3 初めまして
「ここを一般の警察や会社みたいに考えないほうがいいですよ。普通だったらそういう考えのもとで動くんでしょうけどここにはまともな考えの人なんていません。まっとうなやり方なんてやってたら仕事が進まないですからね」
真相を解明する、そのための調査チームだ。ただし真実を突き止めて正義の名のもとに事件を解決するのは目的ではない。証拠品保管の承認チームも終わった事件の承認が仕事、それ以上も以下もなくそれ以外ない。
「役職者が変われば方針が変わるので、この課が一体何を目指しどんな目的であるのかは数年ごとに変わります。今この課を動かしている人の考えを俺なりに解釈した結果ですけどね。たぶん事件が終わればそれでいいので、真実が他にありそうだとか悪戯好きの誰かが絡んでそうだとか、別にそんな事はどうだっていいんです。結果だけ見ればちゃんと丸く収まってるんですから」
提灯の事件ももしかしたらまた行方不明者が出るかもしれない。何か別の形で犠牲が出るかもしれない。それが再びコールドケースになるというのならその対処をするだけだ。再発防止の義務は無い、その時のそれぞれのチームがどう対応するかは当事者たちに任せられている。真実がありそうだけどまぁこれでいいかと済ませてしまうのならそれで終わる。
全てを解決しないとまた同じことの繰り返しだと思ったのならそういう対処をする。常に同じ目的同じ結果を求めているわけではない。
「この四つをピックアップしたって事は間違いなくあなたが絡んでるってことですよね。このファイルは偽物です。本物は別の場所に厳重に保管していますからね。あなたが絡んでいそうな事件はとっくの昔にピックアップして二人で全部確認済みです。外や会議で事件確認しておかないとな、って言ってた時には確認完了してます。行動が遅すぎますよ田中さん」
二人で向き合う形で座っていたデスクのある場所。その部屋が目の前の男から溢れ出た黒い霧のようなものによって真っ黒に染めあげられる。真っ暗になったというよりは真っ黒い部屋だ、デスクとお互いの姿しか見ることができない。
「すごいですね、どうやって鍵開けて入ってきたんですか……と言いたいところですがそもそもここが警視庁じゃないってことですか。デスクとパソコンは本物っぽいし荷物だけ別の場所に移動させたんですね。これ始末書ものだな、何やられてるんだって大月さんにバキバキにされそうです」
先ほどから一人でペラペラ喋っているがもはや相手は相槌もうってこない。山吹の顔をして口元にはゆるい笑みを浮かべているがその瞳は射抜くように鋭い。
「せっかくこうしてお招きいただいたんですから目的ぐらい言ってくださいよ。暇だからなんとなく茶番がしたかったわけじゃないんでしょ。俺も暇じゃないのでさっさとお願いします」
「そうだね。用件はストレートに言えば君を仲間に引っ張りたかったんだけど。普通の人とは違う特徴があるから興味があったんだよね」
「そんなに変じゃないですよ俺」
「できるでしょいろいろ。なんで口笛吹くと対象の物が破壊されるのか、音を操るのかな? それにしては結構不可解な事も多いから具体的にこういう特徴だって説明できないんだけど」
「それは俺も説明できないですね。説明書があるわけじゃないので」
「どんな甘い言葉で釣れるのかなと思っていろいろおしゃべりしたかったんだけど。やめたよ、結構嫌いなタイプだ」
その言葉を聞いて一瞬キョトンとしたがブフッと比較的大きく吹き出して笑った。
「要するに、お前と友達になってやってもいいよって言おうとしたら思いっきり滑ったからお前となんか仲良くしてやらねえよって言ってるんですか? 自己紹介に失敗した転校生ですか。今時小学一年生だって言いませんよそんな事。そこそこに恥ずかしくてダサいんですけど自覚あります?」
ふっふふ、と肩を震わせて笑う。すると目の前の男はゆっくりと立ち上がった。
「この状況でそれだけ余裕なのもすごいね、自分ではなんとかできると思ってるんだ?」
「いえ、思ってないです。そんなに自意識過剰じゃないですから。わけのわからない相手に余裕を持てるほど馬鹿じゃないので」
そうは言っているが雰囲気も態度も余裕そのものだ、絶対的に勝てると自信があるようにしか見えない。その様子に初めて相手の男は表情を変えた。無表情だ。
「とりあえず要件はわかりました。帰っていいですよ」
「……やっぱり嫌いだなお前は」
「そうですか。これから仕事しますので、少し静かにしてくださいね。気が散ります」
そう言うと本当にパソコンを立ち上げようとしているので男はポケットから何かを取り出した。小さく何かをつぶやくと白い煙のようなものが溢れてくる。
「黒かったり白かったりモヤモヤしたものが好きなんですね」
「死んじゃう前に一応教えてよ。山吹らしくないって言ってた資料とかしゃべった内容とかよりも見た時からわかってたっぽいじゃん。なんでわかったの」




