7 保管容器
「何のために俺たちがお前に田中って名前つけたと思ってるんだ。名前は力を蓄えるって散々会議でも話してただろ。一応俺たちも人ではあるけど普通の人よりはちょっと強い自覚がある。それが何人も、課長や大月さんや小野寺さん達他のチームも全員、ルイちゃん、葛君、佐藤さん、火男さんたちまでお前のことを田中さんと呼んでもらった。ああ、ついでに水木樋にもな。お前がもともと何だったのか知らないけど、お前はもう田中さんなんだよ。俺たちによって存在を縛られた。脳みそが入ってないユピテより下の存在だ」
自分の定義を他者によって縛り付けられていた。全く気がついていなかったが「田中」が「田中」となった瞬間から弱くなっていたのだ。肉体も魂も存在も何もかも全てが。
山吹はそのまま田中の心臓を引きちぎって取り出した。もちろんその痛みを全て田中は味わっている。そして何もなくなったところに水木から渡されたフェイク品の神の心臓を突っ込みぐりぐりと押し付けた。やがて丁度いい座りの居場所が確定したのかゆっくり腕を引き抜くと山吹は満足そうに笑って一歩下がる。
目の前では上半身だけの田中が床でのたうち回っている。相変わらず声は出せないのでごろごろとそこら中を転がっていた。
「部屋片付けておいてよかったな」
「本当ですね」
「さて、神の心臓の入れ物もちゃんと用意できたことだし。この部署を襲撃した事件の重要な証拠品アンド殺人からくり箱の中身として承認するとしよう」
その言葉に田中は目を見開き何かを訴えているようだが二人は全く気にしない。なぜなら今床を転がっているのは証拠品だ。自分たちが取り扱う「物」でしかない。山吹が取り出した心臓を握りつぶす。笛吹がふっと息を吹きかけると心臓は一瞬で炭化して消えた。
「あ、もしもし大月さん。今神の心臓のちょうどいい入れ物が用意できたのでこれから保管したいんですけど。承認用番号作ってもらっていいですか」
何事もなかったかのように血まみれの腕で事務所の内線を使って連絡を入れる山吹。すぐに許可が下りたらしく電話を切った。笛吹はのたうっている証拠品を踏みつけて動きを止めた。
「埃が立つからやめてください。山吹さんとりあえず体洗って着替えてくださいよ。そこら中血でベタベタになったら掃除大変です」
「そうはいっても着替えなんてねえんだけど。手くらいは洗ってくるか。警察署って絶対お泊りセットの自販機あったら売れると思うんだけどな」
「それはコンビニでお願いします。それにしても、山吹さんがなんでローラー可愛がるのかようやくわかりましたよ。大食いっていう共通点あったんですね」
「腹減ってる時に食べ物が何もない絶望感ヤベェからな。あいつの気持ちよくわかるからちょっと親近感わくんだよ。今もたまーに見に行くけど、スピスピ寝息立てて寝てるの可愛いぞ」
じゃあちょっと席外すわと言って事務所を出る山吹を見送って笛吹は踏みつけている証拠品をチラリと見た。それの口がゆっくりと動く。
た す け
「保管容器がしゃべるな」
ぐしゃ。そんな音を立てて、顎を踏み砕いた。
一時間後。事務所に来た大月は眉間に皺を寄せる。どうやら掃除をしていたらしく二人は軽く汗ばんでいるがそんなことはどうでもいい。血まみれのシャツを着た山吹、バナナを食べる笛吹、大きかったはずのからくり箱は小さな木製の水槽にジョブチェンジをして熱帯魚が泳ぎ、なんかあちこち部屋が傷だらけだ。そして何よりも神の心臓の気配を感じる「専用保管容器」がなんともまあ。
「美しくない」
「仕方ないッスなあ、下顎も下半身もないですから。犯人は笛吹です」
「苦悶の表情じゃねえかよ」
「苦しいんでしょうね、無理やりバカ強い心臓突っ込まれて。犯人は山吹さんですから」
平然と応える二人に、大月は拳骨をかましたのだった。
「とりあえずこっちも片付いた。小金井ハルは消えて、佐藤がボスザルにケツバットやりに行ったからな。おかしな部下が増えることもない、ひとまずは私達の残業案件は回避だ」
「水木樋は?」
「放っといて大丈夫だ。今回はイレギュラー、基本は自分で動く奴じゃない。おそらくボスザルの事も利用していただけだ、誰かにこき使われるキャラじゃないからな。小金井ハルが消えたからルイも今まで通り助手の仕事に戻す。他に何か質問は」
大月の言葉に山吹はうーん、と考えてから手を上げる。
「一応すり合わせしていいですか、最初から」
「いいぞ。山吹は覚えるだろうが記録は必要だ、笛吹議事録係な」
「はい」
「小金井ハルと田中は疑似的な神を作る実験をしていた。これはボスが無茶苦茶強い神と敵対していたからだ。便利な道具を作ろうとしていたんだな。だがボスが欲したのはバカ強い神の心臓だ。この二人に知識や能力を与える事で心臓の材料にしようとしていたんだろう」
「ああ、やっぱりね」
山吹はだいたい予想していたらしい。




