1 事件概要
事件概要。
マンション八階から海藤六実君(当時四歳)が転落死する事故が起きた。ベランダには大きめの植木鉢がありそれに上って転落したと思われる。
当時母親はマンション一階に併設されているコンビニに買い物に出ており、家を空けたのはわずか十分(監視カメラに記録あり)六実君が昼寝をしていたので少しの間ならと出かけたとのこと。
当時は痛ましい事故とされていたが、捜査の結果母親による事故を偽装した殺人ではないかという疑いが出てきた。
不審点1、ベランダは鳥の糞被害が酷く植木鉢を置くには適していない→わざと置いた可能性
不審点2、隣人は母親の怒鳴り声と六実君の泣き声を事故の三十分前に聞いており昼寝をしていたとは言い難い(後の取り調べにより叱りすぎたことを認め、六実君は泣き疲れて寝てしまったと供述)
不審点3、六実君は高所恐怖症なのでベランダに近づいたかどうか確証がない
不審点4、ベランダに出るドアはチャイルドロックがついている。使っていないことは不自然
母親が犯人と思えないポイント
1、母親がコンビニにいる間に六実君が落ちたので突き落すなどは不可能。また、母親は迷うことなく買い物を済ませ、急ぎ足でコンビニを出ようとしていた。「あの植木鉢に乗って外を見なさい」などの指示をしたとしても幼児がスムーズにそれをできる可能性は低くアリバイが崩れやすい
2、植木鉢は義母から送られたもので大きすぎてベランダに置くしかなかった(義母への聞き取りで事実と確認)
3、母親に育児ノイローゼなどはなし、家庭内や人間関係に問題なし。殺害の動機がない
4、高所恐怖症でも子供の視点なら柵が邪魔で外の風景は見えないはず。近寄った可能性は十分ある
「感想は?」
「母親が犯人じゃないですかね」
コールドケース取り扱いの部署、その事務所で今日も山吹と笛吹は事件の整頓をしていた。彼らの仕事は調査ではない、別のチームによって終わった事件の「承認」と証拠品保管だ。
「なんで?」
「直感で言いますけど不審じゃない点は全部子供の言い訳レベルです。どうにでも変えられますし。不審な点の方が論理的に説明できません。育児ノイローゼかどうかなんて、客観的判断できないじゃないですか」
「お前の直感って何か受信してるレベルですげえな、まあ正解。ただし母親を立件しないでこの事件、いや『事故』は終わってる」
「手段がろくでもないんでしょうどうせ」
「そらそうよ」
山吹はパソコンの資料を開く。出てきたのは一枚の画像だ。シンプルだが怪しげな見た目の壺が一つ写っている。
「幸せを呼ぶ百万の壺っぽいですね」
「惜しいな、百五十万だ。まあ、これを買ったわけよ母親は。なんて名前だと思うこれ」
「馬鹿製造器?」
「座布団一枚。正解は、願いを叶える壺」
「なんだ、やっぱり馬鹿製造器でしたね」
「まあな。だが今回はこれが本星なんだなあ」
次の資料は母親の育児に関する愚痴や不満を集めたものだった。主に匿名のコミュニティで子供なんて産まなきゃ良かったと頻繁に言っている。
「育児ノイローゼでは無いにしてもちゃんと不満は募ってたんですね」
「そりゃそうだろ、育児に何の不満がない母親なんているわけない、そりゃ神の領域だな。愚痴を言って終わりだったらそれでいいんだが、抱え込む人もいるわけだ」
ここまでくれば何となく想像がつく。この母親は願いが叶う壺を買って願ったのだ。子供がいなくなりますようにと。
「子供が生まれてなかったことにしてくださいとか、時間を戻してくださいとか、そういうお願いでもよかった気がするんだが。もしかしたら試して効果がなかったからこういう手段になったのかもしれないけど。こっからが本題な、この壺どこをどう探しても見つからないんだなぁこれが」
資料には母親が壺を買った確かな証拠が残っている。資料の写真は母親が自分のスマホに撮っておいた画像だ。
普通の警察だったらこんな調査をしないのだろうが、特殊課である同じ部署の者は事細かに全てを調べた。
「この壺を売ってた通販サイトは調べてもらってもサイト自体が見つからなかった。まぁもう二度と見つからないんだろう、そっちは重要じゃないからほっとく」
「この壺がないと承認ができない、俺たちの仕事が終わらない。回収されたのか、願いを叶えると消えてしまうのか。消えちゃってたらもう無理じゃないですか」
「それをはっきりと証明する必要があるんだよ。めんどくさいぞ今回の事件、結構時間がかかる。コネというコネを使いまくらないと評価にも響くし来月からトイレ掃除俺たちになるぞ」
「あ、それは別に嫌じゃないからいいです。仕事は仕事ですしやらなきゃいけないですからね。今のところ可能性が高いのはどっちなんですか」
「超有能なウチのダブルエース様達は意見が一致した。絶対回収されたっつってた。あと、次の客に渡る前に何とかしろってさ」




