4 「雑魚でした」
「もしかして女子高生って田中さんにいいように使われただけですかね?」
「あるかもな。あの会話は二人とも聞いててほっとけばハルちゃんが何か行動起こすと思って様子見してるってところか。なんとなく事件の概要見ても連携してる様子もないしあっちはあっちでそこまで仲良くないのかもな」
「とりあえずもう鍵が直ってるのはバレてますしむやみに突っ込んでくるってこともないでしょうけど。……いえどうでしょうね、一つ心当たりがあるんですけど」
そう言ってチラリと棚に乗っている神の心臓を見つめる。
「そういやそんなのもあったな。片倉ひまりのキーワードは神様だったか。願望器も言ってみりゃ困った時の神頼み。神様、ねえ」
「ちなみにその神の心臓って何なんですか」
「これに関しては俺も詳しくは知らない。どうせ笛吹もファイルを見たんだろう。俺もその内容しか知らないからな。多分大月さんも知らない。聞いた話じゃ特殊課に大量の犠牲者が出て人が大きく入れ替わった時がある。その時に保管した物らしいから課長じゃないとわかんないかもな」
「その複数の犠牲者が出た件もあまりよく知らないんですよね。何かあったんですか」
「それについて話を聞きたいんだったら課長に聞いたほうがいい。俺も課長から聞いただけだから。要するに笛吹は神の心臓が今後のターゲットになり得るって考えてるんだな?」
「なんとなく」
「よっしゃ、じゃあ課長に突撃するか。今日出かけてるから戻ってきた時にでも」
笛吹の直感は信用できる。一を聞けば十を理解する、小さなことから答えを導き出すのは笛吹の真骨頂と言える。
神様。日本にはたくさんの神がいる、一神教ではなく多神教だから。そこら中に神を置くことで人々は願いを細かくわけてきた。山には山の神がいる、だから山に関することは山の神に願う。海には海神、火には火の神。そうやって一つずつをはっきりと区別することで願いの質を高めようとしてきた。願いの分散は質の向上、と見せかけて都合の悪い事をその神のせいにできるからだ。一神教にそんな事を願って他責にしたら、古今東西あらゆるものが不幸になってしまう。それに一神教は辛いことは「神からの試練なので乗り越える」という考えが強いので、他責にしない。
この心臓は一体どんな神の心臓なのか、片倉ひまりが神様と呼んでいた相手は誰なのか。先日の打ち合わせで出てきた親玉の存在。こいつなのかそれとも違うやつなのか。
いずれにせよきちんとした保管ができない以上どうにかする必要がある。他の保管物への影響を考えてここに保管できないのなら別の場所に保管することも検討しなくてはならない。
「ところでどんな感じだったのよ、ハルちゃんは」
「……そういえばそんな名前でしたね。特に言うことないです」
「なんだそんな感じなの」
「強いていうなら」
かき集めたファイルをトントンと机で整えると自分の書類スペースに収めて静かに言った。
「雑魚ですかね」
「お前ほんとに煽るのうまいね」
「煽ってないですよ、事実です。頭悪いし要領悪いしほっといても大丈夫そうなくらいにはつまらない存在でした。どうでもいいです」
おそらくこの会話も聞かれているだろう。鍵屋が直したこの場所の鍵、どんな手段を使ってもこじ開ける事はもうできない。入ることもほぼ不可能だが一度入ったら外部のものは二度と出ることができない。指をくわえて見ている事しかできない。
冷静な者だったら今後の対策を考えるが、先程の様子から考えても大月が言っていた通り本当に子供っぽくプライドが高い負けず嫌い、単純な挑発にも簡単に乗る。笛吹にとってかなりどうでもいい部類の人間だ。
おそらくまた何らかの手を使ってちょっかいを出してくると思う。ここまで一方的にやられてしまったのだ、このままでは済まさないだろう。しかしそれさえ山吹と笛吹にとってはどうでもいいことだった。引っ張り出したいのは田中だ。
「とりあえず課長から話し聞かないとな」
「そうですね。あ、ここからは盗み聞きなしでお願いします」
そういうと笛吹がピゥ、と小さく口笛を吹く。するとバキッ! と木が折れるような音がして部屋の空気が振動した。
「何したん?」
「オカルト的な電波ジャックをブチ切りました」
「盗み聞きしてた奴ら、鼻血吹いてなきゃいいな」
たとえダメージがない探りの入れ方をしていたとしても、笛吹の影響は体に直接出る。ダメージがないと思っていたのにダメージが来たことであちらも最大限に警戒するはずだ。
「課長の予定は……北海道か」
「概要をまとめた資料があるでしょう、その場所だけ聞いておきましょう」
今二人で会話したことを全てチャットツールに打ち込むと小野寺や大月からは了解という返事がきた。件の課長は資料番号だけ送ってきた。




