9 組長 ※課長
「ありゃ、片倉ひまりの骨は回収不可能になったってさ」
自分たちのデスクに戻ってきた山吹たちは部署内のチャットツールに書かれている内容を読んだ。骨は消失、この事件は証拠品なしのまま案件だけ記録として残すこととなった。
「ハルちゃんのやる気スイッチもオンになったっぽいな。適当にあしらっちゃったし、負けず嫌いの性格を考えればそりゃそうか。どうするつもりかな」
「それもこれから聞いてみましょうか」
すでに課長は自分のデスクに戻っていると書かれている。特殊課の人間がほとんど殉職したという過去の事件と、山吹がなんとなく思いついた一連の関連性についても最終確認をしておく必要がある。その上で小野寺達のチームが調査するとして、自分たちはどこまで首を突っ込むのかも指示を仰ぎたい。
「熱血ドラマとか向けの部署じゃないんだけど俺たちの職場」
「ラノベみたいな部署なのでどっちもどっちじゃないですかね」
二人同時に立ち上がると本来の特殊課の部屋へと向かった。課長や大月、小野寺たちのワークスペースは他にある。同じ部署である山吹たちも本当はその部屋にいても良いのだが、何せ普段資料の管理や過去の事件の整理などをしているので保管庫に近い場所の方が仕事の効率は良い。
他の部署が絶対に通りかからない場所に事務所はあり、警視庁の中でも一部の役職者と捜査一課しか知らない。そのため正面から入るよりも非常口から出入りしたほうが早い。承認チームのデスクスペースがある場所からも階段を上がってすぐだ。
「課長にお会いするの二年ぶりです」
「え、マジで? 要するに入庁した時しか会ったことないのか」
「入って早々、二年後に特殊課に異動になるからな、って言われましたからね」
「あの人らしいな。警察としての調査や取り組みのスパルタ教育としてまず捜査一課に行ってノウハウ覚えたらこっちに来たわけだ」
普通ならそんな無茶はしないのだろうが、おそらく笛吹にはそれが必要だと判断したのだろう。
事務所に入ると相変わらず誰もいない。基本的に事務所でデスクワークをするものはほとんどおらず、調査のために出かけていることが常だ。そんな中ドアをあけて真正面、一人の男が窓の外を見ている。
「馳せ参じました組長」
山吹は楽しそうにそう声をかけると声をかけられた男はゆっくりと振り返る。
「誰が組長だ」
「そう言われましても、百人いたら百一人が絶対に組長だって言いますよその見た目」
「一人増えてますよ」
しかし確かに見た目はヤクザの組長そのものだ。スーツを着てはいるものの目つきの鋭さ、頬にある大きな傷、オールバック、その場にいるといたたまれなくなるような張り詰めた空気。そんな空気を全く気にした様子もなく山吹と笛吹は課長に近づく。
「とりあえず現状どんな感じなんですか」
「小金井ハルによって片倉ひまりの壺は消えてなくなった。小金井ハルはこの先この部署に関わってくるだろう。何か欲しいものがあるわけでもない、プライドを傷つけられた仕返しだ」
凄んでいるわけでもないのにドスの効いた声。ヤクザではないと言ってもおそらく誰も信じない。
「小金井ハルに関しては小野寺たちのチームに任せる。あっちはルイの件が片付いてない。お前たちはもう一匹の方、田中だったか。それの相手だ、必ず神の心臓を取りに来る」
「了解です。とりあえず確認しておきたいんですけど」
山吹が挙手をした。
「ハルちゃんと田中さんの目的って、強い神様を作る、であってますか?」
その言葉を聞いて笛吹はそういうことかと合点がいった。行われてきた事は全て何かを作り出すこと、しかも調整しながら様子を見ている。新商品を開発するときに条件を変えて何度もテストをするように。
有栖川のように他人になることができるのはどちらかと言えば受動的な特殊な能力と言える。発生原因がわかっていないローラーもそうだ、あれは完全に独立個体である。
しかし願いを叶えるツボ、ユピテは明らかに「次のステップ」に進めそうな可能性を残したものだった。願望器は一体どこまで願いを叶えるのか、その代償はどのくらいの大きさになるのか。ユピテは謎の芸術家が作ったという話だが、どう考えても普通の人間には無理だ。その作った者が田中だという可能性は十分ある。
「たぶんな。昔ここの場所が大打撃を受けたのもその影響だ。あの時は今回関わってる連中ではない奴が首を突っ込んできたんだが、裏切ったクソと騙された大馬鹿がいたせいで被害が拡大した」
特殊課と言っても勤めているのは人間だ。判断ミスもある、集中できない時もある、欲に目がくらむ、止むに止まれぬ事情もある。それが命取りとなってしまったようだ。
「育てる系のゲームやらないんで全然わからないんですけど、なんでそんなもの作りたいんですかね」
たいして興味もなさそうに笛吹が言えば、課長が小さく鼻で笑う。




