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幼馴染に「あんたのせいで彼氏ができない」と言われたため、距離を取ったら次の日から学校に来なくなった  作者: 桜 偉村


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第16話 澪が言ったんでしょ

白石(しらいし)君——」


 昼休み、教室に戻ろうと廊下を歩いていたところで、背後から名前を呼ばれた。

 振り向くと、椎名(しいな)(ゆう)先輩が手を振りながら近づいてきた。


「椎名先輩、こんにちは」

「やぁ、ちょうどよかった。今ちょっといい?」

「えっ? はい、大丈夫ですけど」


 戸惑いながらうなずく。

 並んで歩きだすと、先輩は軽い調子で言った。


夏希(なつき)とは順調そうだね」

「わかりますか?」

「もちろん。一ヶ月記念でブレスレットを贈ったんでしょ? やるじゃん」


 椎名先輩はニヤリと口角を上げた。


「なんで知ってるんですか」


 俺は苦笑を浮かべた。学校では付けていない、はずなんだけどな。


「休日にたまたま会ったときに付けてたからね。カマかけたら、一瞬で赤くなったよ」


 素直でかわいいよね、と先輩が笑う。

 相変わらず、夏希は遊ばれているんだな。顔を赤くしながら抗議している姿が容易に想像ができて、ちょっと微笑ましい気持ちになる。


「でも、うまくやってるみたいで安心したよ」

「まあ、そうですね。俺が気づいてあげられないこととかもあって、目下勉強中ですけど」

「女心は繊細だからねー。あれでいて、夏希は結構デリケートなところがあるから……って、私が言うまでもないか」


 椎名先輩は独り言のようにつぶやいたあと、顔を寄せてきて、


「よく、我慢したね」

「っ……!」


 頬が熱くなる。何について言われたのか、説明されるまでもなく、わかってしまった。


(女子って、やっぱりそういうとこまで話すんだな……。まさか、他には広まってないよな?)


 そんな俺の不安を読んだのか、椎名先輩は微笑みながら手をひらひらと振る。


「大丈夫だよ。私は広めたりしないし、夏希も私以外には言ってないと思う。こっちが色々情報を開示して、初めて教えてくれたからね」

「それ、先輩が損してません?」

「いやぁ、そうでもないよ。後輩を揶揄ってるときが一番楽しいんだから」


 椎名先輩がウインクを決める。本当に、愉快な人だ。


「でも——」


 先輩がふと、真剣な表情になる。


「真面目な話、我慢したのはすごいよ。私の別れた理由はコミュニケーション不足って言ったけど、そこの考え方の違いも大きかったからさ。恥ずかしがらずに、ちゃんとどうしたいのか伝えたほうがいいと思う。特に、女の子側から切り出すのはちょっと難しいし、白石君がうまくリードしてあげてよ」

「はい、わかりました」

「うむ、素直でよろしい」


 椎名先輩は腕を組み、満足そうにうなずいた。


「なんかすみません。身を切って、色々アドバイスをいただいて」

「気にしなくていいよー。後輩の悲しむ顔なんて見たくないし、もう元カレのことは吹っ切れてるからね」


 先輩がニッと白い歯を見せる。


「そうなんですか?」

「うん。実は白石君に声をかけたのは、それも関係しているんだ」

「えっ、どういうことですか?」

「えっとね、その……」


 珍しく、椎名先輩の歯切れが悪くなる。

 見ると、彼女はすっかり頬を染めていた。


(えっ——)


 俺が面食らっていると、先輩は小さな声で尋ねてきた。


「へ、変な意味じゃないんだけどさ……。その、神崎(かんざき)君の好きなものとか、知ってる?」

「……はい?」




◇ ◇ ◇




「なぁ、神崎。今欲しいものってあるか?」

「……は? なんだよ、急に」


 俺の問いかけに、神崎は眉をひそめた。


「誕生日、近いんだろ? ありがた迷惑かもしれないけど、神崎にはたくさん助けられたから、お礼をしたいんだ」


 聞き出した内容は椎名先輩にも共有する予定だが、そのための口実ではない。本心だ。

 本人は絶対認めないだろうが、神崎は自分も夏希のことが好きだったのに、身を引くだけではなく俺の背中まで押してくれた。


 その恩にどう報いるべきかと思っていたところで、椎名先輩から相談があった。

 彼女は神崎に想いを寄せていて、誕生日プレゼントを贈りたいらしい。

 俺は迷わず共同戦線を持ちかけた。誕生日が近いというのも、彼女からの情報だ。


「別に、そんな大層なことはしてねえと思うけどな」


 神崎が苦笑しながら首に手をやる。


「でも、俺的にはめちゃくちゃ助かったからさ。頼むよ」

「……わかったよ」


 重ねてお願いすると、神崎は「仕方ねぇな」とでも言いたげに、少しだけ口元を緩めてうなずいた。




◇ ◇ ◇




 季節は梅雨のシーズンに突入していたが、その日は雲ひとつない快晴だった。


(よかった)


