1 ローラー事件
「じゃあ新人、おさらいからいこう」
「おさらいもなにも、ほぼ初見なんですけどこの資料の山」
警視庁のとある資料室に膨大な資料の山と男が二人。コールドケース専門に扱う部署は二人一組で調査を継続する事が導入され、異動してきた新人の男は初日からこのありさまだ。
時効が廃止となり未解決事件は山のようにあるが、事件は次々と起きる為コールドケースの調査は万年人手不足で間に合っていない。
そんな中配属された新人はまず資料を読む、のは時間がかかるので相方に概要をざっと説明されるところから始まった。
「ファイル名とかは覚えなくていい。通称で十分だ。今回は通称ローラー事件、マスコミには報道規制がかかったから知らん情報多いと思うぞ」
「確かに知りませんねこの事件」
「情報量多すぎるからかいつまんで説明する。××年10月3日、桜が丘ひかり学園で起きた事件だ。不可解な事が多すぎて調査は難航した。難航した理由はもう一つ、事件の核心を知っているであろう人物が事件当日に現場にいなかったから具体的に何が起きたのかわからんってことと、聞き取り調査の仕方に不満があったらしくニ回目以降は黙秘しちまって新しい情報が得られずってとこだな。ま、最初の調査の時本人同意のもと録音したモンがあるからこれを聞けばわかる」
「まずどんな事件なのかの説明欲しいんですけど」
「先入観なしで聞いて欲しいから今回は説明しない。ま、お前の直感を信じろ。録音流しながら要所要所で止めて紙の資料なぞるぞ」
「はいはい、まあそうしたほうがイイって言うなら任せます」
渡された紙の資料には音声記録、①埜口万由 11歳 と書かれている。
新人の返事に、男はパソコンの音声ファイルをクリックした。
埜口万由 音声記録
えっと、何から話せば……?
“きっかけと思われる事、初めからすべてお願いします。録音しているのは気にせず飲み物を飲んだり、休憩はいつでもとってください”
はい。
ええっと……私はひかり学園の芸能専攻です。
「あ、悪い。学校の説明してなかった」
「えー」
再生してわずが数秒で音声を止められわずかに非難のまなざしを向けられる。
「悪かったって。桜が丘ひかり学園は上流階級私立学園なんだが、単に金持ちが通う学校じゃない。金持ちコースと、芸能コースがある。芸能ってのはテレビに出る芸能人ってだけじゃなく、人一倍才能がある子供に最高の教育をするコースだ。主に芸術関係が多いな。絵画、音楽、デザイン、演技なんかは代表だが、これっていうクラスがあるわけじゃない。その才能に秀でていたらそれを伸ばせる講師を専属契約して授業をさせる。まあ大学の授業みたいなもんだ。基礎となる教科は全員一緒に一つの教室で受けるが、自分の特化した芸能授業に関しては各教室、講師のもとに自分から赴いて活動する。カリキュラムの半分は芸能授業だそうだ」
「まさにトップクラスの逸材を育てるための専門コースなんですね」
「そ。この埜口万由はピアノだ。まったくの無名でいきなり世界三大コンテスト総なめにした天才だ」
「ああ、どおりで名前聞いたことあると思いました」
「総なめにしたのはこの事件の二年後だけどな。んじゃ続き流すぞ」