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コールドケース  作者: aqri
特殊課ミーティング
39/91

9 田中さん

「矛先が全人類に向くことを考えれば事件そのものをなくしてしまうほうがいい、って事ですね。確かにそうなってしまったら俺たちの手に負えないですけど」

「そのやり方に問題があるんだったら課長が出てくるし、そもそもあの人を止めるなんて無理だろ。小野寺さんだけじゃなくあの人を使ってるって事は課長が許可してるってことだ」


 先ほど大月から説明を受けたときはまだその段階ではなかった。自分たちは会議をしている間に事態が動いたということだ。タイムリーに大月からも連絡が入る。どうやら情報のすれ違いが起きたようだ。


「小野寺から連絡受けたと思うからよろしく、だとさ。あっちはあっちで忙しそうだな」

「それにしても片倉ひまりってなんでこんなトリプルコンボ一斉に受けたんでしょうね。母親と教師はわかりますけど、そんな都合よく近所の変態が寄ってきますか」

「田中さんによる企てだって思うのが普通だな」


 何の関係もない、ただ普通に生きていただけの少女。一体どこからどこまでが田中による悪巧みだったのか。そういう風になるようにそそのかされたのだとしても線引きが難しい。離婚する原因は何だったのか、母親は育児放棄する大きな原因は何だったのか、教師が執拗に一人の生徒を責め立てるのはなぜか、近所の男が少女に目をつけたのはなぜなのか。そもそもこの近所の男は本当に年端もいかない少女に性欲を持つような異常者だったのか。


「ハルは直接自分で手を下すのに対して、どうやら田中さんはそそのかす系らしい」

「アダムとイブに出てくる蛇とか、北欧神話のロキみたいですね」

「一度何かのスイッチを押してやれば後は押されたやつが勝手に転がっていく。正体を掴みにくいはずだ、めんどくせ」


 備え付けの冷蔵庫からアイスを取り出すと山吹はぼやきながら食べ始める。しかし逆に笛吹は珍しく楽しそうだ。


「いいじゃないですか。そのトリックスターとやらが、俺たちに一体どんな波状攻撃してくるのか。大月さんとかそそのかしてみて欲しいですね、ボコボコにされると思いますけど」

「あの人自分の利にならない事は叩き割るからな」


 たとえどんなに可哀想なことでも、普通だったら同情してしまうことでも。甘ったれんなと言って手や足が出る。それは自分たちも同じだ。喧嘩をふっかけてくるのならそれ相応の対応をする。


「珍しく楽しそうじゃん?」

「俺、一歩下がって安全なところからゲームマスターぶって操ろうとするパッパラパー嫌いなんです」

「お、めっずらしい。笛吹の好き嫌い初めて聞いた」

「俺がボコボコにしてもいいですけど、大月さんに粉々にしてもらうとちょっと面白いです。とりあえず俺たちの間で決まったことを全員に共有しておきますね」


 部署内で使っているチャットツールに笛吹は一行だけ入力した。


”ボコボコにする相手の名前は田中さんに決まりました”

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