6 血桜
ここはどこなんだろう?何も聞こえない。
何も見えない。
何も感じない・・・・・・。
あたしにちゃんと意識が戻ったときには血桜がかかれていた。
あたしの前、壁全面いっぱいに・・・・・・。
「ハハハハハハハハハ!」
何あたし、笑ってんの?気持ち悪いよ・・・・・・こんなたくさんの血・・・・・・。
「信・・・・・・あたし、どうしちゃったの?さっきの子・・・・・・まさか、殺しちゃったの・・・・・・?」
「ああ・・・・・・。」
ああ・・・・・・信の声が頭の中でエコーする。
プチン・・・・・・。
「やはり血は美しい。」
え?今の・・・あたしの声?
なんで?あたし、何も言ってないよ?
ぞくぞくと快感なのか、それに似た感覚が体中を駆け巡る。
「ゆのん?」
「気やすく呼ぶな。私はあの小娘などではない。」
「ついに人格をもちだしたか・・・・・・ユノ!」
「ああ、いずれはこの娘も消えるだろうさ。」
「そうはさせない!」
電気みたいなものが走ってあたしはあたしらしさを失った。
「ゆのん、大丈夫か?ゆのん。」
「あたしは力を得た・・・・・・そなたより強い力を・・・・・・。」
「ゆのん!」
「心配するな。あたしだよ。でも、こいつと合体したみたいだ。妙に冷静で気持ち悪くなる。いつも意識してないと乗っ取られそうだ。」
「まあ、戻ったなら・・・・・・いいか。」
信はそう言ってため息をついた。
「よくよく考えてみれば、何かを生み出すことのできる戦いなんてないな。」
戦いで生まれるもの、憎しみ、復讐、憎悪、それの無限ループ。
「何言ってんだよ!あるよ!」
「ない。戦いは戦いを生むだけだ。憎しみを生んで、その憎しみはまた同じ事をくりかえす。戦いなんか、何の意味もない。なのに皮肉だ。戦いがないと存在価値を見失って、ユノだって現在の一致団結のようには集まらなかったかもしれないのに、戦いによって人が・・・・・・ユノが一つになるなんて。」
「確かに皮肉かもしれねーな。でも、そう先をあせんなって。」
「先を急がねばパワー8は今にも拡大しているんだ。あたしだって戦力を集めなくてはならん。」
軽くジャンプして木に飛び乗る。
少し前のあたしなら、驚きだ。
「信、おまえ、木渡はできるか?」
「まぁ・・・・・・。」
「では隣町までいく。食料を集めて一刻も早くパワー8を倒さねば・・・・・・。」
次々と木を飛び移っていく。
本当にマンガみたいだ。
今のあたしには恐怖心すらない。
「スピードをあげるぞ。」
「ああ。」
あっという間に町に着いた。
「!!」
けど・・・・・・そこにあったのは、町なんかじゃなかった。
あったのは焼け野原だった。
暑くて、苦しくて、生きているものなどいない。
炎が綺麗に揺らめいていた。
「待ちごと燃やされたか・・・・・・皮肉だな・・・・・・その失われた町がまた、美しいなどとは・・・・・・。」
「ユノ、リーダーゆのん。」
あたしは呼ばれて振り向くとそこにはパワー8のやつらがたくさんいた。
「くそっ、先回りされたうえに読まれてたか!」
信が悔しそうに足を踏みならした。
ドックン・・・・・・ドックン・・・・・・何かが騒いでいる。
「はは・・・・・・ハハハハ・・・・・・ワァッハッハハハハハハハハ!」
あたしはまた、あたしではなくなった。
真っ暗で何もわからない。
「ゆ・・・・・・のん・・・・・・。」
気が付いたとき、あたしは信にまで手を掛けていた。
普段ならあたしより数倍も強い信。
なのにあたしが胸ぐらをつかんでる信はもう、ズタボロだ。
パワー8の連中もほぼ半数が死滅していて、あたしの体は血塗れだった。
「う・・・・・・そ・・・・・・?やだ・・・・・・やだ!やだぁぁあああああああ!!」
信を離すと、あたしはあたしを殴った。
記憶のない自分が、自分の中にいる、自分じゃない自分が・・・・・・何より、乗っ取られている間に何もできなかった自分が、憎くて仕方なかった。
あたしはユノの一族で、最も強く、荒い血を持つ、魅夢の娘で、何より自分が化け物であることを・・・・・・認めたくはなかった。
でももう認めないことはできない。
現に信をこの手で殺しかけた。
「信・・・・・信・・・・・・いや、お願い・・・・・・死なないで・・・・・・。」
「死にやしねー・・・・・・ゲホゲホ・・・・・・それより、町に戻らねーと、ユノが今度は危険な目に会うぞ・・・・・・。」