5 今後の方針
「ひとまず鍵屋が鍵を変えるまでは誰か一人必ずここに残って過ごすように。倉庫にいる必要ないが上の事務所には待機しろ。三日間だ」
「それはまたずいぶん長いですね、相当気合入れて鍵を作り換えてる最中ですか」
「職人魂とプライドに何か刺さったらしいな」
鍵といっても物理的な鍵でも生体認証でもない。どんな仕組みでどう作られているのか、普通の人間には理解ができない最強の鍵。本人以外通ることが不可能であるという事だけはわかっている。そのため有栖川のように誰にでもなれる者が来てしまったらアウトだが、それ以外の者、加藤のような存在はもう二度と入る事は無いようにはすると言っていた。
「私はしばらく課長と一緒に外回りだ。調査の方には頭数を入れる、ルイも使うからな」
「はーい」
「誰ですか」
「壺回収する時超優秀な助手がいるって言っただろ、その子」
「この部署にアルバイトみたいな人がいるんですか、珍しいですね」
珍しいというよりはありえない。この部署の関係者は厳しい審査のもと徹底した情報管理の訓練なども受けなければいけない。研修のための長時間の拘束と大量の誓約書、表沙汰になれば労働基準局が黙っていないような過剰なまでの研修だ。もはや研修というよりも訓練、特訓と言っていい。時給で働くパートやアルバイトではあまりにも割が合わないし、もしSNSや他人にほんの少しでも情報を漏らそうものなら社会的抹殺の意味を含めた厳重な罰が待っている。
「世間一般では表に出られない子だから大丈夫」
「そういう事情ですか」
「ちなみにハルとは元同級生だ」
何でもないことのように言った大月の言葉に二人はキョトンとした。
「なんかすごいこと言いませんでしたか今」
「言ったね、知らんかった」
「ハルの方をどうにかしなきゃいけない時はルイの力を借りる。荒事向きでは無いからあまりハルの方には関わらせたくないんだがな、因縁みたいなもんだから仕方ない」
何か動きがあるまでは今まで通り他の事件の証拠品の承認を続けろと指示を出して大月は会議室から出ようとした。その大月に声をかけたのは笛吹だった。
「そのアホさんとやらを見つけたらどういう対応していくんですか。ちょっかいかけたら動いてほしくない元締めとかが動く可能性は」
「道具のためにわざわざ自分が動いてくれる良心的な上司だったら何か考える。とりあえず今の方針としては、アホを引きずり出して粉々にする」
「大月さんが? 俺が? 笛吹が?」
山吹が楽しそうに聞けば大月もフッと小さく笑った。
「とりあえず手の空いてる奴が、だ」
資料などを片付けながら笛吹は先ほどタブレットに撮ったホワイトボードの写真を見る。
「大月さんって字は奇麗ですけど絵はそんなにうまくないですね」
「本人の前で言うなよそれ」
「さすがにそこまで命知らずじゃないです。山吹さんこの後少し時間ありますか」
「あるぞ~」
「今は関係ないにしても、もう少し今回の件のおさらいと今後のことを少し話したいんですけど。片倉ひまりの件もやらなきゃいけないですし」
「まぁそうなるよな、笛吹の知らない登場人物が何人かいたから。片倉ひまりの件は後回しでも良さそうだからとりあえず今後についてだな。おさらいしておきたい内容はなんだ」
「大月さんは放っておくと言っていましたが、ハルについてもう少し詳しく。多分こちらが放っておいても向こうから絡んでくる事はあると思うので。水木に関しては本当に放置で良さそうですから」
「だな」
せっかく会議室を使っているので山吹もホワイトボードにおさらいを書いていく。そこに書かれているのはルイについてだ。字は「累」。
「累ヶ淵ですか」
「相変わらず変なこと知ってるな。ルイちゃんの本名だ、今後ルイって呼んでくれ。本名で呼ぶのは禁止な」
「はい」
何故なのか、は聞かない。理由があって呼ぶなと言っているのだから呼ばなければいい話だ。これがもし山吹が初めて聞いたのだったら山吹は何故ですかと聞くが、笛吹は理由を聞いたりしない。そこの事情を知っていようがいまいが呼ばないという事を認識し実行するだけだからだ。
「彼女の名前には言葉の力が宿っている。一言でいうなら彼女は存在自体がめちゃくちゃ強い。俺らが取り扱ってるこういうケースに生身で対応できる位だ。彼女は殺人事件の容疑者の濡れ衣を着せられたが、逆にそれを利用して逮捕するという形で保護してる。ルイちゃんを利用する輩は必ず出てくる、今まで利用されなかったのが奇跡みたいなもんだ」
説明しながら山吹はタブレットからルイが関わった事件の詳細を開くと笛吹に見せた。公園で女性がバラバラ遺体で発見され、その容疑者としてルイは逮捕されている。




