1 あなただけの鏡
鏡よ鏡、この世で最も美しいのは誰。有名なところでいうと白雪姫に出てくる魔法の鏡だ。鏡とは本来目の前のものを映す物体でしかない。しかし目的のものを映したり未来や過去を映す、場所や時間を無視して望んだものを映像として映し出すものとして描かれることも多い。
悪いものを祓うという言い伝えもある。鏡は古来より自分の姿を映すものというだけではなく様々なものに活用されてきた。
鏡の向こうには裏の世界がある。そんなオカルト的な都市伝説もいつの時代でも語り継がれる。
「鏡っていうのは昔から不思議なもの、不気味なものとして人々の記憶に残り続けてきた。怪談話じゃ夜に鏡を見て目の前の自分がニヤって笑うとかもあるな。それでいて不思議な魅力がある」
「使い方違いますけど魔境っていう物もありますしね。神聖な物っていう考えも根強いですし、特別な物には違いないです」
「そういうこと。最近だとある一つの商品しか売らない店っていうのは結構ニーズがある。わかりやすいのは飲食店、メニューが一個しかないとかパン屋だったら食パンしか売らないとかな。ナントカ専門店っていうのも結構多い。そんな中でちょっと注目を集めてたのが鏡の専門店だ」
資料にも確かに書かれていた。鏡専門店「ミラ」で売っているのは実用性というよりもインテリアや小物、女性向けを意識したような様々な鏡だった。海外から買い付けてきたと思われるいろいろな国の特徴の鏡たち。淵に宝石のような物が埋め込まれていたり、それこそ白雪姫などに出てきそうなファンタジーをイメージしたようなデザインの大きな鏡。決して安くはないがネットショップを使っていたということもあって店は口コミで広がり人気だった。一品ものも多く商品との出会いは一期一会、それがまた限定品に弱い女性にはヒットした。買ったものをSNSにあげてそれ欲しかった、同じ物はないのかという話しで盛り上がり客が客を呼び寄せる図が出来上がっていた。
「まさかと思いますけどこの中に怪しげなマジックアイテム的なものが混ざってたりしてます?」
「混ざっちゃいるんだが、たぶん今回の件は田中さん達は無関係だ。なんとなく心当たりがありそうな事件洗い出ししたらお前にも共有するけど、田中さんはどっちかっていうとりオカルト系かな。今回はがっつり和風だから」
「へえ、海外の鏡を仕入れているっぽいのにキーアイテムは日本のものなんですね」
「問題はそこなんだよな。キラキラ女子のインフルエンサーたちが工芸品みたいな日本の鏡を好んで買うかっつったら微妙だ。でもここの店主は売ったんだよ。あなたにぴったりの鏡はこれですみたいな感じで」
島谷優香は昔からついていないことが多かった。それは嫌なことが多いということではない、怪我をしたり病気になったり悪い星のもとに生まれているんじゃないかと思う位に間が悪いことが多い。唯一救いだったのは本人がそれを深く気にしすぎない性格だったことだ。ついてないな、まあいつものことだから、と割り切って考えていた。
ただそういった人間の周りに集まってくるのはろくな人間ではない。心から島谷を心配してくれる優しい友人ももちろんいたが、現代人は他人の不幸を笑い、あいつに比べれば自分はまだマシだと自分の存在を上に見せようとする。島谷はそういった人間たちに利用され続けた。もちろん島谷自身そういう人間と仲良くなる気はなかったのであまり付き合いをせず自然と関係は消えていくようなものだった。
それでも子供から大人になれば少し位は悩む。良好な人間関係をあまり作ることができず、かといって不幸アピールをしたいわけではない。生まれ変わりたいというわけではないが何か自分が変わるきっかけが欲しかった。
そんな中、仲の良い友人が実はこんな店があるんだと教えてくれた。ネットショップで商品を見てみると確かに可愛らしいものやエキゾチックなもの、ファンタジー世界のような非日常のデザインをした鏡が取り扱いされていた。部屋に置くには合わないがこういうものを持ってちょっと違う気分を味わってみるのもいいかなと思い買ってみることにした。ネットショップでも良かったがせっかくなら実物を見て選びたいなと実際に店に行くことにした。
完全予約制で他の客とはバッティングしないようになっていた。店に着くと予約の時に送られてきたQRコードをかざさないと扉が開かない仕組みになっていて本当に徹底しているんだなと思いながら店に入る。
中には所狭しとたくさんの鏡が並んでいた。どれも本当に素敵で自分のキャラじゃないかなと思いながら可愛らしい鏡を手に取ってみる。
「それじゃないと思いますよ」
「え?」
突然声をかけられて驚いて辺りを見渡すと店員らしき一人の女性が立っていた。店はどこが薄暗く商品が大量に並んでいたので人がいたことに気づかなかった。




