2 累の案件
人の強さがはっきりとわかるようになってきたある日、累は保護者である藤堂に呼ばれた。家ではなく指定された住所に来いとの事だった。この頃には藤堂と会話はおろか会うことも稀となっていた。生活費は毎月きちんと振り込まれていた。恩を感じていたわけではないが、何かを言われたらそれをやるくらいはしなければと思っていたので一人指定された場所に行く。
たどり着いた場所は雑居ビルだった。そこの地下二階に行くと地下駐車場があり一台の車が止まっていた。運転席に座っていたのは藤堂だ。一言だけ車に乗るように言うとそれに従い助手席に乗った。すぐに車は出発しどこかに走り出す。車内では会話は一言もなかった、これからどこに行くのか何の用事で呼び出したのか聞いても無駄だと思ったからだ。
子供の頃から感じていたが藤堂は自分の言いたいことだけ言うとこれで会話は終わりと言わんばかりに累の質問には答えないことが多い。
高速道路を使いどこかで降りるとだんだん町から離れ自然が多くなってきた。その先に何かがあるとは思えないのだが。
「本人から聞き取りができたのはここまでだ。その先は本人が頑なに口を開こうとしない」
「言いたくない、っていう感じじゃないですね。言うことができないっていうところですか」
「察しがいいな、多分その通り。大月さんも同じ見解だった。そこで何かがあった、しかしそれをルイちゃん本人が言葉にすることができない。他人にはわからない制約みたいのがあるんだろう。この日以来保護者である藤堂は表向きには行方不明だ」
保護者による連れ出しなので誘拐ではない、そもそも事件性がないので警察内では何も取り扱いがされていない。累が行方不明者の申請をして終わりだ。
「藤堂は死んでる。小野寺さんが別件で対応してた時たまたまルイちゃんを見つけて保護したんだそうだ。その時は小野寺さんも忙しかったから別のチームに彼女を任せてすぐに現場に戻ったらしいんだけど」
「調査は行われたんですか」
「ざっくりと。本来の調査担当する小野寺さんが別件にあたってたから別のチームが課長の指示で動いた。でもあまり詳しく調べなかったらしい、めんどくさかったのかその必要はないと判断したのか知らないけど」
別のチームがまとめたと思われる資料を山吹はデスクから取り出した。本当に簡単にまとめられていてA4の紙一枚分だ。
「藤堂って男がルイさんを引き取ったのも初めから何かに利用するためだった。それが儀式のようなものだったとして、ルイさんを使おうとしたけどルイさんの力が強すぎて自分に跳ね返って来ちゃったみたい……本当にざっくりですね。なんとなくわかりましたけど」
「ここからは課長からのワンポイントアドバイスだったんだけど。名前っていうのは呼ばれるたびに名前ポイントが貯まっていく。言葉にも漢字にも一文字一文字に意味がある。良い意味の名前を周りの人からたくさん呼ばれればそれだけその人はレベルが高い、逆に悪い意味の漢字を使った名前はどんどん悪いものが溜まる。ルイちゃんの名前も初めから利用される目的で産まれた時につけられた。違うかな、そのために産まれたのか」
そういえばそんな風習がどこかにあったな、と笛吹は思った。双子が生まれたら片方間引くとか、神に捧げる生贄にするとか、悪いものを一身に受けるためだけに存在するものとか。
累ヶ淵の怪談では一度殺され女が別の人間に生まれ変わったのではないか、重ねて生まれてきたのではないかというところからつけられていた。累は一体何を重ねられて生まれたのか。
「ゲームでいうとチートアイテムみたいなもんだ。レアすぎて手に入りにくい、一度使うとゲームの全体のバランスが崩れるのあるだろ。途端にそのゲームがイージーモードになってクソつまらなくなるやつ」
「線香でいうと全て燃えるのに四時間位かかるやつとかですかね」
「すごくわかりやすいけど、よく思いついたなその例え。まさにそれ」
名前は目に見えるものではない。悪い意味があるかどうかなど全てを知っている者もいない。だが確実に言霊が募っていく、呼ばれ続けることで力を蓄える。本人が望まないことであったとしても、改名しても、どうすることもできない。
「ちなみに興味本位でお聞きしますけど。この少なすぎる情報から山吹さんは何があったと思います」




