11 便利アイテムを手に入れよう
「ちなみにその神の心臓ずっと山吹さんが持ってるんですか」
「多分俺じゃないと持てないと思うけど」
そう言いながら手渡すようにこちらに心臓を差し出してくる。一応受け取ろうと手のひらを差し出すが山吹がはは、と軽く笑った。
「たぶん二トンくらいあると思うから右手潰されんなよ」
それを聞いてスッと手を引っ込めた。
「小さい割にむちゃくちゃ重いですね」
「重量って意味での重さじゃない。多分ポケットに入れてもブチ抜いたりしないと思うぞ。ただその服を着てるやつは二トンの物をポケットに入れている感覚にはなる。うまい例えが思いつかないけど、そうだな。生き物だけが重みを感じる仕様みたいだな」
「なるほど」
詰まっているものは一体何なのだろうか。それはきっと人の言葉では説明できない、理解できないものだ。
「今更ですけど、心臓のない本来の持ち主である神様がそれを手に入れるためにご挨拶に来たらどうします」
「俺の直感言わせてもらうとそれは絶対にない。完璧主義の神様がそんな中途半端なものを自分の体に入れて満足するようなプライドの低さなら、それは神じゃない。そんなもんを追い回す田中さんもブリーダーさんも救いようのないゴミだ」
ざわり、と空気が震えた気がした。その様子に山吹も笛吹も小さく笑う。
「田中さんかな」
「そうでしょうね。馬鹿女子高生と一緒でそこまで大した存在じゃないのかもしれません」
おそらく自分の遣える者を馬鹿にされて感情が揺れたのだろう。ハルは小道具を使って罠を張っていたが、田中はもっと高位の仕掛けができるらしい。
「盗み聞きはなしでって言ったんだから、引っ込んでろ」
山吹がそう言うと再び笛吹が口を開くが、その前に気配が消えた。どうやらもうくっつくことは諦めたようだ。
「あの子よりはもうちょっとうまく立ち回ると思うけど。つーかハルちゃんの名前覚えてやったら、田中さんは覚えたんだから」
「必要ないでしょう。どうせ会うこともないですし」
ハルの件は小野寺たちに任せている。自分たちには関わりがないし、関わる前にどうにかなるだろうなというのが正直なところだ。
「お?」
山吹が空を仰ぐ。急に曇り始め辺りは暗くなった。豪雨でも降りそうなくらい暗く肌寒い。
「田中さんからの実力テストか」
そう山吹がつぶやいた時には、ヒュウ、と音がしてミシミシ、と何かが軋む音がした。あっという間に雲が早回しのように凄まじい速度で散っていく。
「まだ田中さんが仕込みの最中だったかもしれないじゃん、待ってやれよ可哀想だろ」
「いやですよ、面倒臭い」
珍しく、笛吹はハッと鼻で笑った。その顔は。
「お前楽しい時マジで極悪人みたいな顔で笑うのな。課長といい勝負だぞ」
「え、本当ですか。気をつけます」
ピコン、とスマホに新着チャットの通知が鳴った。通知は切っているはずなのだが課長には関係ないらしい。
”山吹と笛吹、博多通りもんナシな”
「お土産没られた」
「相変わらず壁に耳あり障子に目ありがレベル999みたいな人ですね」
ここに来る前は北海道で、今彼は博多なんだな、と笛吹は思ったがもう気にしないことにした。あの人はたぶんどこでもドアでもあるのだろう。アメリカにいても秒で帰ってくるのだから。秒で、とは比喩ではなく文字通りの意味で秒だ。
「今更ですけど」
「おう」
「うちの部署って、『人間』は何人いるんですかね」
「生物学上の人間は9割かな」
「え、一割だけなんですか人じゃないの」
「まあ俺らの部署全員で十人だから実質一人」
「全員人外って言われた方がマシなんですけど」
「それなー。あれだけ個性豊かでみんな人間なんだからコエーわ」
あはは、と笑いながらついでに昼飯行くかーと商店街に向かって歩き出した。明日から忙しくなりそうだ。通常業務もこなしながらこの件の対応をしなくてはいけない。
田中やそのボスは結局この部署にとって因縁が深いということだ。課長の様子からすると決着をつけたいとか、そういう目的はなさそうだった。敵討ちを望んでいるなら全く興味ないが、あくまで仕事として取り組むのなら問題ない。
「あ、昼飯にアイツ呼んでもいいですか。今後のことを考えて俺たちもマジックアイテム的なものちょっと持っててもいいと思いません?」
「お、いいねぇ。今までそういうの興味なかったけど、ちょっと面白そうだな」
仕入れているのは佐藤なのでおかしなものはないはずだ。よくわからないものに頼る位なら自分でなんとかするというスタイルなので、正直そういうものには全く詳しくない。宝探しのようなワクワク感も出て山吹は楽しそうだ。笛吹は葛に連絡を入れると、席が壁で仕切られているカフェを指定してきた。実際のものは持ってこないが怪しいものの写真を並べるのであまり人に見られたくないらしい。山吹がふと、何か思い出したように笛吹に聞いた。
「ちょっと気になってたんだけど、葛さんの下の名前って薫?」
「はい」
「そっか。仕事が一つ片付くかもしれない。データバンクにあるからカフェに着くまでに頭ん中叩きこんどけ。ナンバーA61dPY796」
「はい。あいつコールドケースに関わってたんですね」
「直接関わっているわけじゃないけど、間接的にかな。そっか、この件もそうや神様だな。いやあ運がいい、日ごろの行いのおかげだ」
グーと腹を鳴らして山吹はカフェを検索する。ちょうどそれほど遠くないところにそれっぽいカフェが見つかったのでそこを葛に連絡してもらった。
「これですか。ファイル名、水鏡」
「そそ。まあ、事件の内容を葛さんに聞かせるわけにはいかないから、歩きながら説明するわ」
「田中さん達に聞かれても問題ないってことですか」
「もう終わってるしな。大丈夫、あいつらそんなに頭良くなさそうだから」
軽く笑い飛ばせながら二人は目的地のカフェを目指す。仕事は一つ片付くの確定なので上機嫌になりながら。




