6 名前の力
このケースは殺人事件としては捜査一課の管轄で特殊課のケースとしては扱っていない。
「ただ通常の事件じゃないから小野寺さんが調査に出たらしい。そこでルイちゃんを保護したそうだ。大月さんのあの言い方からすると多分殺人犯に仕立てたのも実際の犯人もハルなんだろうな」
ルイとハルが同級生だという事は山吹も先程初めて知った。二人の関係を考えればこの推測が一番妥当だろう。捜査一課の事件ということもあってこの件は山吹もあまり詳細を確認していない。捜査一課の事件名はバラバラ殺人事件だが、小野寺が調査した事件としての名前は「真名事件」と書かれている。
「今回のキーワードは名前。名前には力が宿る、名前にレベルがあるとしたらルイちゃんは間違いなく九十九だ」
「そのレベル上限は?」
「さあ? 一万くらいあるんじゃね? ちなみに一般人だったら五十以下ってとこだな」
殺人事件とそれ以外の複雑な事情が絡まり表向きには事件を解決している。ルイも表にはもう出る事はなく特殊課のアルバイトとしてサポートの役割を担っている。ほとんどは小野寺のサポートをしているらしいが、部署としてのアルバイトなので山吹も仕事を頼むことがあるそうだ。
「ルイちゃんを執拗に狙ってこないあたり、ハルってのは確かに子供なんだろう。面白いものには飛びつくが一旦終わったり飽きたものには見向きもしない」
「それでも、もしも警察にこういう場所があってルイさんが匿われているとわかったら、ちょっかい出してくるかもってことですよね。小野寺さんにハルについての特徴もう少し詳しく聞いておきます?」
「いやあ、やめとこう。小野寺さんたち調査チームが出てるならそりゃ完全な横やりだ」
ハルは一体何ができるのか、それは自分たちで対処ができるのか。大月のあの言い方からするとおそらく問題ないのだと思うが。
「一応確認しておきたいんですけど」
「あいよ?」
「ハルって殺しちゃってもいいんですか」
いつも通りの何ら変わらない様子でそんなことを言ってくる笛吹に、山吹は。
笛吹の額にデコピンをした。ただし、バギッとデコピンとは思えない凄まじい音がした。椅子に座っていた笛吹は椅子ごとそのまま地面にひっくり返る。
「警察がそういうこと言うもんじゃないよ、自分の立場考えろフエフキちゃん」
口調はいつもと全く変わらない様子ではあるが、いつものヘラヘラした軽い雰囲気ではない。口元は笑っているが射抜くような鋭い目つきで笛吹を見ていた。
額を摩りながら笛吹は立ち上がった。
「痛いんですけど」
「痛くしたも~ん。お前の立場は何だったっけ」
「警察でしたそういえば」
「国家公務員が自らの殺意を具体的手法交えて口にしちゃダメ」
「はい、すみません」
「ちなみに俺も昔パイセンに向かって両手足バッキバキしたろうかって言ったことあるんだけど、どうやって知られたのか後で課長にバッキバキにされた。いやあ、死ぬかと思った」
あははと笑いながら仕切り直しな、と言って改めてホワイトボードを見る。
「親玉さんとやらは何か目的があるんだったか」
「どうせくだらなくてろくでもないことでしょうからそこは考えるのやめましょう、多分俺たちには関係ないですよ」
「まあそうだな、直感だけど俺もそう思うわ。その辺は佐藤さんが何かやるだろうから全力で放置な」
ホワイトボードの親玉の横に佐藤一郎と書いた。
「一応その佐藤さんとやらも少し聞いておきましょう、何なんですか」
「具体的にどんな人っていう説明がちょっと難しいんだけど。オカルト関係にやたら詳しい、心霊現象にも詳しい、そしてそれをなんとかできるだけの知識と手段を持ってる。ちらっと聞いた話だけど探偵事務所を構えてるらしいから法律にも詳しいかな」
「裏社会の人、ていう感じではなさそうですね。やばい職業ではなく文字通りの裏の世界を知り尽くしている人って感じですか。本当に何か困った時知恵を借りるぐらいだったらいいかもしれないですが、基本は関わらないほうがよさそうですね」
「課長の知り合いだから、コンタクト取ることができると思うけど。まぁ今は必要ないかな、今後俺たちがこいつ……名前つけるか」
アホ、と書かれているボードを見ながら山吹がそう言うと笛吹は即答した。
「田中さんでいいんじゃないですか、書くのも楽ですし」
「脊髄反射で答えたな今、まあいいけど。実在する名字の方がわかりやすいから。じゃあ田中さんで。この田中さんと俺たちが何かをやりあって、ハルやボスが出てくることになったらそのあたりは課長とか佐藤さん達がどうにかするだろう。俺らがいちいち気を使うことじゃないと思う」
「そうですね。多分俺たちよりもいろいろなことを器用にこなす人たちなんでしょう」




