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第14話 サプライズ

誤字報告ありがとうございます!

 昼食後は公園内を再度散策したり、疲れてくるとベンチに座って、何気ない雑談を交わした。


 特別なことをしたわけじゃないのに、気がつけば陽は傾き始めている。

 ……そろそろ、出ないとな。


「——夏希(なつき)


 隣に座る夏希に体ごと向き直り、俺は改まった口調で切り出した。


「今日はありがとな、付き合ってくれて。楽しかったよ」

「と、当然でしょ、彼女なんだから……。というか、このあとご飯も食べるんじゃないの?」

「そうだけど、なんか言いたくなってさ」

「変な人……。でも、お礼を言うのは私のほうだわ」

「えっ?」


 俺が目を瞬かせると、夏希は視線を逸らし、髪の毛をいじりながら続ける。


「今日のプランもそうだけど、いろいろ気を配ってくれたし、水筒も嫌な顔ひとつせずに付き合ってくれて……卵焼きも、嬉しかった。だから、その……ありがと」


 夏希が一瞬だけこちらに目を向けて、目元を緩めた。


「それこそ、彼氏として当然なんだけどな。でも、楽しんでくれたなら、よかったよ」

「えぇ。けど、今のままじゃ満点はあげられないわね」

「えっ?」


 今のままってことは、まだしてない何かがあるということだ。

 ……まさか、アレに気づかれたわけじゃないよな?

 額から汗が流れる。


「そんな焦らないで。……これよ」


 夏希が苦笑しつつ取り出したのは、携帯だった。


「……あっ」


 写真か。そういえば、お出かけデートのときはいつも撮ってたな。

 ()()()()()()に気を取られていて、すっかり抜け落ちてた。


「ごめん。うっかりしてた。……あの木の下とか、どうだ?」

「そうね。良いんじゃないかしら」


 二人で肩を寄せ合い、カメラのシャッターを切る。


 もちろん、こうして思い出に残すこと自体はすごく楽しいし、照れくさくもある。

 ただ、寄り添うだけの自分たちを見ていると、少しだけ物足りない気がした。


「どうしたの? ブレた?」


 夏希が携帯を覗き込んでくる。


「なんだ、ちゃんと撮れてるじゃない——っ⁉︎」


 夏希が驚いたように息を呑んだ。

 俺が、その肩に手を回したからだ。


「れ、(れい)っ?」

「こうやって撮りたいんだけど……ダメか?」

「なっ……⁉︎」


 夏希は一瞬で赤くなったあと、視線を泳がせた。

 やがて——、


「そっちが忘れてたくせに……調子に乗らないでよね」


 そうつぶやきながら、俺の腰にそっと手を添えてくれた。

 心臓がドクンと跳ねる。


「っ……ありがとう」

「い、良いから早く撮りなさいよ」

「あ、あぁ。じゃあ、はい、チーズ——」


 シャッターを切ろうとしたその瞬間、脇腹をくすぐられた。


「ひゃっ……!」


 突然の刺激に、変な声が出てしまう。周囲から好奇の目線が突き刺さった。

 犯人など、言うまでもない。


「お、おいっ、夏希!」

「大きな声を出さないでもらえるかしら? 恥ずかしいわ」


 頬が火照るのを感じながら抗議するが、夏希は澄ました表情でうそぶいてみせる。

 しかし、よく見ると、その口角はほんのり上がっていた。


(楽しそうだな)


 イタズラをされたはずなのに、自然と微笑んでしまう。

 これが、惚れた弱みってやつなんだろうな。


「……まあ、忘れてた俺が悪いしな。次はやめろよ?」

「フリかしら?」

「違うって」


 再びカメラを構える。

 さっきのイタズラが嘘のように、夏希は緊張した面持ちで俺の横に立った。


「夏希、笑って」

「わ、わかってるわよ」


 夏希が頬を染めてそっぽを向いた瞬間、俺はシャッターを押した。


「あっ、ちょっと、なに勝手に撮ってるのよ! 消しなさい!」

「えっ、なんで?」

「い、いいからっ!」


 夏希はサッと俺の携帯を取り上げると、素早く写真を削除した。

 ぬかりなく、『最近削除した項目』からも消して、突き返してくる。


「まったく……もう、ふざけるのはなしよ」

「あぁ、わかってるよ」


 ふざけたわけじゃないんだけどな。

 夏希の照れた顔を保存できなかったのは残念だが、仕方ない。


「じゃあ、撮るぞ」


 今のやり取りで少し緊張がほぐれたのか、夏希の表情は和らいでいた。

 お互いの肩と腰に手を回し、ピッタリと体を寄せ合う姿は——、


(バカップル、だな……)


