思わず瞠若(どうじゃく)してしまうかもしれないけれど後悔はしていない。むしろ感謝しているくらいだ。彼らがいなければ僕は絶対にこんなことはしなかったし、行動を起こさなければその明るさに希望を見出せないままだったのだから。だから僕は今日勇気を振り絞り、ありのままの好奇心に従った自分を褒めて然るべきだと思うし、そんな意気地なしな僕を後押しするという一翼を担ってくれた彼らには功績をたたえてそれぞれの好物をあげたいと思っている。

 僕の旅は帆を張ったばかりで序盤もいいところ。先は長い。彼らのおかげで見てみたいものや行きたいところがたくさんできてしまった。その責任はきちんととってもらおうと思っている。おそらく彼らにとってもやぶさかではないはずだ。

 

 あっという間に春から夏へと移り変わり、初夏を過ぎれば緑一色だった風景に天高く可愛らしい黄色が顔を出し始める。年々上昇を続ける気温にはうんざりだけれど、日が延びたことにより彼らの活動時間も増え、生命が活発に動き出す。ようやく姿を現した蝉たちの声が追複曲(カノン)みたいに幾つも重なり夏を象徴する音色(メロディー)を奏でている。そんな彼らは短命で有名だが、声を枯らし燃え尽きるには早すぎる。七夕は過ぎてしまったけれど、もし今からでも間に合うのなら僕の願い事はひとつだけ。

『どうか、今年の夏が少しでも長くありますように』

 僕にとっては友達と過ごすはじめての夏だ。だからこそ、このまま終わってしまうのは惜しい。遠くから聞こえてくる祭囃子に思いを馳せるばかりだった神社の夏祭りにも今年は足を運んでみてもいいかもしれない。海は少し遠くて僕だけでは行けないけれど、川くらいなら行けるだろう。スイカ割りを一緒に楽しむことはできなくてもスイカを分け合うことはできる。こんなにも彼らのことを考えるだけで次々とやりたいことが浮かんでしまうのだから、存外 “友達” とは素晴らしい存在なのかもしれない。

 

 色褪せた緑色の帽子を浅めに被る。父さんのお古だけれど “Ranger” の刺繡が施されたこれを僕は気に入っている。冷えたソーダとスナック菓子の入ったリュックサックを背負い、靴を履く。僕の装備である虫取り網を片手に外の世界へと飛び出せば彼らの姿が目に映る。

 眩いほどの青い空ともくもくの入道雲。そのなかで陽の光を浴びて艶めく僕の友達がこちらへ向かって、その翼を羽ばたかせている。ドンピシャな彼らの短い挨拶に僕は片手で応え、歩を進める。どこでなにをするかは決めていない。それが僕たち流で心地いい。

 ぎらぎらと照りつける太陽に背を向ければ、一人と五羽の影が一枚の絵画のようにアスファルトへと浮かび上がる。青を運ぶ風に乗って――さあ、僕の僕とドンたちの夏はこれからだ。

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