第15話 体は、そうでもないみたいね
「な、夏希?」
俺は慌てて涙を流す彼女に駆け寄り、その肩に手を添える。
「やっぱり、前倒しは嫌だったか? ごめん、俺、勝手に——」
「っばか!」
夏希の一言が、鋭く俺の言葉を断ち切る。
その声に、胸の奥がキュッと締めつけられた。
「本当にごめん——」
「嬉しいに決まってるでしょ!」
「……えっ? い、今、嬉しいって……」
「だって……」
夏希がうつむきながら、囁くように続ける。
「澪が、私のために頑張ってくれたんだから」
「あっ……」
……なんだ。そういうこと、だったのか。
胸に温かいものがじんわりと広がっていく。
たまらず、夏希を抱きしめた。
「……ありがとう」
「なんであんたがお礼を言うのよ……ばか」
夏希は俺の胸に顔を埋めて、静かに瞳を濡らした。
泣き止んでからも、夏希は離れようとしなかった。
「それにしても——」
腕の中で、ぽつりと切り出す。
「ん?」
「ちょっとは自信つけたみたいだけど、澪もまだまだね。サプライズをしてくれて、嫌がるわけないじゃない。私、そんなにわがままじゃないわよ?」
「うっ……ごめん」
思わず視線を落としてしまう。言われてみれば、その通りだ。
「でも、嬉しかったのは本当だから……ありがと」
夏希が愛おしそうに瞳を細めて、手首に嵌めたブレスレットを撫でる。
俺はそっとその肩に手を添えると、言葉もなく抱き寄せた。
「っ……」
夏希は小さく息を呑み、そのまま胸元に頬を寄せてくる。
それが嬉しくて、俺は彼女の顔を覗き込み、静かにキスを落とした。
夏希は驚いたように身体を強張らせたが、それもほんの一瞬で、やがて身を預けるように目を閉じた。
想いを伝えるように、何度も口付けを交わす。
「……ふふっ」
唇を離すと、俺の胸に顔を埋めたまま、夏希がくすっと笑った。
「澪はまだまだヘタレだけど……体は、そうでもないみたいね」
「っ……!」
言葉の不意打ちに、固まってしまう。
(そうだった……夏希って、案外こういうとこ積極的なんだよな……)
火照った頬を隠しながら、そっと腰を引く。
「わ、悪いか?」
「そんなことは言ってないじゃない」
夏希が揶揄うように口角を吊り上げる。
しかし、一度うつむいた彼女は、一転してどこか気恥ずかしそうに、目元を赤らめて見上げてきた。
「それで……自信をつけた澪は、どうするの?」
「——夏希っ」
反射的に、俺は彼女の唇を奪っていた。
先程よりも乱暴に、何度も。
一度離れると、逃がさないように後頭部を支えて、さらに深く唇を重ねる。
「ん……っ!」
夏希が驚いたように喉を鳴らした。
ひと息つくと、俺は再び顔を近づけた。夏希は肩で息をしながら、
「ちょ、ちょっと待って——」
「そっちが煽ったんだろ」
俺は四の五の言わせず、再び唇をふさぐ。
そして、夏希の口が少し開かれた瞬間を見逃さず、舌を口内に侵入させた。
「んんっ⁉︎」
夏希が驚いたように目を見開いた。
やり方なんてわからないけど、必死に舌を絡めたり口の内側を味わっていると、次第に彼女の体から力が抜けていくのがわかった。
「はぁ……はぁ……!」
唇を離すと、夏希は息を切らしながら、胸に倒れ込んできた。
ディープキスだけでも、立派な進展だ。しかし、腕の中ですっかり頬を上気させている彼女を前にして、さらにその先へと進みたくなる。
「夏希……いいか?」
指先を震わせながら、盛り上がったふくらみに手を這わせる。
「っ……!」
夏希はビクッと体を震わせたあと——、
一瞬だけ潤んだ瞳をこちらに向け、うなずいた。
「おお……っ!」
初めて触る感触に、思わず感動の声が漏れてしまう。
想像よりも柔らかく、それでいて張りがある。どこまでも指先が沈んでいくような感覚とともに、内側から押し返してくる弾力もあった。
「夏希、すごいよ……っ」
「い、いちいち言わないで……!」
夏希はゆでダコのように真っ赤になりながら、唇を引き結び、顔を背けている。
(普段はツンツンしてんのに、なんて表情してんだよ……!)
服の上からだけじゃ、物足りない。
俺はシャツの中に手を忍ばせると、下着ごと手のひらで包み込んだ。
「あっ、ちょ……!」
夏希が焦ったような声を上げるが、制止しようとする手は弱々しい。
下着の上からだと、さらに感触が鮮明になる。何より、狭間の部分などは直接肌に触れることができて、俺はなんだか目が回りそうだった。
「ん、あっ……」
夢中になって揉んでいると、夏希の吐息の種類が変わり始めた。少しだけ高くなっている気がする。
……もしかして、感じてくれてる?
顔を見ると、彼女は切なげに瞳を閉じていた。
「あっ、んん……っ」
俺が指に力を入れるたびに、小さく開かれた口から甘い声が漏れる。
(これ……そういうこと、だよな?)