 写真を見ていると、途端にむず痒さを感じた。

 夏希も同じだったようで、「ま、まあ、悪くはないんじゃないかしら」と視線を逸らしている。


 幸い、同じように写真を撮るカップルもちらほら見受けられたため、悪目立ちすることはなかった。

 しかし、なんとなく居心地が悪くなり、俺たちはそそくさと公園を後にした。




 夕食はファミレスで済ませた。遠慮する夏希を説得するのは少し大変だったが、見栄を張らせてくれと説き伏せた。

 ファミレスで何を大袈裟な、とは自分でも思うけど、好きな女の子相手には出してあげたくなるものだ。


 それに、これから行う予定のサプライズの代わりに、ちょっと洒落たディナーというのも選択肢にはあった。

 夏希の性格と俺のお財布事情を考えて、今回はパスしたが、せめて奢りたかった。


 しかし今更、やっぱりディナーのほうがよかったのではないか、という考えが頭をもたげる。

 きっと、どんな選択をしていてもこうなっていただろう。


(結局は俺次第、だよな)


 ここまでは成功と言っていいと思う。

 最寄り駅の改札をくぐり抜けるときに、チラリと夏希の横顔を伺うと、どこか満足そうな笑みが浮かんでいた。


(……うん、なんとかなるはずだ)


 外に出ると、世界はすっかり紫色に包まれていた。

 青白い街灯の下を、指先を絡めながら歩く。少しだけ肌寒い風が、頭を冷やしてくれた。


「さすがに夜は冷えるな。大丈夫か?」

「えぇ、食事もしたし。……今度は、私が払うから」


 夏希がわずかに唇を尖らせる。

 俺は頬を緩めた。


「あぁ。頼むよ」

「ちょっと、払わせる気ないでしょ」


 鋭いツッコミが飛んでくる。まだまだ元気なようだ。

 ……と思っていたが、家が近づいてくるにつれ、夏希の歩くスピードが少しずつ遅くなっている気がする。


「疲れたか?」

「い、いえ、大丈夫よ」


 夏希が慌てたように首を振る。

 どこか挙動不審だが、たしかにあまり疲労の色は見られない。


(……もう、言うしかないよな)


 俺は緊張で乾いた唇を舐め、硬い声で切り出した。


「じゃあ、さ。このあと少しだけ、ウチに寄ってくれないか?」

「えっ——」


 夏希が驚いたように目を見張った。

 前に向き直り、小さくあごを引く。


「……いいけど」

「ありがとう」


 俺はホッと息を吐いた。

 でも、これでようやく舞台が整っただけ。本番はこれからだ。




 夏希を家に招き入れ、そのまま自室に案内する。

 父さんと母さんはそれぞれ同僚や友人との食事に出掛けているので、すぐには帰ってこないだろう。


「そこに座ってくれ」


 夏希を椅子に座らせると、俺はゆっくりと深呼吸をした。


「やけに真剣な表情をしているけれど……どうしたのよ?」


 夏希が眉を寄せる。苛立っているというより、緊張しているんだろう。

 ——これ以上は、待たせられない。

 俺は意を決して、口を開いた。


「実は、夏希に渡したいものがあるんだ」

「えっ?」


 隠していた袋を引き寄せると、呆気に取られている彼女に差し出す。


「はい、これ」

「……プレゼント?」

「まあ、そんなところかな」


 小さく肩をすくめて、曖昧にうなずいた。顔が熱を帯びているのを、自分でもはっきり感じていた。

 袋を受け取る夏希の指は、かすかに震えていた。まつ毛を伏せながら、おずおずと上目遣いを向けてくる。


「中、見てもいい?」

「あぁ。気に入ってもらえるかわからないけど……」


 夏希が袋の口をそっと開け、小さく息を呑んだ。

 そろそろと取り出された手のひらには、小さな輪っかの輝き。


「ブレスレット……よね。かわいい……」

「っ……よかった」


 瞳を細めてつぶやく夏希に、俺は胸を撫で下ろした。


「ネックレスと迷ったんだけど、より場所を選ばずつけられるかなって思って。もちろん、無理につける必要はないけどさ」

「つ、付けるに決まってるでしょ! ……あっ」


 夏希は勢いよく答えたあと、ハッと息を呑み、気まずそうに視線を逸らした。


「ごめんなさい、大きな声出して。……でも、どうして?」


 そうこちらを見上げる夏希の目元は、ほんのり赤らんでいる。

 俺は照れくさくなって、頭を掻いた。


「実は、その……一ヶ月記念のつもりで」

「……えっ?」


 夏希の目が真ん丸になり、口も小さく開いたまま言葉が出ない。


「本当は明後日だけど、放課後練もあるだろ? だったら時間ある今日がいいなって思ったのと、一週間記念の分まで驚かせたくてさ」


 俺が説明しても、夏希は瞬きもせずに固まっている。


(……やばい、気に入らなかったか?)


 心臓の鼓動が、先程までとは別の意味で早くなる。

 慌てて頭を下げた。


「勝手に前倒ししてごめん。嫌だったら——えっ?」


 今度は、俺が目を見開いて固まる番だった。

 ——夏希の瞳に雫が盛り上がり、静かに頬をつたってこぼれ落ちた。

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