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コールドケース  作者: aqri
真名
64/91

1 名前の力

「ゴキちゃんコイコイってすごく優秀な商品だよな。置いておくだけで勝手にターゲットを誘い込んでしかも捕まえてくれる。何もしなくても勝手に働いてくれるんだ、電源もいらないし忘れてても問題ない」

「ゴキちゃん以外のものも捕まえたことありますからね」

「おっと、ローラーの悪口はそこまでだ」

「悪口じゃないですよ。なんですか、気に入ってるんですか」

「愛嬌あって可愛いじゃねえか」

「俺の知ってる愛嬌って言葉ちょっと辞書で調べてみます。認識が違うみたいなので」


 そんな何でもない会話をしながら今日も山吹と笛吹はいつも通りの仕事を続ける。調査チームはハルの件にかかりきりになるのでしばらく通常の調査は無しということだった。承認チームといえば終わっている事件はたくさんあるので粛々と業務をこなすだけだ。


「それにしても調査チームは女子高生の案件にかかりきりとは。そんなに緊急を要するんでしょうかね」

「俺たちの活動も一旦大月さんからストップがかかってるし、ルイちゃんにサポートが必要ってことだろうな。小野寺さんがついてるから問題ないと思うけど」

「関係ないかなと思って詳しく聞きませんでしたけど。一応ルイさんの件もう少し聞いておきます」

「お? 珍しいな」


 笛吹が一度事件の概要を聞いて別のタイミングで詳しく聞こうとしてきた事は無い。その場の判断でそれだけを聞けば十分だと思ったらそこで終わりだ。気になる事はその場で聞いている。


「課長や大月さん、小野寺さん達がすごい人たちだっていうのはわかってます。そんな彼らがここまで慎重に動いているのなら、必ずこちらにも影響が出そうですし」

「同感。この件は解決してないから俺たちの所には当然証拠品は来てない」


 そう言いながらパソコンであるファイルを検索すると笛吹のほうに見せた。そこにはファイル名「真名」と書かれている。


「前ざっくり話した内容も含めて説明するから重複するけど、今は必要なことだと思って聞いてくれ」

「わかりました」



 自分につけられた名前というのはただ名を呼ばれ自分という認識を生むというだけではない。その人がその人であるという証、この世に存在していることの証明。戸籍などの紙の話ではない。

 親がつけた名前こそがその者に与えられた本当の名前。あだ名で呼ばれようが改名しようが一度つけられた名前こそがその人そのものなのだ。

 累は「かさね」と読む。怪談話の累ヶ淵があまりにも印象が強すぎて、悪い意味でしか捉えられない。子供の頃はそんな怪談話を知らずにいたが周りの大人からヒソヒソと何かを言われるたびにようやくそのことがわかった。

 累は両親とは一緒に暮らしていなかった。子供の頃から保護者は自分のことを名前で呼べと言っていた。てっきり親戚と思っていたが後の調べで血のつながりは全くない赤の他人であることがわかった。

 一度だけ確認したことがある。なぜ自分の名前は「累」なのか。


「お前はお前でなければいけない。お前の意思など関係ない、お前はただ累であり続けろ」


 全く意味のわからない返事だった。その時はこの人は答える気がないんだなと思ってもう二度と聞くのをやめようと思った。保護者との仲は決して良くは無い。仲が悪いとか虐待されているという意味ではない、自分に対して全く興味がないのだろうというのがわかっていた。会話をした記憶はほとんどなかった。

 中学に上がって国語の教科書を読んでいた時に松尾芭蕉の作品の中でたまたま累という名前がいい名前だというフレーズを見かけた。嬉しくなった、結局悪いと言う人もいれば良いと言う人もいる。認識など人それぞれだ。

 いつのことだっただろうか、自分が普通の人とは違うのではないかということに気づき始めた。具体的に何が違うのかと言えば。




「ルイちゃんは人の強さがわかることができた。例えるならその人のレベルがわかるってところだな」

「そのレベルの定義は?」

「格闘技がめちゃくちゃ強いとかそういうのじゃない。俺の認識では魂のレベルだ」

「魂が存在するかどうか分からないのでリアクションに困ります」

「うまい例えがないんだから仕方ないだろ。俺も魂が存在するかどうかなんて知らない。人っていうモノを分解すると肉体と精神に分かれる。育った環境とか考え方とか周囲の影響とかいろいろあるけど、この人すごいな強いなって奴居るだろ」


 目の前にいる、と思ったがなんとなく話の腰を折る気がしたので笛吹は黙った。


「頭が良い、体力がある、それだけじゃない人の強さ。経験値がものをいうんだったら年寄りの方がむちゃくちゃ強に決まってる。実際そうじゃないだろ、だから魂の強さだ」


 人間性、というのも少し違う。たしかに「強い」以外の例えが見つからない。


「ま、それがわかるからなんだって話しだ。正直ルイちゃんも別に自分に何か損得があるわけじゃないからほっといたらしい。ルイちゃんに関しては二つ事件が起きてる。中三の時に保護者が失踪、高一で殺人事件の犯人として逮捕。ファイルにある真名は後者だ」

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