冒険者
なんとか夜になる前に薬草を全て見つけた。
そうできたらいいなとは思っていたけど、実際に五種類そろえられるとは思わなかったので、ほくほくした気持ちで帰途につく。
しかも途中で、光る薬草も見つけた。
「帰ったら、これ、乾燥させて観察してみよ」
光る薬草の方は、やっぱり摘んでも光ったままなので、乾燥させても変わらないのか、いつ光が消えるのか知りたい。
こっちは観察のために摘んだのだ。
白い薬草の方も、すぐに持って行かない理由がある。
「こっちも乾燥させてから、持って行こう」
依頼には、期限は二週間後と書かれていた。
それに受けてすぐに持って行ったら、私が白夜の森を知り尽くしている人みたいになるし。
「目立つよね……」
採取の仕事は欲しいし、上手くできていると思われたい。
だけどすごく目立つのはちょっと遠慮したい。
注目された時が怖いのだ。
ずっと、注目されるのを避けてきたせいだろう。
「だから乾燥させることで、渡す日数をずらせば、五種類を持っていってもおかしくはないよね?」
つぶやいていると、どこからか声が聞こえた。
次いで、人の足音がいくつも発生して、急に前方が騒がしくなる。
「ちょっ、どうしてこんな森の端にまで魔物が出てくるの!?」
「とにかく大物だなっ!」
まだ遠いけれど、声が近づいてきてる。
避けたいけど、逃げられるだろうか。
「人がいる。ルカ、小さくなって」
街道に向かって走りながら、ルカに頼む。
すると、ルカの姿が町の近くの時のように縮小した。
いや、あの時よりもちょっと小さめかな? 大きな犬だとごまかせそうな感じだ。
でも大音声の咆哮が聞こえ、それがこちらに向かってきている気がする。
「あ、街道に出た」
旧街道は走りやすい。
だから声が聞こえない方向へ……と思ったら。
――何か黒い影が私の上を飛び越していった。
思わず立ち止まった。
飛び越えた影が霧を引き付けて、吸い込んでいるかのように、その周辺は見通しがいい。
だから、少し距離があるのにはっきりとわかった。
赤黒い陽炎をまとった、大きな黒い生き物。
たゆたうような長い毛と陽炎があいまって、輪郭がはっきりしない。
けど、馬のように見える。
叫ぶことも忘れて見入ってしまった。
今まで白夜の森に入っても、想像していたような恐ろしい魔物を見たことがなかったから。
「今までは、ふわふわで、なんだか普通の動物っぽくて……」
恐怖でなんだか上手く考えられない。
そんな中、地響きのような足音を立てて、陽炎の馬の魔物が走り出した。
私に向かって。
ルカが私の前に立ちはだかる。
あともう少しでルカが飛び掛かれる距離に来る寸前。
一抱えありそうな火球が魔物にぶつかった。
でも魔物は低いうなり声をあげるだけで、再び飛び上がる。
「うわっ、こっち来た!」
「予想より早いわ!」
火球の元である、私の背後にやってきた人達が声を上げた。
振り向くと、赤い髪の体格のいい青年や黒髪の女性、茶色の髪の青年がいた。
赤い髪の青年は、金属の胸当てをして盾と剣を持っている。
戦士なのだろう赤髪の青年が、まっすぐに馬の魔物に向かって行った。
「冒険者……?」
剣や魔法の力で身を建てる人たちを、冒険者と呼ぶ。
普通の人なら極力避けるだろう困難や、難しい依頼をすすんで受けることから、そんな風に呼ばれるようになったと聞いている。
ダート王国では、神教が魔物を討伐しに行くせいなのか、冒険者自体が少なかった。
だから白夜の森では見かけなかったんじゃないだろうか。
そんな冒険者だと思しき人達が、目の前で馬の魔物と戦い始める。
駆けだした青年を追い越していく、青い輝線の尾を引く矢と青い光の玉。
馬の魔物に二つが当たると、叫び声を上げながら馬の魔物の方や足が凍り付く。
そこへ赤髪の青年が剣を振るう。
一度では馬の魔物が横倒しになったが、再び立ち上がる。
馬の魔物がまとう炎が周囲に広がった。
あわてて退く赤髪の青年と、範囲に引っ掛かりそうになった黒髪の女性。
その気がそれた瞬間を狙ったように、馬の魔物が飛び出す。
黒髪の女性に向かって。
「きゃっ!」
「ヴォン!」
いつのまにかその近くに移動したルカが、馬の魔物を蹴りつけた。
大型犬ぐらいの大きさのはずなのに、ルカの一撃はそれ以上の勢いがあったようだ。
馬の魔物が数メートル飛んでいく。
しかし起き上がった。
でもその時には赤髪の青年が駆け寄って、その首を切り飛ばした。
思わず目を閉じる。
処刑された魔女の姿を思い出してしまった。
馬の魔物を倒してくれただけなのに。
そんな私を励ますように、さっと戻って来たルカがくっついてくれる。
ふわりとした感触のおかげで、少し心が落ち着いて目を開けられた。
見れば、馬の魔物の姿は横倒しになっている。
もうぴくりとも動かない。
ふわりふわりと、少しずつ白い霧がそこに集まっているように濃くなっていく。
とたんに、赤髪の青年は私の方へ走ってきた。
さらには私の横に、いつのまにかいた女性が私の手を引いた。
「ほら、ここから離れなくちゃ。走って!」
女性が私の手を引いて走らせる。
勢いにつられて言う通りにする私と、並走するルカ。
その横を走り抜けた赤髪の青年が言った。
「近くにも魔物がいた。寄って来るから早く離れろ!」
「魔物の死体は、他の動物より魔物を寄せやすいの!」
手を引く黒髪の女性が補足したかと思うと、後ろからついてくる茶髪の青年が付け加えた。
「しかも私達、魔物除けを落としてしまいまして。なおさらヤバいんですよ」
魔物除けって何?
でも他の魔物が寄ってきたら困る。
だから私は、彼らに従って走った。
すぐ息が切れそうになったけど、さっきみたいに恐ろしい魔物には会いたくないから、頑張って走って走って……。
「はい、ご苦労様!」
手を引いてくれていた女性が立ち止まり、ようやく休むことができた。
疲れ切って、私はぜいぜい言いながらその場に座り込んでしまう。
久しぶりに限界を超えて走ったから、もうこれ以上何もできない。
だけど息が落ち着いてきて、私は休むことができる理由がようやくわかった。
もう、そこは白夜の森の外だったのだ。
広い草原だった。
柔らかな細い草が風に揺れて、緑の波のようだ。
ところどころに木と、大きな岩が点在する場所。そして少し離れた場所に町や森や山の輪郭が望める。
私の顔を女性がのぞきこむ。
彼女は波打つ黒髪の、艶やかな美女だ。
マントに赤茶色の上着と黒の膝丈までのキュロット。しっかりとした膝までの革のブーツを履いていて、立ち姿もかっこいい。
腰には短剣や、金属の棒とかポシェットを身に着けている。
女性が微笑んだ。
「ごめんなさいね、突然」
「でも、ありがとうございました。魔物の死体に他の魔物が寄ってくるなんて知らなったので」




