③-2 もしも彼女を守るヒーローだったら。
少女漫画のヒーローは、彼女のためならどんなことでも助けになる。
そんなヒーローに憧れる蒼也の話。
もしも少女漫画だったら。
きっと
体育祭のリレーで転んでしまって最下位になってしまったのを気にする彼女のために
アンカーの俺は黙って走り出して全員抜いて
颯爽と一位でゴールする。
なんてことがあったのかもしれない。
物語なら。
現実の俺はそんなかっこいいことはできなくて
せっかくアンカーだったのにも関わらず8クラス中6位でゴールした。
悔しさを感じつつ澄香のために保健室に絆創膏を取りに行く。
澄香は毎年体育祭で転ぶ。
リレーだけじゃなくて綱引きとかでも引きずられてたりする。
見てるとかわいいとしか思わないが。
転ぶと目立って恥ずかしそうだし、クラスの結果を気にして落ち込みまくる。
そんなところもかわいい。
グラウンドに戻るとやっぱり落ち込んで見える澄香がいた。
「大丈夫?」
と声をかけてすぐに後悔した。
大丈夫じゃないのは分かりきってるし、こういう時に大丈夫か聞かれると余計周りを気にする。
澄香は「うん大丈夫」と言ったが、自分の砂まみれの格好を見て目をちょっと丸くした。
周りを気にしすぎて自分の怪我をちゃんと見ていなかったらしい。
砂まみれな格好を洗いに行くという澄香に絆創膏を見せて一緒に行くと言うと、怪訝そうな顔で「ありがとう」と言われた。
たぶん走り終わってすぐの俺が絆創膏を持っているとは思わなかったんだろう。
そんな澄香の様子を見てるとさっきのリレーの後悔が戻ってきた。
一位でゴールできてたら、もっと楽しく話せたし
澄香も結果を気にしなくてよかったのに。
俺が今までに読んできた漫画を思い出すと、ヒーローは任せろと言って走り出すタイプ、頭をポンポンして無言で結果を出すタイプ、しょうがないなぁとニヤッと笑って余裕でゴールするタイプなどに分かれる。
それは全員結果を残したからこそかっこいいのではあるが、結果を残せる自信があるのもまたかっこいい。
俺は自分の順番が回ってくる前は心臓がバックバクでそれどころじゃなかった。
もっとかっこよくありたかったなぁとチャンスを逃した後悔が止まらない。
もしも少女漫画のヒーローになれてたら。
そんな考えが止まらない。
「身体能力を急激に高めるにはどうすればいいの?」
ぼんやり考えていると澄香が急に質問してきた。
そんな方法があれば俺が知りたい。
とりあえず
「急激には無理じゃん?ある日突然なんかしらの力に目覚めないと」って答える。
ある日突然俺が少女漫画のヒーローになってる世界に変わってほしい。
もちろんヒロインは澄香で。
「それはずーっと前から思ってるんだけど」
澄香は残念そうに言う。
俺に聞いてもわからないことぐらいわかってただろうに。
「まず転ばないようになった方がいいよ」と返すと、澄香はちっちゃく頬を膨らませていた。
「絆創膏ありがとう」と言ってグラウンドの方に歩き出す澄香に向けて
「いつかちゃんとヒーローになるよ」とちっちゃく呟く。
そう簡単にヒーローにはなれない。
それでもヒーローになりたい理由がある。
世界が変わる瞬間が来るまでに少しは自分で努力しようと思った。
もしも少女漫画のヒーローなら。
彼女のミスはカバーして
気掛かりは消して
どんなときでも助けになれる。
足が速くてリレーは一位でゴールする。
そんなかっこいい人なんだろう。
自分で努力するべきだとは思ったものの理想との差に絶望し、
結局世界が変わってヒーローになれる瞬間が来るのを待ち望む。
読んでくれた方ありがとうございます。
3話の蒼也視点です。
体育祭の次は一学期末のテスト勉強編にしようかなぁと思ってます。