 俺は安堵の息を吐いた。

 夏希と出かける予定だったから、ではない。今日は、椎名先輩が神崎とデートをする日なのだ。


 先輩は誕プレとして、ストロー型の飲み口がついた水筒を買っていた。

 いきなりプレゼントを渡して引かれないだろうか、と不安がっていたが、そもそも誕生日にデートに誘われた時点で、神崎も察しているだろう。


「……うまくいってほしいな」

「そうね」


 まるで同じことを考えていたかのように、夏希がすぐに反応した。


「先輩、告るつもりはないんだっけ?」

「えぇ。まだ一回目だから、と腰が引けていたわね」


 夏希がどこか楽しげに目を細める。

 普段、揶揄われてばかりだから、ちょっと仕返しできた気分なんだろうな。


「誕生日なんだから、そのままいっちゃってもいい気がするけどな。ある程度の好意がなきゃ、神崎も応じたりしないだろうし」

「あら、それは去年や一昨年の自分に対する言葉かしら?」

「うっ……悪かったって」


 思い返せば、去年も一昨年も、なんならその前も、お互いの誕生日は夏希と遊んでいた。

 もっと早く告っていれば良かった、と思うことはある。


(そうすれば、今頃は夏希ともう……)


「——(れい)?」

「っ……!」


 ジト目を向けられ、俺は咄嗟に顔を背けてしまった。

 それで、夏希は確信したらしい。


「今、変なことを考えていたでしょ」

「……うん、ごめん」


 素直に謝る。誤魔化せたかもしれないが、それは夏希に対して失礼な気がした。


「まったく……その、おうちデートではあるかもしれないけど、今日の目的は勉強よ?」

「わ、わかってるよ」


 今日は日曜で、明後日の火曜からテスト二週間前に入るのだ。


「にしても、最近頑張ってるよな。小テストも満点連発してるし……どうしたんだ?」


 何気ない問いだったが、夏希は頬を染めてうつむいた。


「夏希?」

「……澪が言ったんでしょ。同じ大学行きたいって」

「っ……!」


 俺は息を呑んだ。


(そのために、頑張ってくれてるのか……)


 胸が熱くなる。こんなにまっすぐ想ってくれる夏希が、たまらなく愛おしくて。

 気づけば、隣に座る彼女の肩を抱き寄せていた。


「ちょ、ちょっと澪……っ」


 夏希が驚きに目を見開くが、拒む様子はない。

 そっと唇を重ねると、彼女は一瞬身じろぎしてから、目を閉じて受け入れてくれた。

 柔らかく、じんわりと伝わる温かさに、気持ちがゆっくりほどけていく。


「ん、ふ……」


 何度も、何度も、繰り返すように口づけた。夏希の吐息に、気分がさらに高まっていく。

 ……が、ふと視界の隅に、机に放置した参考書が映った。


『おうちデートではあるかもしれないけど、今日の目的は勉強よ?』


 さっき、夏希が言っていた言葉が頭をよぎる。

 思わずビクリと身体が硬直し、慌てて彼女から唇を離した。


「ご、ごめん! また俺……っ」


 なんで、注意されていたのに抑えられなかったんだ。

 後悔が募る。これじゃ、真面目に勉強しようとしてた夏希の気持ちを踏みにじったも同然だ。


(何やってんだ……)


「はぁ……まったくもう」


 夏希の唇から、小さな吐息がこぼれた。

 怒られる、と思った次の瞬間——、


「そんなに怯えなくていいわよ」


 その声は、穏やかだった。

 顔を上げると、夏希は呆れたように笑っていた。


「な、夏希?」

「今のは私にも原因があると思うから、特別に許してあげるわ。……こういうのも、嫌ってわけじゃないし」


 夏希は気恥ずかしげに視線を逸らした。

 愛おしさと同じくらい、罪悪感が込み上げる。


「夏希、ありがとな……。あと、本当にごめん」

「別にいいわよ。このあと挽回してくれれば……と言いたいところだけど」


 夏希は視線を下げてニヤリと笑った。


「澪、そんな状態で集中できるの?」

「っ……!」


 顔が一気に火照る。先程のスキンシップで、俺はすっかり準備を整えてしまっていた。


「ふふっ、変なとこばっかり素直なんだから。……それで、どうするの?」


 夏希がいたずらっぽく見上げてくる。


「っ……」


 ごくりと唾を飲み込む。中途半端に欲が高まったせいで、今も気がつけば夏希の胸もとや太ももに目がいってしまっている。

 正直、集中できる気がしなかった。


「でも……いいのか?」

「今回は特別よ。勉強に集中してもらいたいし……途中で手を出されても困るもの」

「そ、そんなことしねえよ」

「どうかしらね? 澪は時々、抑えが効かなくなるみたいだから」

「うっ……」


 今さっき暴走したばかりなので、反論できない。

 夏希はくすっと笑うと、一転して緊張した面持ちで立ち上がった。


「その、まず間違いなく親は帰ってこないとは思うけど……ここじゃちょっと落ち着かないし、私の部屋に来なさい」

「あ、あぁ」


 なんとなく視線を合わせられないまま、俺たちはそろそろと階段を上がり、夏希の部屋に足を踏み入れた。

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