5 追手
最初の箱がどこに置かれていたのかは資料に書かれていなかったが、箱の周りに血だまりがあることを発見されたのならおそらく家の中に普通に置いてあったのだろう。倉庫など普段人の出入りのないところにしまいこまれていたら誰も気がつかない。
「出所は同じはずなのにずいぶんと性格が違うんですねこの二つ」
「つーかさ、片倉ひまりの壺にもちょっと似てるとこあるな。あれは憎しみや恨みを長い時間かけて蓄積してきた。要するに閉じ込められた状態で長年引きこもってたわけだ。一つ目の箱が片倉ひまりと同じだとしたらなんか色々とやばいものをため込んだのかもしれない」
「それに比べると二つ目の箱はこれといって特に何もため込んでいないってことですか。箱がある家の人にも大切にされているし悪いものでもない。ただ最近窮屈だから引っ越しを検討してるみたいな。太っちゃったんですかね?」
「衣替えみたいにいうなよ。でもまぁそんな感じかもな。名前だって呼ばれ続ければ力となる。二つ目の箱は悪いものじゃなくて別のものがパンパンに溜まってたのかもしれない。……ちょっと大月さんに聞いてみるか」
「何か有益なことにつながりそうですか?」
二つ目の箱はあくまで事件としては取り上げられていない、一般人の昔話で終わっている。大月の事だからその話を聞いたときに調査の必要があると思えば調査を命じていたはずである。それをやっていないという事は既に終わっていて追加調査が必要ないと判断したということだ。
「もちろん二つ目の箱を事件として持ち上げる気は無い、大月さんの判断が間違ってると思えないからな。俺が知りたいのはこれから佐藤さんと交渉しなきゃいけないだろ、あの人に勝てる材料やヒントが何かないかなって思って。重点を置くべきは箱そのものじゃなくて箱の中身だけど、その中身に変わる位凄まじいものを手に入れないといけないわけだからな」
運転をしながらチラリとルームミラーとサイドミラーを見た山吹は小さく笑った。つられて笛吹もサイドミラーを見ると後ろから一台車が走ってきているのが見える。
「佐藤さんは絶対に神の心臓を欲しがる。それに代わる別の神の心臓っぽいものを俺たちも用意する必要がある。後はそれを保管できるだけの頑丈な入れ物だ」
「佐藤さんにはこの心臓を渡すんですか、それとも別の何かを渡すんですか」
「そりゃ本物は渡したくないよ、あくまでこれは証拠品の一つだ。組織が管理してるものなんだから俺個人の判断で渡すことができない。だからそれに代わるものを渡す方向でいきたいけどムズイんだよな」
そこまで言うと山吹は急ブレーキを踏んで一気にハンドルを右に切る。車がドリフト状態となり転回した。百八十度方向転換をすると一気にアクセルを踏んで逆送状態となったまま目の前に迫りくる車に一気に突っ込む。いきなりの出来事に相手は動揺したのか、一瞬だけ車が左右にぶれた。
「あれ吹っ飛ばして」
短い指示に笛吹は小さく口笛を吹いた。すると走ってきていた車のフロントガラスを含め車体の前の部分が大きくへこみ歪な走行をしたかと思うと、まるで台風の日のビニール袋のようにポンと空高く舞い上がる。くるくると回転しながら宙を舞っているが重力とはまた違う別の力で引っ張られているかのように凄まじい勢いで地面に叩き落とされた。
「やっといて今更ですけど、なんですかこの車」
「運転席に誰も乗ってなかったから余計なちょっかいかなって思って。田中さんは手を出してこないだろうから」
「馬鹿女子高生……いや、あっちは小野寺さん達に発破かけてあるから違いますね」
「俺の予想だとハルちゃんの使いっ走り。前に大月さんと打ち合わせした時も手駒たくさん書いてあったからな」
車を止めて二人は車の外に出る。すると壊れているはずの目の前の車は大きな音を立ててブルブルと震え始めた。
「すごいですね、今時の車って震える事ができるんですね」
「アクションを起こすって事は諦めてないってことだ。神の心臓狙ってきたか、ハルちゃん」
「小野寺さん達にボコボコにされてるんでしょうね。それでスーパーアイテムを手に入れて自分の力をつけたいか、親分に助けて欲しいのか。いずれにせよちょっかい出されたなら何とかしないといけません」
目の前の車からは禍々しい気配を感じる。感じてはいるが二人ともどこ吹く風といった様子だ。フロントガラスが砕け散り中から黒い触手のようなものが伸びてくる。
「どっちがいきますか」
「それはどう考えてもお前だろ。俺触りたくねえよあんなの、なんかヌメってしてるし」
みれば確かに表面がつやつやと光輝いている
「エステ帰りでしょうか。じゃあ、仕上げの施術でもしますか」




