②-2 もしも学年で一番の天才だったら。
天才とは。
何かと言われると難しい。ただ、天才ならどんな状況でも打破できそうな期待が持てるのかもしれない。
天才になれたらを真剣に考える蒼也の話。
もしも青春マンガだったら。
きっと
学年で一番勉強のできる登場人物が主人公に勉強を教えてあげて
息抜きだと言ってそのまま休日も会おうと誘って
話すことが増えて
急激に距離が縮まり最後には告白…
なんてこともあったかもしれない。
物語であれば。
残念ながら現実は理想とだいぶ離れている。
蒼也と澄香は幼馴染であり毎日一緒に登下校して
よく休日は暇つぶしに誘われて
たまにお互いの家でご飯を食べて
などなど
そもそも距離は縮まるほどの長さがない。
今日だって休日に澄香の追試の対策のために会うわけで。
主人公に勉強を教えるという点では条件を満たすものの、中学生の頃からテストのたびに勉強を教える機会があったためなんの特別感もない。
学年で一番の天才でもないし。
告白するきっかけが生まれたこともない。
ため息をつきながら澄香の家の前で待つ。
特別感はないとか思ったものの会えるのが楽しみでたいして寝れなかった。
いつもと変わらないけど誘ってもらえるのは嬉しい。
向こうにとっては追試しか頭にないのかもしれないが。
そんなことを考えてると澄香が家から出てきた。
「おはよう」と言うと絶対「おはよう」って返してくれる。
だから絶対先に言うと心に決めてる。
澄香はいつもちょっと眠そうで。
いつも通り、夜まで小説かマンガ読んでたかアニメを見てたかなんだろうけど。
「なんか疲れてそう。寝れた?」ってとりあえず聞く。
「ちょっとは寝たけど。今日の朝は自分じゃない誰かになってるはずだったの」
と澄香は拗ねたようなちっちゃい声で言う。
澄香は体の入れ替わりが起きて、主人公が相手を探しつつ世界を守る冒険に出る小説が小さい頃からのお気に入りだ。
ただ、澄香の中身が入れ替わったら片思いしている俺はどうすればいいのだろうか。
見た目だけが好きなわけではないし。
中身が澄香のやつを探しに行けばいいのか?
中身が澄香で体は他のやつの様子のイメージができない。
「へぇ」
こんな完全に現実的ではない話に真剣に考えてしまい、とりあえず適当に返事をする。
「いいでしょ?入れ替わりがある小説とかアニメとか面白いし」
澄香は楽しそうに話す。
でも俺は澄香が入れ替わったらこうして毎日会えなくなるかもしれないし
入れ替わった誰か他のやつと急接近なんてことになったら笑えない。
もしかしたらそいつが青春恋愛小説の主人公かもしれないし。
なんの手がかりもなく見つけることは難しいだろう。
俺が学年で一番の天才だとしても、学年を規模だとすると世界を見たら小さい気がするし。
やっぱ学年じゃなくて世界一の天才がいいなぁと理想が変わり始める。
世界一の天才なら困難な状況を切りひらく力がありそうだ。
まぁ、入れ替わるのが人じゃなくて犬とか猫とかの場合だってあるけど…
それなら嫉妬はしない。
それでも離れるのは嫌だしな。
でもそれはそれでかわいいかも。
とか思考があっちこっちに向かいはじめる。
最初に澄香が入れ替わりするのが嫌だと思ったのが顔に出ていたのか、澄香は理解できないと言う顔をする。
「物語として読むならいいね」
と言うと澄香は入れ替わり冒険ものの作品について語り始めた。
てきとうに相槌を打ちながらゆっくり歩く。
この時間が一番好きかもしれない。
その日はカフェに行って
澄香は5時間ほど文句を言いつつ勉強していた。
恋愛マンガな展開は起きなかったし
距離が縮まることはなかった。
もしも学年で一番の天才だったら。
澄香への告白の方法とか
距離を縮める方法とか
たくさん思いついたのかもしれない。
今日、澄香にこんなに頭がいいなら学年一番も目指せるねと言われた。
じゃあ実力で天才になることでも目指すかぁというとんでもない結論に到達しかけ
学年で一番の天才でも入れ替わりを止めることは難しいと思い直す。
世界で一番の天才にはどうしたらなれるのだろうか。
ある日突然天才になってたらどんな感覚なんだろう。
やっぱり天才な主人公じゃなくて青春恋愛物語の主人公になりたい。
そんな世界になる日を待ち望む。
読んでくれた方ありがとうございます。
2話の蒼也視点です。
天才ってぼんやりとした表現だったんだなぁと書きながらなんとなく思いました。
次は追試が終わって体育祭編です。