4 犯人との対峙
「あ、やばいって思ったんだよ。これヤベーやつだって。あの時は俺も新人だし呑気に聞き耳立ててる場合じゃないなって気づくのが遅れた」
「へえ、山吹さんがやべーって思うならやべえ少女だったんですね」
「茶化すな。まあなんかこう、ヤバイセンサーが何かを受信したんだよピピっと。村上が言った”貴方”ってのは誰に言った言葉だ? ってな」
「加藤美帆じゃないんですか」
「たぶん村上は俺らが到着した時から、俺らに話しかけてるなって思った」
「質問良いですか」
「おう」
「村上紗智子は山吹さんたちが動いてることを知っていた?」
「今思えばバレバレだったろうなあ。だって安達さん動き派手だったから。たぶん村上紗智子は本物のサイコパスだった。イカレた殺人鬼って意味のサイコパスじゃねえぞ」
「わかってます、本来の意味でのサイコパスですよね。もしかしたらサヴァン症候群でもあったとか?」
「たぶんな。サヴァン症候群でありながら足元にも及ばない知能指数だった、存在自体がチートだ。あんな逃げ場のない場所で犯人の独白ショーなんてやってんの、普通に考えりゃおかしいだろ」
「まあそうですね。じゃあ、まんまとおびき寄せられちゃったんですね」
「そうそう。それに気が付いてヤッベ、と思って」
「思って?」
「扉を蹴破ってお邪魔した」
「扉は」
「吹っ飛んだ」
「でしょうね」
突然の山吹の行動に安達は唖然とし、加藤も驚愕の表情で振り返っていた。ただ一人、村上紗智子だけは穏やかな笑みを浮かべている。飛んだ扉は熱帯魚の水槽に直撃して割れてしまった。
「割れちゃった」
「あ、ごめん」
なんとなく謝れば村上はふふっと小さく笑う。少女が花を見て綺麗だと笑っているかのように、無邪気な顔だ。
「馬鹿野郎!」
後ろから安達の怒鳴り声が聞こえる。入って間もない新人がいきなり無茶な行動したとしか映らない、実際そうなのだが、安達はものすごい形相で山吹を睨みつけている。おそらくこの件で成果を上げて捜査一課に戻りたいと申請をするつもりだったのだろう。この家に潜入する時も応援は必要ないのかと言う問いに対して急ぐ必要があるからと二人で来たが、要は手柄を自分のものにしたかっただけだ。
「怒鳴りながら入ってくるのもそれなりに馬鹿じゃないですかね」
「ほんとソレナー」
あはは、と笑うとどこからかカタンと音がした。勿論二人とも気づいたが構わず話を続ける。
「まああの状況はどうしようもないわけ、村上が自供したわけでもなんか証拠があるわけでもない。ただ、あのまま様子見てるだけだと取り返しがつかない事態になるかなって思って飛び出した。経験値なんてないから、野生の勘だな」
「まさか飛び込んで来るとは思わなかった。新人さん?」
「そ。配属されて一週間なわけよ、ハードモードじゃない?」
「お疲れ様」
二人の呑気な会話に安達は舌打ちをする。
「後で始末書ものだ」
「そんなことないですって。まあ今はこれだけ理解してくださいパイセン、俺らが特殊課の人間でずっと張ってたこともここに来る事もバレてるわけですよ。新人かって聞いたなら、俺に見覚えがないって事でしょ」
そう言うとようやく安達は異様さに気づいたらしい。警視庁特殊課は一般には非公開の部署だ、警察内でさえ捜査一課と一部の人間しか知らない。
その存在を知っていて、山吹を知らないとなると少し前の特殊課のことなら知っていると言うことになる。普通の者には不可能だ。
「なんなんだアイツは」
「文字通りに何者なんでしょうかね、強すぎでしょ」
「は?」
「腕力」
意味がわからなかったらしい安達は不審そうな顔で山吹を見る。なんで気がつかないのかなあと思いながら割れた水槽を指差した。
「俺は扉をまっすぐ蹴破りましたよ。左斜め前にある水槽に直撃するわけないじゃないですか。当たるなら村上です」




