1 絶対解決しない案件
「山吹さん、このファイルなんですか」
地下の資料庫で笛吹が手に取ったのは赤い外装のファイルだった。タイトルはなく管理番号だけつけられている。
「あーそれは複数案件の一つにまとめてファイルだ。ぶっちゃけて言えば絶対に解決しない本当の意味でのコールドケースだな」
「そんなものもあるんですね」
開いてみると何箇所かインデックスが付けられておりそこには変わったことが書いてある。
「あかりちゃん、家族通信簿少女、時の少女、お迎えさん。なんですかこれ」
「怪人ファイルって呼んでる。インデックスの一ページ目にそれぞれ簡単な概要載ってるから見てみ」
ペラペラとめくってみると確かに、それぞれ概要が載っている。ただし事件ではない。
「嘘つきを成敗するあかりちゃん、家庭環境に問題があると評価したり改善をする女の子、動かしたり止めたりする少女、家族に成りすまして勝手に迎えに来るモノ。それで怪人ファイルですか。彼女達は普通の人間ではないと」
「正体不明だし、これと言って事件らしい事件でもない。うちでコールドケースとして取り扱うにはちょっとジャンルが違うから、別枠だな」
「それにしても、怪人って言っても女の子ばっかりですね」
「よくわからん存在は純粋無垢な子供か美女って相場が決まってる」
「小太りの中年のおっさんが怪人とか嫌ですし」
「そりゃ嫌だけどさ、容赦ねえな。俺らだってあと十年もすりゃ中年に足突っ込む年なのに。それはともかく、人畜無害そうな存在だからそういうモノが似合ってるんだよ、不気味さが増すだろ。まあ例外もあるかな?」
「これですか」
一つだけインデックスの色が違う。書かれているのは「人材派遣のんちゃん」
「このゆるい雰囲気のインデックス名なんとかなりませんか」
「文句は課長に言ってくれ」
「あ、山吹さんのネーミングじゃないんですね」
「違うし」
「熱帯魚にグッさんって名前つけてるあたりで通じるものがあると思うんですけど。ちなみにあれグッピーじゃなくてベタですから」
「あ、そうなんだ。まあそのままでいいよ、魚は魚だ」
「はいはい。で、この人材派遣のんちゃんと言うのは?」
「そうだな、最近その怪人ファイルも整理整頓してないし新しい怪人もいろいろ出てきてるからデータの見直しがてらちょっと話すか」
新しい怪人増えてるんだ、とは思ったがコールドケースでない以上おそらく優先順位が低い。ただその怪人たちが関わった事件がコールドケースと勘違いをしないようにこうやって別のファイルに閉じているのなら、確かにデータの整理はやっておいた方が良いだろう。
「今回この人材派遣のんちゃんに関しては珍しく正体がわかっている。戸籍上の名前では小林なつき。とある人材派遣に勤める凄腕のワーカーだ。なんでそんなに凄腕かって言うと顧客の希望した通りの人材になって働くことができる」
「その含みのある言い方、得意分野が多いとかそういう話じゃないんですね。文字通りどんな人間にもなれるってことですか」
「察しが早くて助かる。まあ、そういうこと」
一般的なホームページには載らない、少々事情を抱えた者たちが利用するいわゆる裏サイトがある。法律にギリギリ引っかかりそうなことや、他人に絶対に事情を知られたくない者、本人に後ろめたいことがあったり、特定の者達に危害を加えられないように自分の身を守るためだったり。
その中でもとある人材派遣会社が人気を集めていた。この会社はエンジニアや事務全般など、何かに特化したスキルを持つ者の派遣ではない。友人や恋人のふりをしたり、その会社に勤めるふりをして内部調査をしたり。要するにグレーゾーンを当たり障りなく処理をしてくれる者たち。外部の人間なので依頼した会社に痛みがあるわけではない。当然人材派遣会社もプロなのでトラブルを起こすようなことや警察沙汰、弁護士を呼ばれるようなヘマはしない。
個人の依頼から会社からの依頼まで幅広く取り扱うその人材派遣会社は、とにかくうまく仕事をやってくれると言う評判が良くなかなか予約が取れなくなってきた。それもまた人気を後押ししていたのだ。
「これだけ見ると別に普通にありそうな会社ですけど」
「普通か異常かって言われたら普通の会社だよ。普通じゃないのはたった一人のんちゃんだけだ」
「まあそんな感じですね、ファイリングされるくらいですから」
「のんちゃんは別に何か害があるわけじゃない。誰かを傷つけたり、事件が起きたり、迷惑かけてるわけでもない。ただそういう存在ってだけだ」
山吹が指差した箇所にとある概要が書かれている。




