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コールドケース  作者: aqri
ローラー
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4 雰囲気が変わった日

 それから瀬那君とは仲良くなりました。私がピアノを弾いてる時会話はないけど、じっと真剣に聞いていたので私もいい感じに緊張して上手く弾けたと思います。このころからピアノの先生がコンテスト参加を勧めてくるようにもなって、私も自分のピアノの弾き方がわかってきたころです。

 私と瀬那君、ローラーが見えない者同士。なんていうのかな、クラスのカーストみたいなものが逆になってたと思います。今まではローラーが見える人が楽しそうに中心にいたけど、ローラーが見えない瀬那君がクラスの中心にいるような感じ。


 皆瀬那君と仲良くなりたくて、なんとか一緒に過ごそうとしてました。女子だけじゃなくて男子もです。

 だって、瀬那君は演技だけじゃなくていろんなことができましたから、絵も上手いし、割といろんな楽器弾けたし話もすごく面白い、スポーツはだいたいなんでもできる。私はよくわからないけど、カードゲームもスマホゲームもゲームセンターのゲームもすごく上手かったらしいです。他の子の専攻学科でもちょっとアドバイスすると上手くいって、みんなが瀬那君に感謝してました。

それで、放課後遊ぼうって誘われても瀬那君はこう言うんです。


「ローラーの世話あるんだろ、行ってあげなよ。可哀そうじゃん」


 何となく生き物らしいって事はわかったようで、放課後皆が給食をこっそり持って公園に行ってるのは知ってました。学校にいる時は皆と仲良くしてますけど、どこか行こう、何かしようと誘われると決まってローラーの事を言って断ってました。


“断る口実にしてたのかな?”


 どうでしょう、私にはわかりません。皆の誘いを迷惑そうにはしてなかったと思いますけど。ローラーの心配をしているという感じでもないし、なんていうのかな。例えば野良の子猫をみんなで世話してたとしたら、その猫の世話しないと死んじゃうかもしれないのに遊んでる場合? っていうニュアンスだと思います。ローラーほっといて遊びに行くのは良い事じゃないんじゃない? みたいな。

 そうすると、ほっといても大丈夫なんて言えないので。言えない状況ではあったんです、だって瀬那君が来るまでは本当に皆ローラーの話ばかりでしたから。自分の学科の学習よりもローラーを優先してたっぽかったですし。瀬那君もそれは感じたんでしょう、だからあえてああいう言い方してたんだと思います。

 それからしばらくして、とうとう樋口さんっていう子が言ったんです。


「ローラーの世話は交代でするから大丈夫」


 それがきっかけでした。だんだん、ローラーがいる公園に行く人が減っていったんです。最終的には、最初にローラーを見つけた歌専攻の四人組しか公園行ってないんじゃないかな。クラスの皆、瀬那君と一緒に遊ぶようになりました。

 ついでに私にも声がかかるようになりましたけど、私はローラーの事関係なくピアノの練習に打ち込みたかったので断ることが多かったです。瀬那君を独占できるから、私が参加しないことは皆たぶん喜んでたと思います。やっぱり私が一番瀬那君と仲良かったので。


 それで、みんなと遊びながらも瀬那君はたまに私のピアノ聞きに来ました。ずっと聞いて来てくれた瀬那君が突然言ったんです。


「埜口さん、映画に出てみない?」

「え? 映画?」

「もうすぐ俺映画撮るんだけどピアニストの役決まってないんだ。この時期にまだ決まってない事にスタッフは焦ってるんだけど、監督が完璧主義でさ。心を揺さぶる演奏できる人じゃなきゃ駄目だ! とか言って。本当は大人の女の人って設定だけど、試しに監督の前で弾いてみようよ、気に入ってもらえれば映画出られるかも」

「え、いいよ私は。役者になりたいわけじゃないから」

「うーん、俺も役者として出てほしいって意味じゃなくて。埜口さんのピアノ、凄いなって思ったから。映画でいろんな人に見てもらいたいなって思ったんだ。監督がダメって言えば出ないだけだよ、試し試し」


 そんな瀬那君の言葉に迷いました。それで、音楽の先生に相談したら先生が是非そうして、ってすごく後押ししてくれたんです。私のピアノを聞いてもらいたいって。

 あとはもう、映画監督と会う約束を瀬那君がしてくれて、先生が付き添ってくれて少しピアノ弾いたら監督が映画出てくれ! って。私演技できないしセリフは絶対棒読みになるから、本当に弾くだけの役ならってことで引き受けたんです。

 撮影のためにニ、三日学校には行かないで撮影してました。ちょっと出るって話だから数秒で終わるのかと思ったら、一つのシーンに何パターンも撮ってびっくりしました。瀬那君とは違うシーンだったので、私一人で撮影してた感じです。それで、土日挟んで一週間くらい学校行ってなかったかな。月曜日登校したら、クラスの雰囲気がまたちょっと妙で。


“どんな雰囲気でしたか?”


 何か、みんな少し怖がってるって言うか。全然笑わないし、しゃべってもひそひそ。瀬那君もテレビの撮影でいなかったらしくて、何があったのかわからなくて二人で首傾げてました。知ってほしいならみんなから瀬那君に話しかけるはずなので、ピンときました。たぶん、「ローラー」に何かあったんだろうって。

 その日はピアノの練習早めに切り上げて帰ろうとしたら、階段で誰かがしゃべってる声が聞こえたんです。

よく聞き取れなかったけど、「ローラー」の話で間違いないと思います。


“どんな感じの内容だったかわかりますか?”


 困ってたみたいです。どうも四人組がいきなり公園に急いできて、って言ってみんなで行ってみたら「ローラー」が凄く大きくなってて、しかも食べる量も増えてたみたいで。給食の残りだけじゃ足りない、どうしよう、みたいな。

私には「ローラー」が見えないし、何食べるのかもどんな状態なのかもわからないから相談に乗れません。あえて話しかけずに過ごしました。

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