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ゆの  作者: 半月
7/7

7 最終話

信はどうしてこんなあたしについてきてくれるのだろう。

自分が死ぬかもしれないのに。

あたしに殺されるかもしれないのに、どうして・・・・・・。

あたしは信をおぶると町へと急いだが、遅かった。

ユノの町はほぼ全滅状態だった。

目の前には凍り漬けにされた人や、焼け焦げた人達が軒を連ねるように転がっていた。

「ウァァァアアアアアア!!」

すべてを壊し、すべてをなぎ払った。

「どうして・・・・・・どうして会話で解決するという手段が、ここにはないんだ!?どうして武力行使なんだ!?どうして、どうして同じ種族がわかりあえないんだ!!」

あたしは泣きながら叫んでいた。

同じ人間のはずだ。

民族は変わったとしても。

相手にだって感情があるはずだ。

なのにこの様はなんなんだ。

何もできずに犠牲を出し続ける自分は無力以外の何者でもないじゃないか。

「どうしてこんな死者がでなきゃならない!?ただお互いに民族を守りたかっただけなのに・・・・・・!目的は同じはずなのにどうして!」

「同じ?」

あたしは振り向いた。

その先にはぐったりとした信を人質に取るパワー8のリーダーと思われる奴らが数人いた。

「そうだ・・・・・・同じだろう。自分達の民族を絶やさないために戦うんだ。」

「同じわけないだろ?こっちはどこの誰がどうなろうと知ったことじゃない。このチームが強くなっても弱くなっても構わないさ。使えないものは始末すればいい。その点、おまえたち民族はバカだ。何をムキになっている?こんな使えない奴を救おうとしたり、民族を守ろうとしたり・・・・・・バカなんだよ!」

「グァッ!」

信が苦しそうに呻いた。

喉を締めあげられている。

「やめろっ!命は大切だって習わなかったのか!!」

あたしは信を取り返すと信を抱き締めた。

「命は大切だって?バカだね、何言ってんのさ。自分の命だってどうでもいいのに。生に執着するから弱いんだよ、生きものってのは・・・・・・。」

そういうと、それはドロリと溶けて、得体のしれないものになった。

パワー8の体は力ばかりを求めすぎて化け物と化していたのだ。

力ばかり求めた体は生命維持を保てずに人格を破壊し、やがて体内さえも破壊して、化け物になり、感情などなければこれ以上死ぬことも、成長することもない。

命の大切さなど、はじめから生命体ではない奴らに説いてもムダだろう。

あたしは無言で立ち上がり、戦い続けた。

だが、それも虚しく化け物の体内に引きずり込まれてしまった。

暗い。

声が聞こえる。

“力が欲しくはないか”と。

「あたしはユノという化け物だけで十分だ!」

“本当は自分は無力以外の何者でもないと思っているくせにか。”

「うるさい!黙れ!あたしは化け物になる気はない!」

“ユノという化け物に体を乗っ取られているくせに何を今更・・・・・・。”

「乗っ取られていない!」

“力が欲しくはないか、おまえの中の化けユノを押さえ付ける事のできる力が・・・・・・。”

欲しくないわけじゃない。

ユノに乗っ取られて消えていくかもしれない今が怖くないわけじゃない。

力は欲しい・・・・・・。

仲間を傷つけないだけの力が・・・・・・。

“欲しいだろう?”

「欲しくないわけじゃない。でも、死にたいわけじゃない。壊すことしかできない力ならあたしはいらない!!」

その時、誰かがあたしを呼んだ。

気付くと土のうえに倒れこんでいて、起き上がると目の前には体内から光を放ちながら苦しそうにうごめく得体のしれないものがあった。

「ゆの・・・・・・ん!」

擦れた声が聞こえて、あたしが振り向くと信がいた。

あわてて駆け寄ろうとした瞬間、グサッと音がして血が飛び散った。

そしてあたしはそのまま倒れこんだ―――…‥。

今この世界は信とあたしと謎の生命体一つ。

ユノの故郷は崩れた。

きっと助けはもうこない。

どこか遠くで誰かが叫ぶ声を聞いた。

気が付いたとき、あたしは生死のふちをさ迷っていた。

三途の川を渡る途中だったのだ。

「お姉ちゃんどうしたの?」

止まったあたしを見て、あたしの腕をひっぱる小さな男の子。

この子・・・・・・誰?

「ごめんね、あたし・・・・・・用事思い出したの。だから戻らなきゃ、向こうに行かなきゃ!」

男の子の手を振りほどこうとしたとき、いきなり景色がかわった。

以前戦ったことのあるパワー8の変なドロドロと同じ姿であたしに襲い掛かってこようとするのであたしは逃げた。

ひたすらに逃げ続けた。

でも途中で何かに足をひっぱられて転んでドロドロに捕まりそうになったとき、誰かがあたしの肩を思いっきり突き飛ばした。

そしてそのドロドロを蹴飛ばすとあたしに手を差し伸べる・・・・・・というか、あなたも誰?

「こいっ!」

流れのままに手を取り走りだした。

自分がこっちだと思う方へひたすらに走り続けた。

そんな男の人の横顔を見ながら信にそっくりだと思った。

でも、確実にこっちの方が髪の毛は長いし、何より髪の毛が青い。

三次元ならあり得ないな・・・・・・。

そんなことを考えていたら、あと一歩で戻れると言うところで信似の人はあたしの手を離した。

「え?」

「行け。お前は生きろ。」

「いや・・・・・・だって、あなたは!?あなたは信なんじゃないの!?なんであたしのこと助けてくれたの!?」

「私に名前はない。おまえを助けたのは戻らなければ悲しむ人がいるからだ。おまえ一人だけのために失われる命があってはならない。おまえが戻ることで救われる命もある。おまえに拒否権はない。行け・・・・・・。」

「信・・・・・・信は!?無事なの!?」

「無事だ。今は・・・・・・な。」

追っ手がすぐそばまで迫っていた。

あたしがその返事を聞いて胸を撫で下ろすより先に突き飛ばされた。

「・・・・・・私は消える。何故ならば存在しなければいいものだからだ・・・・・・救われる命があるとかなにやらカッコいいことを言ったが、所詮は欲さ。自分が生き延びるための、欲。私の姿はもう一つの未来。もう一つの世界が生み出した決して遠くはない近未来。その自分がここにいるのもすべてのこの世界が現実であり、何より夢だからであろうか・・・・・・。」

最後に何かをつぶやいていた気がするのにあたしは何一つ聞き取れなかった。

「信っ!」

飛び起きたとき、あたしはベッドの上にいて、信に抱き締められて混乱した。

自分が死のふちをさ迷っていたことは知ってるけど、何?何が起きたの?

「よかった・・・・・・。」

信はそれしか言ってくれないけど、うん。あたしも信が無事でよかった。

その後、少人数になったユノとパワー8は話し合いをし、互いの歩み寄りと理解によって結束ができた。

そしてあたしはあたしの中のユノを押さえ付けることができるようになり、何もかも順調だ――…‥。

ありがとうございました。

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