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どうせ家には帰れないので魔女は白夜の森に町をつくることにした  作者: 奏多


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新しい町の名前

 新しい町の名前。

 名づけを託されてしまった私は、それから三日ぐらい悩んだ。


 ベルさんに協力を頼んだり、ヨランさんに意見を聞いたり、ラスティさんは聞かなくても、自分が考えた『町の名前候補一覧』をくれたりと、協力してくれた。


「まさかこんなにうまいこと家が手に入るとは思わなかったから、本当にリーザには感謝してるんだ。なんでも協力するから言ってくれ」


 ヨランさんがほくほく顔で言うので、彼らは新しい町に自分達の家が建つことを本当に喜んでいるようだ。


 そんな彼らの意見を聞きつつ、ラスティさんの一覧も参考にした。


「アルヴァス……だとアーダンと語感が近くて、混同しそうだし。でも、できれば白夜の森にちなんだ方がいいかなって思うし」


 アーダンと同じく、古い言葉を使う名前の方がお揃いの感じがする。

 だからそうしたいんだけど、名づけってあまりしたことがないから迷うんだ。

 ルカの名前ぐらい?


「ルカは光……。白夜も似たような感じだよね。明るいってことだし。そこに隣接してる町なんだから……。そうだ。森の古い言葉で『シルファ』でどうかな? ルカ」


 野営地で、一緒に寝転がっているルカに言う。

 ルカはニッと口元を笑みの形にした。


「わうん」


 たぶん、いいと思うと言ってくれている。

 ルカは優しいから、だいたい私の考えを肯定してくれるけど、本当に良いって思うとにこっと笑う。

 だからルカの表情で決めた。


「そうだね。元々白夜の森で暮らしてたルカが良いって判断なら、それが一番かもしれない」


 他の魔物達も気に入ってくれるかな。

 毎日ではないけれど、森の側にいくと、魔物が出てきて私に挨拶してくれるのは続いていた。


「ルカ達は、どうして私のこと……そんなに好きでいてくれるの?」


 言葉で話せないから、正確なことは聞けない。

 でもずっと疑問だった。

 普通の犬や猫でも、こんなに出会ってすぐとか、会ったこともなかったのに、私だけを真っすぐに目指して会いに来てくれたりしないよね?


 ルカはちょっと考えた後、私の頬にほおずりした。

 昼間にルカが寝転がった、シロツメクサの甘い香りがする。

 昔の辛い頃のことを思い出させない、優しい匂いだ。

 ルカのしぐさも何もかもが、私に暖かな気持ちを抱かせてくれる。


 そしてやっぱり理由はわからないけど、それでもいいような気がする。

 好きでいてくれるなら、私もルカが好きだし、魔物達も好き。

 それでいい。


「ありがとう、ルカ」


 私はルカをぎゅっと抱きしめた。

 

 ※※※


 町の名前が決まると同時に、新『シルファの町』に職人が沢山やってきた。

 町を再建することを公表してすぐ、職人が応募してきたらしい。


「半分は、ダート王国の紛争で家や村を失った人らしいな」


 ヨランさんが教えてくれた。


「国境の町に移動してるの? もっと奥へ逃げて行くと思ったわ」


 ベルさんの意見に私もうなずく。


「またダート王国の兵が襲ってきたらとか、思わないんでしょうか?」


 ヨランさんが腕を組んでうなる。


「んー微妙な問題があってな。去年、農作物の収量が飢餓が起きたりするほどじゃないが、ちょっと微妙だった地方が多いんだ。だから避難者を受け入れられる領地が少ないんだと思う。むしろ、ここの領地は豊作だったから、多少余裕があるから、領地内の町の移動だけで済ませてるんじゃないかな」


「なるほど。ご飯がないところに移住しても、生きていけないですものね……。今年が豊作になってくれなかったら、もっと酷いことになりますし」


 私は父の領地運営にかかわったことはない。

 けど、それなりに見聞きすることはあるので、想像はできた。


「それに、職を得て、金銭を得ないと生きていけないからな。でもこの領地の中で、紛争で壊された物を再建する以外で、大規模に職人を希望する場所って、この新しい町シルファぐらいしかなかったと思うんだ」


 ヨランさんの言葉にラスティさんが続けた。


「そうですね。今は建築のために働いて、いずれはもとの仕事を改めて始める人もいるでしょう。それがこの町になるか、金銭を得て他の場所へ移るかはわかりませんが」


「そうだ。家を失ったから、そのままシルファの町に移り住みたいという人間も多いらしい。思った以上に町らしい人口になるのも早そうだな。シルファの町は」


「それだったらお店もすぐに建ちそうね。アーダンの町で待つより、ここで売って利益を早く上げた商人はいるでしょ? 行商から店持ちになりたい人もいるでしょうし」


 ベルさんが嬉しそうに言う。

 買い物できるところが早く増えるといいもんね。


「そうだな。前線基地みたいなことになる想定もしているから、ギルド長が鍛冶屋ののれん分けをしないかとか、そんな勧誘もしてるって言ってた。早く店ができるといいな」


 ヨランさんは鍛冶屋が欲しいらしい。戦士らしい意見だ。


 ※※※


 そんな話をしつつ、私やヨランさん達は毎日職人がやってきて家を、塀を造る様子を眺める日々を送る。


 でもずっと町にいるのではなくて、採取の仕事もしていた。

 前回の採取はいいお金になったけど、まだまだ暮らしていくのに必要だし。

 家を買う目標はもう果たせたものの、家があるなら必要な物が他にも増えるからね。


 採取はヨランさん達と行くようになった。

 彼らは白夜の森の中を警戒する依頼を受け、もっと国境に近い場所を哨戒しては戻ってくる。


 その間、私はルカと一緒に薬草になりそうな物や、食べられる植物を見つけては取っていた。

 食べられる物に関しては、もっぱら自分用。

 真っ白な野菜は、やっぱり薬として摂取する以外には食べるのに勇気が必要らしいので、あまり買う人がいないのだとか。


 遠方に住んでいる貴族とかが、珍しがって買ってくれるそうなので、たまにノルデンさんやギルド長が買って行ってくれるんだけどね。


 その野菜を使っての料理を、ラスティさんから習っている。

 家にある一般的な竈と違い、野営の焚火で調理するのは難しい。

 けれどおかげで、色んなスープを作れるようになった。


 そうこうしているうちに、最初に出来上がったのが薬師用の建物だ。

 出来上がった瞬間にやって来たのは、十人の薬師を連れた、眼鏡をした男性だ。

 ギルド長より少し年上っぽい。

 髪は全部白くなっているけど、ただ老齢という感じはまだしない。

 細身ながら、背中にリュックと一緒に剣を背負っているあたり、自力で採取もこなすタイプの薬師だったのだろうことがわかる人だ。


 ギルド長に案内されてやってきたその人は、私に手を差し出して挨拶した。


「初めてお目にかかる。薬師協会ソルディウム地区長のレブルだ」


 驚いたことに、噂の地区長さんだった。

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