2 オートマトンのユピテ
人間の形をしたモノに薔薇が巻き付き綺麗な花を咲かせている。薔薇はかなりきつめに巻き付いていて、一番新しいと思われる体は明らかに血まみれで肉が裂けている部分もあった。
「苦悶の表情浮かべてなければ美術館とかにありそうなんですけど」
「お前ウチの部署に来るだけあって肝すわってんな」
「何言ってるんですか、今時こんなの珍しくないですよ。行方不明の金田美空で……間違いないかどうかはわかりませんけど、たぶんそうです。なんとなく、雰囲気で」
「雰囲気ってなあ」
「すごい表情なんだからわかりませんて。それに復顔してもらわないと無理ですよ、欠けてるし」
金田と思われるソレは頭の形が変わっている。右側が陥没して顔も歪んでいた。
「ボッコボコにされたんですかね?」
「いやあ、自殺だろ。手足動かんから自分で硬い部分にヘドバンしまくったって感じだ」
そう言って山吹は顎でクイっと前方を示した。その方向を見るとガラス張りの部屋の扉が一部血まみれだった。おそらく頭を叩きつけた場所はドアノブだ。
辺りにギリギリギリ、という音が響いた。オイルの注されていない機械仕掛けのような音だ。その音はゆっくりと近づいて来るが、そこら中に薔薇が咲いていて蔓も蔓延っているので音の原因は目視できない。
「ホシが激怒っぽいですね、不法侵入で訴えてやるって言われたらどうします」
「機械音響かせる奴人間だと思うか?」
こんな状況だというのに二人は余裕だ、慌てる様子はない。おかしな現場やおかしなケースが多すぎて心臓に毛が生え過ぎた結果だが、二人とももともとこういう性格でもある。だからこそ向いているのだが、この仕事に。
姿を現したのはあちこち錆びて朽ちかけている人と同じ大きさをした人形だった。西洋風でドレスを着ていて金髪だ。頭には大きな薔薇が飾られており、綺麗だったら見事な逸品なのだろうと思わせる風格ではある。しかし今は服はボロボロで皮膚として使われている素材は剥げ落ち、異様な見た目をしていた。
「お化け屋敷で働いたらナンバーワンだな」
「この人形何で動いて……ああ、ゼンマイですか」
首を傾けて背後を見た笛吹は人形の背中に少し大きめのゼンマイがあるのを見た。手のひらほどの大きさがあるゼンマイはギイギイと大きな音を立てて回っている。先ほどから鳴り響いている音はゼンマイの音だ。
「自分じゃ油注せねえよなそこ、俺も背中痒い時届かない時あってさ」
「体硬いですね、ちょっと背中で手つないでみてくださいよ」
「うるせえ、右腕が上の時は手つなげるんだよ、左腕が上の時は無理だけど」
二人が軽口をたたいていると人形がガタガタと揺れながら右手を大きく振る。すると刃物となっている爪が30cmは伸び、それは血で赤黒く染まっている。
「殺意高いんですけど」
「激怒してるっぽい。まあいいや、漫才はこの辺にして。捜査一課の超使えん資料じゃなくて俺の作った資料見たならアレの正体言ってみ」
先ほどのゆっくりとした動作とうって変わってすさまじい速度で人形が二人に突っ込んできた。二人とも当たるすれすれのところでかわし、追撃で来た振り返りざまの一撃をさらにかわす。
「ガタガタなのに結構動きますね。樋口が裏で買ったオートマトンのユピテですか」
「名前調べてきたのは加点だ」
「それはどうも」
樋口は人間嫌いだった。それは屋敷にこもる前にさんざん周囲に怒鳴り散らしていたことだ。
「生きた人間は怠けるし寝るし非生産的な行動が多すぎる。働くなら二十四時間、一秒だって休まないものこそ至高だ、って耳にタコ出来る程言ってたって話だ。オートマトンや機械に莫大な資金援助をしてたらしい。人間の使用人は雇わず、こういったモンを買ってたらしいな」
「普通に流通してるものじゃ飽き足らず、裏世界で売られてたものに手を出して晩年は過ごしてたんですね」
ユピテは左手の爪も伸ばし先ほどよりも速度を上げて二人に襲い掛かる。山吹はひょいひょいと避け、笛吹は当たるか当たらないがすれすれのところをきれいに避けていく。




