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コールドケース  作者: aqri
ローラー
3/91

3 見える者、見えない者

 編入してきたころから瀬那君は凄くて。オーラというか、一般人じゃないっていう雰囲気? テレビとか映画で見る人が目の前にいるっていうのは芸能専攻でもあんまりある事じゃないから、クラス中がざわざわしてました。笑顔がきらきらしていて、女子はみんなきゃーって感じ。

 それで、皆瀬那君にあれこれ質問して、クラスの中心になるのはすぐでした。自分の専門じゃないのに瀬那君と同じ授業をしたいからって瀬那君の選択授業追加する子もいたくらい。瀬那君は皆に優しくて、テレビで見る以上に本当に良い人でした。私にも明るく話かけてくれてました。

 だから、「ローラー」を紹介されるのは時間の問題かなと思ってました。二、三日もしないうちに今日帰りに公園行こうって誘われてて。ああ、私だけ見えないってわかったらもう話してくれないかなって寂しくなったの覚えてます。


「埜口さんは公園行かないの?」


 瀬那に話しかけられ、万由は一瞬迷ったが「うん、ピアノの練習あるから」とだけ告げた。現実逃避に練習に没頭していたわけではない、本当にピアノの練習に打ち込んでいたのだ。もう少し、あと少しで何かが掴めそうだった。自分だけの演奏、自分だけのピアノの世界を。ピアノの先生も何かを察したらしく、「埜口さんが自分で納得するまで一人で弾いてごらん」と一人にしてくれる時間が増えた。それがありがたく、一心不乱に練習していたのだ。


「じゃあ行くね」

「埜口さんってさ、別にいじめられてるわけじゃないのに何かみんなと距離あるよね」


 突然核心を突かれ、一瞬足を止めたが振り返らずに答える。


「そうだね。何でだろうね」


 今日公園に行けばわかるよ、と心の中で呟き万由は音楽室へと向かった。

 翌日、学校に来るとなんだか教室が微妙な雰囲気になっている。女子が少し元気がないように見えた。


「おはよう、埜口さん」


 瀬那に笑顔で挨拶をされ、埜口もわずかにほほ笑む。


「おはよう。なんかあった? なんか静かだけど」

「ああ、それね。ねえ、はっきりさせるけど埜口さんがクラスに馴染んでないのってローラーとかいうよくわかんないモノが見えないからでしょ?」

「……」


 本当にストレートに聞いて来るな、と少し驚いた。否定せず小さく頷く。すると瀬那はにっこり笑った。


「あのね、俺も見えなかったよ」

「え?」

「みんなが必死に何も入ってない段ボール指さしてローラーがいる、ローラー見えないのって言うんだ。話し合ったけど、俺には何も見えないってことで一応決着ついた。それでもしかしてって思ったんだ、埜口さんもじゃないかなって」


 話をしながらちらりと周囲を見れば皆小声でひそひそ話している。嫌味を言っているという感じではなく、戸惑っているような雰囲気だ。瀬那も見えるに違いないと信じていたのだろう。特に歌専攻の四人組はなるべく瀬那を見ないようにしているようだ。目が合わせられない、という感じだ。


「俺だけかと思ったけど、良かった、埜口さんもだった。ま、少数派だけど見えない者同士、仲良くしよう! 俺、もっと埜口さんと話してみたかったんだ」


 握手を求めるように手を出されて、万由は目を丸くした。そして一瞬迷ったが、一応握手をする。その瞬間、クラス中の女子から驚愕と妬みと切なげな視線を感じ少しいたたまれなくなった。


「放課後皆ローラーの世話に行ってるみたいだから、俺たちは放課後他の事しよう。ピアノ聴きに行ってもいい? 一回聞いてみたかったんだ。凄いらしいじゃん、埜口さんのピアノ」

「え、まあ、いいけど……瀬那君は? 演技専攻の授業いいの?」

「音楽も演技に影響出るって、たぶん!」


 あはは、と笑う瀬那につられて万由も少し笑う。

 皆、瀬那と一緒にいたがっているのは明白だった。見た目がかっこいいのは当然だが、性格も明るく社交的でリーダーシップもある。女子はクラス全員といっていいくらい瀬那の気を引こうとしていた矢先だ、はっきりと線引きをされてしまった。


 万由にしていた事をクラス全員がされたのだ。




 瀬那に関する説明は埜口の音声説明と手元の資料を見ながら進められた。埜口の話の他、他のクラスや教師から見た二人の様子などが書かれている。


「この辺りは埜口万由の話と、隣のクラスから見たこのクラスの様子を総合的に判断した。この時から埜口万由は校内の女子から羨ましがられるポジションになった」

「その後にいじめは」

「本人も周囲も否定してる。金持ちコースと違って芸能コースは優秀で当然だ、埜口自身も当時メディアや音楽関係の専門家から少しずつ注目されて雑誌に取り上げられてたからな。編入早々リストの超絶技巧を涼しい表情で演奏しきったのはもう伝説になってる。だからまあ、才能ある奴の中でも特に才能ある者同士が仲良くなったって印象だったようだ。嫉妬はされても彼女はそれだけの実力があった。埜口万由は芸能専攻以外の通常の教科もほぼ満点、運動もできる文武両道タイプだった。加えてそれなりに美少女だったのもあるからな」

「映画出たんでしたっけ」

「ああ。その辺の話まで音声流すぞ」


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