6 葛薫
「さあ、それなりに長い付き合いですけど趣味とか全然知らないんですよね。とりあえず背が低いので牛乳でもあげればいいと思います」
「それ身長が低い人に一番やっちゃいけないやつな。オススメ品でも買うか、どうせマジックアイテム的なものを買わせてもらうんだし」
交差点が赤信号になったので立ち止まると、ビラを配っている女性がお願いしますと紙を渡してきた。そこには三年前に溜池の中で不審死を遂げた女性の情報提供を呼びかける内容が書かれていた。
ビラの端には「事件を風化させたくない」と書かれている。山吹はちらりと内容を確認すると折りたたんでポケットにしまった。信号が青になり一斉に人が動き出す。交差点渡り切ったところで、笛吹は。
もらったチラシをコンビニのゴミ箱に捨てた。
無意味だ。紙も行動も。ゴミでしかない。
「……って、顔に書いてある」
「脳内の言葉を途中から声に出すのやめてください。何となく想像つきましたけど。あそこですね、カフェ」
笛吹が指さした先に見えたカフェ。カフェというよりファミレスのような感じで女性からサラリーマンまで様々な人が出入りしている。
店の外で待ち合わせていたのでお互いの姿を確認すると軽く手を上げる。店の中に入り席に着くと、三人は特に迷う様子もなくざっと昼食のメニューを注文した。
「色々と現状が変わってると思うんだけど、とりあえず今何が必要か整理していい?」
葛の言葉に笛吹はうなずいた。
「今まで頼んでたのは悪いけど全部必要じゃなくなった。新しく必要なのは……そういえばなんでしょうね」
「そうだなぁ。ご利益がありそうなお守りとかかな。何せほら、神様っぽいものに喧嘩売るわけだし」
「なかなかすごい仕事してるんですね」
馬鹿馬鹿しい内容でも葛は冷静に話を聞き持ってきていたタブレットで何かを探し始める。おそらく店の在庫リストか何かだろう。
「どのくらい強い神様に喧嘩売るのか知りませんけど、ほとんど望みはないと思っていいですよ。所詮形のある物は形のないモノには敵いません」
「深いこと言うね」
「形のある物はレベルが決まってます。形のないモノは常に変化し続ける。何なら自分でアップデートもしていきます。よくわからないものに対抗したいのならよくわからない人を頼るべきです。ここで言うなら佐藤さんですかね」
「こっちの状況全然説明してないのによくそこまで推測できたもんだ」
感心したように言う山吹だったが、チラリと笛吹を見て小さく笑う。
「似たもの同士ってだけか」
「そうですか?」
笛吹は自覚がないようだがこの二人はよく似ている。そういえば店に行った時もあれやこれやと説明していないのにまるで通じ合っているかのように短い説明でお互い状況を理解していた。
「何かこう、呪術的なオカルト的なよくわかんないちょっかい出してくる相手がいるんだよね。そういうのをどうにかしたいんだけど。俺たちも四六時中一緒にいるわけじゃないし、笛吹がいない時の俺の対抗策ぐらいは欲しいかな」
「わかりました。蓮は?」
「俺は今のところいい、大体の事はどうにかできる。厄介な奴を引っ掛けるための餌は山吹さんが持ってるから山吹さんをサポートするアイテムを渡して欲しい」
「なるほどね。今店の在庫で一番合いそうなものはこの後渡せるんだけど、さっきも言ったようにあまり効果が期待できないから佐藤さんには相談しておく」
丁度店員が注文した品を持ってきたのでここで一旦話を中断してそれぞれ昼食となった。笛吹は最初に頼んだコーヒーだけ、葛はホットサンドとサラダのランチセット。山吹は。
「お待たせいたしました」
「あ、出来たもの全部持ってきちゃってください」
「かしこまりました」
遠ざかる店員を見送り、山吹は運ばれて来たパスタを食べ始める。
「メニューでここからここまで全部ください、っていう人初めて見ましたよ」
サラダを食べながら珍しいものを見るような表情で山吹を見つめる葛に、山吹はふふーと笑いながら次々とたいらげる。
「職場だと昼飯普通の量なのに食べますね今日は」
「体力使うなら食べとかないとな。いやあ美味いなここ」
パスタ、マルゲリータ、シーザーサラダ、グラタン。見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。この後デザートもパフェを三つ頼んでいる。
「笛吹は小食だなあ」
「こいつ昔からコーヒーかバナナしか飲み食いしないですからね。たまにスルメイカ食べるだけで」
葛の言葉に山吹はマジかーと言いながらもパフェをあっという間に食べてしまった。
「食べなくても栄養補給足りてるから」
「それ言っていいの光合成できる奴くらいだぞ」
食べる量も多かったが食べ終わるのも早かった。一般的なランチメニューを食べていた葛と食べ終わったのはほぼ同時だ。




