2 壺の捜索
その言葉を聞いて笛吹は思いっきり伸びをした。やれやれ、といった感じだ。回収されたのならそれを探して取りに行かないといけない。事件の承認が仕事である自分たちの業務範囲内だ。
「もう事故として終わってるからこれ以上関係者に聞き込みとかするのはダメだってさ。まあどうせ誰に何聞いてもわからんだろうが」
「何もないところから壺探せって言われても」
いくら彼らが優秀な刑事といっても何もないところから何かをしろと言うのはもちろん無謀な話である。だから先ほどコネというコネを使いまくってどうにかしなければいけないと言ったのは、まさにその通りなのだ。
「そうなんだよな。一応何人か情報屋とか優秀な助手が一人いるんだけど」
「変なのばっか取り扱ってるオカルトショップの店員と知り合いなので聞きますか」
二人同時にしゃべったので二人同時に黙り込んだ。お互いを見つめ、何か打ち合わせでもしたのかと言うように素早く二人とも右手を出す。
「じゃんけんぽん」
山吹はチョキ、笛吹はパー。笛吹のコネを使う、ということになりそうな雰囲気だが、自分の手を見ながら笛吹は悔しがる様子もなく、冷静に言った。
「二人同時に自分のコネ使って調べればいいじゃないですか」
「ごもっとも。まあでも、先に笛吹のほうだな。そっち聞いてもらって優秀すぎる助手に託そう」
一旦会話を区切って二人同時にそれぞれ心当たりに連絡を始める。山吹はアプリを使って仕事をお願いするから予定を空けといてほしいと言う連絡をするだけだが、笛吹は電話をかけてあれやこれやと聞いている。
それほど会話をせず「ちょっと待て聞いてみる」と言うと山吹のほうを向いた。
「今聞いたんですけど現物あるそうですよ」
「はー、ほー。はあ?」
「いいリアクションしますね。ただし忠告されました。多分俺じゃだめだから、叶えられそうな願いを日頃から強く願い続けてる人間を連れて来いって」
「スピーカーにしてくれ」
相手に断りを入れてスマホをスピーカーでの会話に切り替える。山吹は軽く自己紹介をしてから詳細を尋ねた。
「どういうもんなのそれ?」
『結構前に売りに来た客がいたので買い取ったんですけど。取扱説明書によると」
「説明書あるんだ」
『ありますね、猿にもわかるように書いてあります。これによると叶えたい願いを毎日同じ時間に願うようにとのことです。そして願いが叶ったら段ボールでも何でもいいので壺を密閉すること。そうすると壺が消えているそうですよ』
おかしな事が書いてある説明書をそのままスラスラと読み上げる。笛吹はへえ、と感心したように相槌を打ち、山吹はケラケラと笑った。
「あーなるほど、だいたいわかった。その説明書に壺の正式名称書いてないかな」
『ありますよ。願望器、です』
「やっぱりね。ありがとう、今からその壺を受け取れそうな人向かわせるからキープお願い。売った人とかが買いに来たら、こっちは言い値で買うからって断ってくれるとありがたい」
『まあいいですよ、蓮の案件ですし』
「ありがとう」
笛吹がお礼を言って電話を切った。その様子を見ていた山吹はそっか、と一言。
「何かわかったんですか」
「笛吹の名前って蓮っていうんだな、今更だけど」
「本当に今更ですね。書類とかに名前書いてあるでしょう」
「つーか苗字にインパクトありすぎて名前まで見てなかった。そう言うけど、お前は俺の名前知ってるのか」
何気なく聞いてみると笛吹は即答する。
「そういえば知りませんでした」
「だろ。とりあえず苗字だけ知ってれば困らないからいいんじゃないか。まぁそれは置いといて、俺の勘だがここからはスピード勝負だ。多分俺らが動いてること売り手は気づいてる。回収に来るだろうからさっさと取りに行かないとな」
走り出しながら山吹はどこかに電話をかけ、二人は車に乗る。パトカーは緊急車両として飛ばせるが目立ちすぎるので普段は使わない。特殊課所有の普通車だ。
車でさほど時間は掛からなかったが、到着した雑居ビル三階にある怪しすぎる店に入ると店員が窓に向かって指をさした。
「ごめん、たった今壺買いに来た客が強奪して逃げてった」
窓から外を見ると確かに男が一人壺を抱えて全速力で遠ざかっていくのが見えた。見ていた山吹が「多分間に合う」と言って窓から飛び降りる。三階から飛び降りたというのに山吹は怪我をした様子もなくとんでもない速さで男を追いかけていた。おそらく数秒で追いつくだろう。
「そこから行ってくれって意味で言ったんじゃないんだけど」
「ツッコミどころがそこじゃないってツッコミをしたいけどまあいいか。客ってどんな?」
「入ってくるなり壺を売ってくれって言って。とぼけてみたんだけどなぜかそいつの前に壺が現れたんだよね。それ持ってあっという間に飛び出していった」
その客に心当たりがないと言う事は売りに来た人間では無いようだ。