俺は机の一番上の引き出しに目を向けた。
念の為に買っておいたものの、まさかこんなにも早く使う機会が訪れるとは。
(だめだ。焦るな。まずは——)
俺は胸から手を離して、すべすべの肌を下へとなぞっていく。
お腹を通過し、いよいよその部分に到達しようとした、そのときだった。
「待って……」
「っ——」
頭上からか細い声が聞こえ、俺は一気に現実に引き戻された。
夏希が涙を浮かべて、訴えかけるようにこちらを見ていた。
「あっ、ご、ごめん! 嫌だったよな——」
「い、いえ、そうじゃなくてっ」
夏希は慌てたように首を振った。
「嫌じゃないけど、その……。ふ、深いキスをしたのも初めてだし、この先はまだちょっと怖い……っ」
スッと頭が冷えていく。
そうだ。女の子のほうが覚悟がいるに決まってる。俺が欲に溺れてどうするんだ。
ゆっくりと息を吐き出し、先程までとは打って変わって、優しく夏希を抱きしめる。
「ごめんな、怖い思いさせて……。俺、焦ってた」
「いえ……」
夏希が肩の力を抜いて、体重を預けてくる。
「こっちこそ、その……煽ったのに、我慢させてごめんなさい」
「煽った自覚は、あったんだな」
「あっ……」
申し訳なさそうに眉を下げていた夏希が、みるみる赤くなっていく。
俺は笑いながら、その頭を撫でた。
「でも、夏希が嫌がってないってわかっただけで、嬉しいよ」
「そ、そう? でも——」
夏希が頬を染めたまま、チラリと視線を落とした。
「その、まだ収まってはないみたいだけど……」
「そ、そりゃ、簡単に収まるかよ」
ここまでやったのだ。一度スッキリさせなければ、落ち着かないだろう。
そんな俺の心の声を読んだわけじゃないだろうが、夏希はおずおずと見上げてきて、
「えっと、手とかなら、いいわよ?」
「えっ……」
反射的にうなずきそうになり、先程の申し訳なさそうな表情を思い出す。
「いや、無理しなくていいぞ」
「む、無理じゃないわよ」
夏希はムキになったように言い返してくる。
「それに……苦しいでしょ?」
「まあ、そうだけど……」
「じゃあ、任せて。私なりに頑張るから」
夏希が、そっと俺のズボンに手を添えた。
「ほ、本当にいいのか?」
「えぇ。初めてだから、上手くできないと思うけど……私も、一歩ずつ進んでいきたいって、思ってるから」
「夏希……」
そこまで言われては、もう断れなかった。
最初のほうこそ、緊張で少し元気をなくしていたが、改めて状況を認識してしまえば、あとは早かった。
「夏希、ありがとう……。その、めっちゃ良かったです」
「なんで敬語なのよ」
夏希が呆れたように笑った。どこか安堵しているような表情だ。
スッキリさせれば少しは落ち着くかと思ったけど、むしろ気持ちは高まっていた。
「じゃあ、俺もお返しするよ」
太ももに手を添えると、夏希が手首を掴んできた。
「わ、私は大丈夫よ」
「いや、でも俺だけやってもらうのは申し訳ないし」
「べ、別に私がいいって言ってるんだから、いいのよ……本当に」
夏希は頑なだった。
思わず、まつ毛を伏せてしまう。
「……やっぱり、怖いか?」
「っ……!」
夏希が息を呑む気配がした。
その手がわずかに震える。迷いを含んだ沈黙のあと——彼女はゆっくりと、俺の手首を離した。
「……その言い方は、ずるいじゃない……」
夏希が真っ赤になりながら、そっと視線を逸らした。
——それがどういう意味を表すのかは、さすがにわかった。
太ももに添えた手に、ゆっくりと力を込め、押し広げていく。
夏希はもう、両手で顔を覆っていた。全身に力が入っているのがわかる。
「夏希、力抜いて……大丈夫。無理矢理とかしないし、ちゃんと優しくするから」
「わ、わかってるけど……っ」
夏希の声は震えていた。
(そりゃ、怖いよな……)
俺は太ももから手を離し、夏希の手をそっとどかす。
「澪? ……ん」
優しく口付けを落とした。
「大丈夫だから」
合間に大丈夫、大丈夫、と繰り返しながら、短いキスを繰り返す。
「ん、ん……」
夏希の体から、徐々に力が抜けていく。
本音を言えば、今すぐにでも触れたい。でも、それ以上に、こういうスキンシップに苦手意識を持ってほしくなかった。
何度目になるかもわからないキスを終えると、俺は口を離した。
夏希がそっとまぶたを開く。潤んだ瞳は、気恥ずかしげに、それでも確かにこちらを見つめていた。
「じゃあ……触るよ?」
緊張で、声が上ずってしまう。
夏希は顔を背け——小さく、コクンとうなずいた。
「っ……」
俺は思わず唾を飲み込んでしまいながら、震える指先を、そっとその部分に這わせた。
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