7 四十年前の事件の犯人は
「今起きてる猟奇殺人の事件解決より、四十年前の事件を終わらせる方が先なんで。山上紗智子は捜査一課には渡せません」
「はあ? お前はさっきから何言ってるんだ!? いい加減にしろ、お前の行動は妨害行為だ!」
喚く安達を無視し、まっすぐ村上を見る。村上はひょい、と器用に片眉だけあげておどけたように見せた。
「村上紗智子。四十年前の猟奇殺人事件の犯人であり証拠品でもあるんで、ご同行ヨロシク」
「四十年前の犯人が彼女の分けないだろうが! もういい、お前は引っ込んでろ!」
ぐっと肩を掴まれた、が。
掴んできた腕をペシっと軽く叩いた。まるでハエでも払うかのように。その瞬間、ボギっと鈍い音が鳴る。
「あああああ!?」
突然その場に安達がのたうち回った。腕が折れたのだ。
「邪魔だ。両手足粉々にされたいのか」
そこで初めて山吹の雰囲気が変わる。いつもへらへらと軽いチャラ男のような奴だと言うのに、今目の前に殺し屋でもいるかのようだ。自分に怪我をさせたことも、威圧的な態度であることも、何もかもどうでもよかった。
怖い。今すぐこの場から逃げ出したい。
村上はそんな二人のやり取りはまるで気にした様子はなく面白そうに山吹に問いかける。
「私が四十年前の犯人だってどうしてわかったの」
今初めて自供が取れた。ただし年齢的に絶対にありえないのだが。それでも今の発言でいくらでも村上への措置ができるのだが、山吹は最初から逮捕等する気がなく至って普通に村上と会話を続ける。
「さっきまではどっちなんだろうなーって思ってたけど。君が何事も慣れるっていうワードを何回も繰り返すからあ~なるほどって思って。どんな方法がわからないけど、慣れちゃったってことだろ」
「そう、正解」
にっこりと嬉しそうに笑う村上の笑顔は本当に綺麗だと思う。先ほどまでの不思議で不気味な雰囲気ではなく、年相応の女の子の笑顔だ。いや、年相応かどうかはわからないが。
加藤と安達は一体どういうことなんだというようなことを言っている気もするが、そんなものにいちいち答えているほど暇ではないので無視した。
「どっちだと思う。歳を取らない事に慣れたのか、違う人間の肉体に慣れたのか」
山吹の言葉に笛吹は少し考えたようだが。
「犯行の特徴から行っても後者じゃないですか。ただし普通の人間ではない雰囲気だったのならもしかしたら見た目も本来の姿そのものになっていたのかもしれませんけど」
「すげえ、俺と全く同じ考えだ。三年前お前がいたらもうちょっと楽に事件解決したのになぁ」
「三年前は捜査一課どころか警察にもいないので」
「普通に考えたらたった二年で刑事になってるお前かなりすごいんだよな」
「ここに来るためのシナリオ通りの作られた昇進と異動だから別に何も凄くないですけど。まぁそれは置いといて、これで一応村上紗智子が四十年前の事件の証拠品としては確立されたわけですよね」
「そそ。頭の出来がそもそも違うから彼女を言いくるめるのなんて無理だし、正直力業も敵うかどうか微妙なところだった。どうしようかなって思ってたら、彼女結構協力的でさ」
「じゃあいきましょうか」
「あれ、来てくれるんだ」
「前から興味があったの、警視庁特殊課。未解決とされている事件を本当は解決していて、ありえない証拠品の数々もある。一般人は絶対に入れないところだから貴重じゃない?」
「まさか証拠品が自ら来てくれると思わなかった。ファストパスVIP扱いで案内するよ、助かる。今日もアンパンかと思ってたけど牛丼食えるな」
部屋一面を囲むグロテスクな者たちを目にしておきながら牛丼が食べられると言う山吹の言葉に他の二人は信じられないものを見るような目で見つめてくる。
「刑事ってやっぱりアンパン食べるんだ」
「いや、俺がコンビニに買い物に行くタイミングがいつも微妙で商品が補充されるギリギリ前なんだよね。だからいつも売れ残ってんのアンパンなんだ」
「栄養バランス悪いから卵も食べてね」
そのまま村上が自ら保管場所に来てくれる、それで全てが解決すると思っていた。しかしそうはならなかった。




