自分の家はどこにしよう
ギルド長とヨランさん達は、一度町へ戻った。
私はそのまま野営地にルカと一緒に残ることにする。
町のどのあたりに住みたいかとか、考えておいてと言われたので、じっくりと考えるつもりで。
「ルカと一緒だから、やっぱり広い家がいいよね。野営をするなら他は全て庭みたいに扱えるけど、みんなが住む町だとそうはいかないし」
勝手に入って来ないような塀、私の家にも欲しいな。
ルカのことをオオカミとして見てもらえるとしても、家畜のことを知っていればいるほど、忌避するだろうし。
やっぱり無用な摩擦は避けたい……。
「承知した上で住むことにしたとしても、口先だけの人なんて沢山いるだろうから」
私は知ってる。
実母が生きている間は、私のことを可愛いと言ってくれていたメイドたちが、継母が女主人になったとたんに『口先だけよぉ。気に入られた方が仕事もお目こぼししてもらえるじゃない? 陰気な子だから気に食わなかったのよね』と言い出すことを。
ここに住むことに利点があれば、ルカのことなんて後でどうにでもできると思う人だって出かねないと思ってる。
だから塀がいるのだ。
一歩を相手が踏み出さないようにするために。
それに何かあれば、ルカは森へ帰ってしまうはずだ。
私はルカと離れて一人になりたくない。
「あとは水の近い場所がいいけど……。水路みたいなの引いてくれるかな?」
あの湧き水は本当に素晴らしい。
水魔術を利用したコップはあるけれど、あれは意外と大きなバケツなどには転用できないらしく、大量の水が必要なら、私の場合は井戸から汲むしかないのだけど……。
「せめて井戸かな。湧き水の側に住むと、どうしても中心部近くで暮らすことになるし。むしろあの湧き水の横のお風呂。あれを公衆浴場って感じで男女別に整備して、管理する人を置いてくれると嬉しい」
暖かな水に浸かるためには、本来重労働が必要だ。
あのお風呂は本当に楽だった。
薪で火を起こしたり、お湯が溜まるまで作業するのも、井戸から水を汲んでの作業よりずっと楽だったし。
「ギルド長に頼んでみよう。今日、夜に来る時に話せばいいかな? ルカ」
「わうん」
ルカが返事をしてくれる。
正直ルカはお風呂を必要としていないので、よくわからないと言いたいのだと思う。
けれど、こうして返事をして、側にいてくれるのが嬉しいからいいのだ。
そうして歩いていくと、白夜の森の近くに来てしまう。
ここから左に移動していけば、薬草の群生があった場所に着くだろう。
その方向には、広い庭でもあったのか、たまたま建物を建てなかっただけなのか、家の土台などは見えない。
長い年月の間に木立ができていて、群生地がこちらからはすぐに見えないようになっていた。
ルカがその木に歩いていく。
そしてふんふんと嗅いだ。
魔物のルカが気になる匂いでもあるんだろうか?
幹の上に視線を移した私は、残っていた白い花の形にあっと思う。
「リンゴの木だ」
もしかするとここは、町の中にリンゴの木を植えていた場所だったのかもしれない。
果樹園というほどの規模ではなくとも、庭先に果物を植える人は多い。
小さな菜園を作る人もいる。
それで少しでも、野菜を買う量を減らしたりするのだ。
「もう何本かある……」
放棄されてから増え続けていたのか、五本はリンゴの木があった。
「ルカってリンゴの木が気になるのか……リンゴは食べるの?」
「わう」
うなずくので、肯定。
「魔物ってリンゴは食べれるんだね」
てっきり、何かのお肉ばかりかと……。でもスープも食べてたし、食べられないわけじゃないんだよね。
「そうしたら、ルカと一緒に住むならこのあたりで、リンゴの木のある場所を庭としてもらいたいな」
そうしたら、秋になればルカにリンゴをあげられる。
私も一つもらって、秋を楽しめるだろう。
想像してみたら、とても素敵な家ができそうだなと思えた。
深呼吸して、私はルカに尋ねてみる。
「ルカ、ここに家を建てて、私と一緒に住んでくれる?」
はっきりと一緒に暮らそうと言ったのは、初めてかもしれない。
一緒にいてくれる? とは尋ねたけれど、期間を限定したり、場所や暮らしに言及したことはなかったから。
でも住んでほしいと言えば、長い期間私と一緒にいてほしいということになるから。
……もしルカが自由を優先したい魔物で、今は気が向いたから『一緒にいる』を実行してくれているだけだとしたら。
断られるかもしれないから、なかなか聞けずにいたんだ。
じっと返事を待つ。
ルカはちょっと首をかしげた後、笑顔を作るように口を開いて「わう」と返事をしてくれた。
「よかった……。ルカ、私とずっと一緒にい続けてほしかったけど、森に帰る必要があったりしたら住むのは難しいかなって思ってたんだ」
するとルカが。
「わうん」
なぜかうなずいた。
「…………」
どういう意味か考える。
「もしかして、一時的に森に行ったりはする必要がある?」
「わう」
「それは一日とか二日とか?」
ルカは首を横に振ってくれた。違うってことだな。わかりやすい。
「一時間とか二時間?」
「わふ」
うなずいたので、それぐらいなんだろう。
「じゃ、お出かけが必要ってことなんだ。それなら大丈夫」
帰ってくるまで不安になるかもしれないけど、ルカもお出かけが必要だってことだと思えば我慢できる。私だって、町に用事があるからと、半日ルカと離れたりしてたんだし。
「それならなおさら、森のすぐ横に住みたいし、ここで要望出してみようっと」
住まいは決まった。
それじゃ、改めて野営地まで水を汲んで運ぼうかと思ったら。
ぴょこぴょこ。
目の前を、羽つきウサギが通り過ぎる。
数回飛んで移動したところで、くりっとこちらを見て止まった。
「あ、他にも魔物いた」
つぶやいた私に近づいてきたウサギの魔物は、手で抱えていた物をばらっと落とした。
そのまま蹴り蹴りして、私の方へ押し出してから、さっさと去っていく。
「なんだろう?」
しゃがんでみると、それは白っぽい色をした……木の実だ。
形は見たことがある。
たぶん、早春に花を咲かせて、いち早く実をつけるサクランボの一種。
ものすごく酸っぱいし固いけれど、干しておくとちょうどいい酸味と塩味のある保存食になる。
「食べ物をくれたのかしら。お腹が空いているように見えた? それにしても白いってことは、たぶんちょっと元の植物とは違うんだろうな。それにしても……こんなこと、白夜の森に入っている時にしか起こらなかったのに」
なぜあのウサギは森から出てきてしまったんだろう。
「まさか、私が森の側にいるから会いに来た?」
つぶやくと、ルカが「わう」と応じた。
私は悩んだ末に決める。
「…………白夜の森に近いここに家を建てて、塀には小さな扉をつけてもらおう」
扉があれば、みんな出入りできるし。
こっそり訪問するなら、他の人が見て悲鳴を上げずに済むと思う。
あとはそう。
理解ある人やギルド長に話しておこう。




