11 熱帯魚
お や つ だ よ 。
「ブモ……?」
凄まじい悲鳴が聞こえた。タブレットで操作しているのであちらの音を拾っているようだ。山吹は呆れたように言った。
「うるせえから切っとけば?」
「いや一応、事の顛末を聞き届けておかないと」
「どうせお前扉開けといても聞こえるじゃん、6km先だけど余裕だろ」
「ええまあ」
なかなか死なない体になったせいなのだろう、いつまでも悲鳴が響いていたがしばらくしてようやく静かになり再び口笛を吹いて笛吹は四千八番のキーをロックした。
「さてと。えらいことになったスチールラックと、新しい掃除用具ロッカーと、掃除用具一式と、整理整頓グッズ買っておかないとな。あとはまた何かあった時用に何か置いておくか、鈍器を」
山吹は床に散らばった大量の紙の資料を拾いながら言った。
「手伝いましょうか」
「いやまぁ、自分でやったことだからこれぐらいは自分で片付けとく。先に上行って課長に報告しといて」
「分りました」
「ついでにグッさんにエサやっといて」
「ああ、はい」
言われた通り笛吹は一人事務所に戻ると課長に今回の顛末を説明した。特に叱りも注意もなく、後片付けと整理整頓をちゃんとやっておくようにとだけ言われて電話が終わる。
山吹の席に行ってパソコンの横に置いてある小さな水槽に入った魚に少量の餌をあげた。ツンツン、と優雅な所作で餌を食べるその姿は、話に聞いていた通り見惚れてしまいそうなほど美しい。
「グッピーだからグッさんていう名前なんだろうけど、グッピーじゃないんだよな」
エアレーションもなしに小さな容器に入れて飼うことができるのはグッピーではなくベタだ。ペットショップでよく見るヒレが長く美しいのはオスのベタ。ここにいるようなメスはヒレが短く地味な見た目をしている。熱帯魚などに詳しくない人が見たら確かにちょっと変わった形の大きなグッピーだと思うかもしれない。
通常はそのまま常温で飼うのだが、このベタは冷却機能の付いているサーモスタットが入っており水温が常に三度に保たれている。
ふふっと、吐息のような色気のある笑い声がする。
――別にいいんじゃないの。魚は魚なんだし
「貴女がそれでいいんだったら別にいいですけどね」




