3 妙な箱だが皆平和
支払いを済ませて話をそこで区切り男は店を出た。別に関わらなくても良いのだがちょっとだけ暇つぶしにということでその神社に向かってみることにしたのだ。父親も普段暇だろうし土産話でも持って帰るかということで。あと母の墓に供える花も買っていない。神社と言えば植物が色々と植えてあると思うのでもしよければ何か分けてもらうか、花が手に入る場所を教えてもらおうと思いその神社に向かった。
勝手なイメージだが田舎にある神社ということで普段は無人でそこを管理する人が神主なのだろうと思っていたが、意外にも神社内に住居があるそれなりに立派な神社だった。もちろん明治神宮などの有名な所に比べればかなりこぢんまりしているが。小ぶりながらも本殿があって鳥居もきちんと立っている。
中に入るとまっすぐ住居の方を訪ね出てきた人に、今聞いた話をして素直に興味がわいたから話を教えてほしいと言った。もしこれが触れて欲しくない話題なら面白おかしく聞きに来るよそ者に対してあまり良い印象を持たないだろう。相手のリアクションを見て引き下がるかどうか決めようと思ったのだ。すると神社の神主であることを名乗ったその男性は、じっと男を見つめにこりと笑った。
「かまいませんよ、中へどうぞ」
「ありがとうございます。すみません、冷やかしのようなことをして。何せ僕の住んでるところ何も刺激がないもので」
「それは私も同じですから大丈夫です。それに噂通り別に悪いものではないですからね」
中に通され客間に入ると早速ですが、と話を始めた。
「信じられないと思うので聞き流して欲しいんですけど。血筋のせいなのか昔からよくないものの気配はわかるんです。別に幽霊が見えるとか妖怪退治をしているとかそういうことではないんですけどね。良くないものというのも人間に仇なすかどうかという基準で私は考えているので、結構定義も曖昧なんですが」
聞けば確かに箱をお祓いした。しかし箱を見た時から思っていたがこれといって特に悪い雰囲気ではなく至って普通の箱だ、という印象だったそうだ。「なにか」はいる感じだが、嫌な気配ではない。一応略式のお祓いをしても悪いものを払ったときの手ごたえのようなものがない。
「お祓いした時って手ごたえってあるんですね、初めて知りました」
「それ俺も思った。どんな手ごたえなんだろうな、殴り飛ばしたような感覚でもあるのかな」
「そのからくり箱の持ち主はなんでその箱を持っているんでしょう。最初の箱みたいに代々伝わるとかなんでしょうか」
「それは彼氏さんも疑問に思ったみたいで色々と聞いたみたいだ。でも長年ずっと家にあると風景の一部というか深く気にしてなかったみたいで、詳細知ってるのは九十五歳になるじいさん一人だけ。他の家族はからくり箱だっていうこと自体知らなかったらしい」
「知らなかったんですか」
「何せ引き出しが付いていて普通に棚として使えるものだったらしいので。大きさの割にあまり物が入らないなと思ってたらしいんですけど、昔の物だしこんなもんなのかと思っていたみたいです。鍵がつくわけでもないので貴重品は入れていない、本当に普段気にすることなくそこに置いていたんだとか」
何かの時にあれが実はからくり箱だと知り、手順通りに箱を動かしていくと開く仕組みなのだと後で聞いたらしい。結局勝手に移動しているということ以外は本当に何か害があるわけではないのでそのままにしておいた。
まるでヤドカリみたいだなと男は思った。男の箱に対する印象は箱自体に何かがあって動いているというよりも、中身が存在してそれが箱ごと移動しているように思えたのだ。何のために移動しているのかわからないが、悪いものでないのなら確かに慣れてしまうのかもしれない。これが困った存在だったり害をなすものだったら死ぬ気で対応しているだろう。
なんとも不思議な箱ですね、という話になった時神主がそうなんですけどね、と微妙な切り返しをした。
「実はこの箱について詳しかったおじいさんが先月亡くなって」
「失礼を承知で聞きますけど、実は箱が呪われてておじい様が犠牲に、みたいな事ではないですよね? 九十五歳ならお年でってことですよね」
「もちろんそうです。眠るように逝かれたので大往生だったそうですよ。ただ、その箱をどうするか家族が困ってるみたいなんです。そもそもこの箱が何なのかわからないし、一応おじいさんはこの箱大切にしていたそうなので。処分するのもなんだか忍びないねってことで」
「どうすることにしたんでしょうね」
「とりあえず今まで通り家で保管することにしたらしいです。箱もおじいさんの形見だから、ということで」




